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開発記録#132(2025/3/9)「リスク認識型取引ポートフォリオ最適化(RATPO)とリスク認識型取引スウォーム(RATS)アルゴリズム」

前回の記事に引き続き、今回も仮想通貨botの開発状況をまとめていきます。

Yodaka

今回も論文を基にbot開発を進めていきます。本記事のテーマは「金融市場でのポートフォリオ最適化」です。

論文の要約

  • 取引とリスク管理の観点から金融市場でのポートフォリオ最適化に焦点を当てている。
  • リスクを意識した取引ポートフォリオ最適化(RATPO)というタスクを定義し、関連する最適化問題を定式化している。
  • 効率的なリスク認識取引スウォーム(RATS)アルゴリズムを提案し、この問題を解決する。
  • RATSは粒子群最適化法を特化させたもので、ポートフォリオのパラメータ化を活用して大量の粒子による並列計算を可能にし、取引の重要な要素をカスタマイズして金融知識とトレーダー及びリスクマネージャーのニーズに対応する。
  • 実際の取引ポートフォリオを用いた二つのRATPOアプリケーションを示し、市場リスク(VaR)と損益測定を組み合わせた目的関数、市場感度とUEIs取引コストに関する制約を取り入れている。
  • RATSは小規模EOSのケースで最適解を特定し、ハイパーパラメータのチューニングに対するロバスト性を示している。
  • 大規模EOSのケースでは、ポートフォリオの目的値を顕著に改善し、リスクと資本コストを最適化しながらリスク限界を守り、期待される利益を維持している。
  • この研究は、効果的な取引戦略の実装と厳格な規制および経済資本要件の遵守との間のギャップを埋めるものであり、ビジネスとリスク管理の目標のより良い一致を可能にする。

仮説

Yodaka

仮想通貨の自動取引botを開発するために、上記のリスク認識型取引ポートフォリオ最適化(RATPO)とリスク認識型取引スウォーム(RATS)アルゴリズムの概念を転用できるのではないか?

以下に、そのためのステップとアイデアを提案します。

1. 独自の取引戦略の定義

  • 市場データの分析:仮想通貨市場は非常に変動が激しく、高いボラティリティを持っています。最初に、過去の価格データやボリューム、その他のテクニカルインジケーターを用いて市場分析を行い、有効と思われる取引戦略を定義します。
  • 戦略のテスト:定義した戦略を過去データに対してバックテストを行い、期待されるリターンとリスクを評価します。

2. ポートフォリオ最適化

  • 資産配分:異なる仮想通貨間での資産配分を最適化し、期待リターンを最大化しつつリスクを最小限に抑えます。ここで、RATPOの概念を利用して、リスクを考慮したポートフォリオ構築を行います。
  • リアルタイム最適化:市場状況の変化に応じてリアルタイムでポートフォリオを調整する機能をbotに組み込みます。

3. RATSアルゴリズムの適用

  • 粒子群最適化:RATSアルゴリズムを用いて、複数の取引戦略やパラメータの中から最適なものを選択します。これにより、効率的に多様な市場状況に適応する戦略を見つけ出すことが可能になります。
  • 並列計算の活用:多数の粒子を用いた計算を並列で実行し、高速に最適化プロセスを進めます。これにより、リアルタイム取引においても迅速な判断が可能になります。

4. リスク管理

  • 損失限定機能:取引リスクを管理するために、損失限定機能(ストップロス)を設定します。
  • リスク評価指標の導入:Value at Risk (VaR) やExpected Shortfall (ES) などのリスク評価指標を利用し、ポートフォリオ全体のリスク水準を常に把握し、調整します。

5. パフォーマンスの監視と調整

  • パフォーマンスの追跡:取引結果を定期的に分析し、パフォーマンスの追跡を行います。
  • 戦略の更新:市場環境やパフォーマンスの変化に基づいて、定期的に取引戦略を見直し、必要に応じて調整や更新を行います。
Yodaka

今回は、上記の2,3に焦点を絞ってプログラムを作成してみます。

コードの雛形

仮想通貨の自動取引botにおけるポートフォリオ最適化とRATSアルゴリズムの実装のためのPythonコードの雛形を以下に示します。

Yodaka

ここでは、Pythonのnumpypandasライブラリを使用し、粒子群最適化(Particle Swarm Optimization, PSO)のアプローチを基にしています。

1.必要なライブラリのインポート

import numpy as np
import pandas as pd
from scipy.optimize import minimize

2.ポートフォリオ最適化関数の定義

def optimize_portfolio(returns, covariance_matrix, risk_free_rate):
    num_assets = len(returns)
    
    # 目的関数(シャープレシオの最大化)
    def objective(weights):
        portfolio_return = np.dot(weights, returns)
        portfolio_volatility = np.sqrt(np.dot(weights.T, np.dot(covariance_matrix, weights)))
        return -(portfolio_return - risk_free_rate) / portfolio_volatility  # シャープレシオのマイナスを最小化

    # 制約条件(全ての重みの合計が1)
    constraints = ({'type': 'eq', 'fun': lambda x: np.sum(x) - 1})

    # 重みの初期値
    initial_weights = np.array(num_assets * [1. / num_assets])

    # 重みの境界条件(0から1の間)
    bounds = tuple((0, 1) for asset in range(num_assets))

    # 最適化
    result = minimize(objective, initial_weights, method='SLSQP', bounds=bounds, constraints=constraints)
    
    return result

3.RATSアルゴリズムの実装

class ParticleSwarmOptimizedPortfolio:
    def __init__(self, returns, covariance_matrix, num_particles, num_iterations):
        self.returns = returns
        self.covariance_matrix = covariance_matrix
        self.num_particles = num_particles
        self.num_iterations = num_iterations
        self.num_assets = len(returns)
        self.global_best = None
        self.global_best_value = float('inf')

    def optimize(self):
        particles = np.random.rand(self.num_particles, self.num_assets)
        velocities = np.random.rand(self.num_particles, self.num_assets)
        local_best = particles.copy()
        local_best_values = np.array([float('inf')] * self.num_particles)
        
        for _ in range(self.num_iterations):
            for i in range(self.num_particles):
                weights = particles[i]
                obj_value = -self.objective(weights)  # 目的関数を評価

                # ローカルベストの更新
                if obj_value < local_best_values[i]:
                    local_best[i] = weights
                    local_best_values[i] = obj_value

                # グローバルベストの更新
                if obj_value < self.global_best_value:
                    self.global_best = weights
                    self.global_best_value = obj_value

                # 粒子の速度と位置の更新
                inertia_weight = 0.5
                cognitive_component = 2.0 * np.random.rand() * (local_best[i] - weights)
                social_component = 2.0 * np.random.rand() * (self.global_best - weights)
                velocities[i] = inertia_weight * velocities[i] + cognitive_component + social_component
                particles[i] = np.clip(particles[i] + velocities[i], 0, 1)

        return self.global_best

    def objective(self, weights):
        portfolio_return = np.dot(weights, self.returns)
        portfolio_volatility = np.sqrt(np.dot(weights.T, np.dot(self.covariance_matrix, weights)))
        return -(portfolio_return) / portfolio_volatility

4.使用例

# 仮想通貨の日次リターンと共分散行列(サンプル)
returns = np.random.rand(10) * 0.01  # 10種類の仮想通貨
covariance_matrix = np.random.rand(10, 10)
covariance_matrix = covariance_matrix @ covariance_matrix.T  # 対称かつ正定値な共分散行列を生成

# PSOによるポートフォリオ最適化
pso_portfolio = ParticleSwarmOptimizedPortfolio(returns, covariance_matrix, num_particles=30, num_iterations=50)
optimal_weights = pso_portfolio.optimize()
print("Optimal weights:", optimal_weights)

コードの修正と拡張

仮想通貨の自動取引botにおけるポートフォリオ最適化とRATSアルゴリズムの実装を行う際には、以下のような課題が想定されます。

想定される課題

  1. 市場の急速な変動: 仮想通貨市場は非常にボラティリティが高く、価格変動が激しいため、リアルタイムでデータを処理し、素早く対応する必要があります。
  2. データの欠損やノイズ: 市場データには欠損値やノイズが含まれていることが多く、これによって分析の精度が低下する可能性があります。
  3. 過学習: 高頻度で取引する場合、過学習のリスクがあり、モデルが過去のデータに過度に最適化される可能性があります。
  4. 計算資源: 大量の計算をリアルタイムで行う必要があるため、計算資源の制約がパフォーマンスに影響を与える可能性があります。
Yodaka

これらの課題に対応するためにコードを修正・拡張する方法を提案します。

修正したコード

Yodaka

以下に、修正したコードを示します。

import numpy as np
import pandas as pd
from scipy.optimize import minimize

# 実際の市場データを取り扱うためのデータクリーニング関数
def clean_data(data):
    """欠損値を処理し、データを正規化する"""
    return data.fillna(method='ffill').dropna().apply(lambda x: (x - x.mean()) / x.std(), axis=0)

class ParticleSwarmOptimizedPortfolio:
    def __init__(self, returns, covariance_matrix, num_particles, num_iterations, inertia_weight=0.5, cognitive_coeff=2.0, social_coeff=2.0):
        self.returns = clean_data(returns)  # データクリーニング
        self.covariance_matrix = covariance_matrix
        self.num_particles = num_particles
        self.num_iterations = num_iterations
        self.inertia_weight = inertia_weight
        self.cognitive_coeff = cognitive_coeff
        self.social_coeff = social_coeff
        self.global_best = None
        self.global_best_value = float('inf')
    
    def optimize(self):
        particles = np.random.rand(self.num_particles, len(self.returns.columns))
        velocities = np.zeros_like(particles)
        local_best = particles.copy()
        local_best_values = np.array([float('inf')] * self.num_particles)
        
        for _ in range(self.num_iterations):
            for i in range(self.num_particles):
                weights = np.clip(particles[i], 0, 1)
                obj_value = -self.objective(weights)

                # ローカルおよびグローバルベストの更新
                if obj_value < local_best_values[i]:
                    local_best[i] = weights
                    local_best_values[i] = obj_value
                if obj_value < self.global_best_value:
                    self.global_best = weights
                    self.global_best_value = obj_value

                # 粒子の速度と位置の更新
                cognitive_component = self.cognitive_coeff * np.random.rand() * (local_best[i] - weights)
                social_component = self.social_coeff * np.random.rand() * (self.global_best - weights)
                velocities[i] = self.inertia_weight * velocities[i] + cognitive_component + social_component
                particles[i] += velocities[i]

        return self.global_best

    def objective(self, weights):
        """目的関数をシャープレシオで定義"""
        portfolio_return = np.dot(weights, self.returns.mean())
        portfolio_volatility = np.sqrt(np.dot(weights.T, np.dot(self.covariance_matrix, weights)))
        return -(portfolio_return) / portfolio_volatility

# 使用例
returns = pd.DataFrame(np.random.rand(100, 10) * 0.01)
covariance_matrix = pd.DataFrame(np.random.rand(10, 10))
covariance_matrix = covariance_matrix.dot(covariance_matrix.transpose())  # 対称かつ正定値な共分散行列

# PSOによるポートフォリオ最適化
pso_portfolio = ParticleSwarmOptimizedPortfolio(returns, covariance_matrix, num_particles=30, num_iterations=50)
optimal_weights = pso_portfolio.optimize()
print("Optimal weights:", optimal_weights)

コードの拡張点

  • データクリーニング: 実際の市場データを使用する際には、データの前処理を行うことでノイズの影響を減らします。
  • 粒子の速度と位置の初期化: 粒子の速度をゼロから開始し、更新式を適用することで、探索の安定性と精度を向上させます。
  • パラメータの調整: 慣性重み、認知係数、社会係数をパラメータ化し、これらの値を調整することで、アルゴリズムの挙動を最適化します。
Yodaka

コードの拡張点をより平易な言葉で解説します。

1. データクリーニング

データクリーニングとは、市場データの中に存在する欠損値やノイズ(不規則なデータポイントや誤りなど)を取り除き、データを一定のフォーマットに整える作業です。データがクリーンであればあるほど、アルゴリズムは正確に動作し、より信頼性の高い結果を得ることができます。このコードでは、欠損値を前の値で埋め (fillna(method='ffill'))、すべてのデータ列を標準化しています。標準化とは、データの平均を引いて標準偏差で割ることで、データのスケールを揃える手法です。

2. 粒子の速度と位置の初期化

粒子群最適化(PSO)は、粒子(解の候補)が解空間を動き回りながら最適な解を探索するアルゴリズムです。各粒子は「位置」と「速度」という二つの重要な属性を持っています。位置は解の候補を表し、速度はその粒子がどのように位置を変更するかを定義します。このコードでは、速度をゼロから始めて、アルゴリズムが粒子の初期動きをゆっくりと開始させ、徐々に解空間を広く探索するようにしています。これにより、粒子が最適解に素早く収束するのではなく、より多くの可能性を探ることができます。

3. パラメータの調整

慣性重み、認知係数、社会係数はPSOの重要なパラメータです。これらは粒子の速度更新に影響を与え、アルゴリズムの探索性能を大きく左右します。

  • 慣性重みは粒子が前の速度をどれだけ保持するかを決定します。値が大きいほど、粒子はその動きを長く維持し、広範囲を探索することができます。
  • 認知係数は粒子が自身の過去の最良位置にどれだけ強く引き寄せられるかを表します。この係数が高いと、粒子は過去の成功体験を重視し、それに近づこうとします。
  • 社会係数は群れ全体の中で最も成功している粒子に、他の粒子がどれだけ強く引き寄せられるかを示します。この係数が高いと、粒子はグループの知識を利用してより良い位置に移動しようとします。
Yodaka

これらのパラメータを適切に調整することで、アルゴリズムの探索効率と精度を最適化でき、さまざまな市場状況に対応する柔軟性が向上します。これらの拡張は、仮想通貨取引botの性能を向上させるために非常に重要です。正確なデータ処理、適切な探索開始、そして適切なパラメータ調整により、botは市場の機会をより効果的に捉え、リスクを管理しながら利益を最大化することができます。

まとめ

今回は「金融市場でのポートフォリオ最適化」のために「効率的なリスク認識取引スウォーム(RATS)アルゴリズム」を用いるアプローチについてまとめました。

開発を進める過程で「粒子群最適化(PSO)」という最適化手法について知ることもできました。

ここからは、このコードで実装を試みることに加えて、リスク評価指標の導入も行えるようにコードを修正していきます。

今後も、この調子で開発の進捗状況を発信していきます。

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