📅 期間:2025年10月18日〜10月24日
🧭 今週のテーマ
「市場構造を再定義し、トレードbotの設計基盤を作り直す」
アービトラージbotの安定運用が一段落したため、
今週はトレードbotの理論設計と観測モデルの検証に注力しました。
主眼は「板・約定履歴・ティッカーを、どのように情報階層として扱うか」という構造的課題です。
Tickerの深掘りをきっかけに約定履歴も板情報も理解し直すことになった。曖昧なまま理解していた部分もあったので、再整理しておく。
・板(Orderbook) → 未確定の流動性("現在"と“(少し先の)未来”)
・約定(Trade) → 確定した意思(“過去”)
・Ticker → 集約された要約情報(“観測の要約”)— よだか(夜鷹/yodaka) (@yodakablog) October 16, 2025
🧩 1. 設計検証:需給観測モデルの再定義
まず立てた仮定は以下。超基本的なところからのスタートです。
板情報(Order Book)は潜在需給、約定履歴(Trades)は顕在需給を表す。
需給変化の速度と方向を観測できれば、短期的な価格変化を先読みできる。
この仮定を前提に、観測対象の階層構造を定義:
| 層 | 情報源 | 意味 | botでの利用目的 |
|---|---|---|---|
| 第1層 | 板情報 | 潜在的な供給・需要 | オーダーフロー変化を捉える |
| 第2層 | 約定履歴 | 実際の需給決着 | 方向性の確認・反転点検出 |
| 第3層 | ティッカー | 集約された価格系列 | トレンド方向の補助判断 |
これにより、「どの情報をどの時間軸で扱うか」を明確化できました。
つまり、(大枠では)この階層設計をもとに order_flow_imbalance(t, Δt) を中心とした観測モデルを実装することがメインタスクです。
⚙️ 2. 環境構築と検証体制
- ローカル環境でも需給観測型botの検証は可能であると確認。
- ただし、約定履歴と板更新をミリ秒単位で追跡する戦略の場合、VPSや専用サーバーが必須になる見通し。
CEXでは競合が強い傾向があるので、極端な高頻度設計は避けたいですが。 - 次段階で、
latency_probe.pyを実装し、各戦略ごとに「許容レイテンシ閾値(p99基準)」を設定する予定。
結論:
今週は「どこまでローカルで通用するか」を明確にした点が成果。
今後は「botの戦略ごとに適した実行環境を動的に切り替える設計」に進化させます。
🧠 3. 理論的裏付け:市場マイクロストラクチャの理解深化
需給変動の定量化を目的に、以下の論文群を精読しました。それぞれトレードbot構築における数理的裏付けとして活用しています。以下その一部を載せておきます。この記事で全部まとめ直すのは面倒だったので、読んだ論文と一言まとめをしたXの連続投稿リンクも掲載しておきます。
🧾 Order Book Dynamics in Liquid Markets: Limit Theorems and Diffusion Approximations
要点: オーダーブックの更新過程を確率微分方程式(SDE)としてモデル化。
流動性の時間発展を拡散過程(Diffusion Process)で近似できることを示す。
応用: 板更新イベントの密度を確率過程として扱い、
「需給変化の速度」を明示的に数値化できる枠組みを得た。
リンク:Order book dynamics in liquid markets: limit theorems and diffusion approximations
🧾 Microstructure and Market Dynamics in Crypto Markets
要点: 仮想通貨市場の高頻度データから流動性供給・需要の不均衡を分析。
応用: 板厚・スプレッド・アグレッサー行動の統計的関係をbot観測指標に転用可能。
リンク:Microstructure and Market Dynamics in Crypto Markets
🧾 Modelling Sentiment and Trader Aggressiveness in Cryptocurrency Markets
要点: 「アグレッサー度」を定義し、トレーダーの攻撃的・防御的姿勢が約定方向を決定することを実証。
応用: 約定履歴を単なる“結果”ではなく、“市場心理の投影”として解釈する観点を獲得できた。
リンク;Modelling sentiment and trader aggressiveness in cryptocurrency markets: An empirical analysis of the Bitcoin limit order book.
🧾 High-Frequency Dynamics of Bitcoin Futures: An Examination of Market Microstructure
要点: BTC先物市場の高頻度データから、取引密度と価格変動の時間相関を解析。
応用: 「流動性ショックの伝播速度」を測る指標の設計の参考になった。
リンク;High-frequency dynamics of Bitcoin futures: An examination of market microstructure
観測時間窓の範囲を絞る参考にした。OFI(注文フロー不均衡)⇄ 価格変化は線形・深さに反比例。https://t.co/2NMGPWwsnM
— よだか(夜鷹/yodaka) (@yodakablog) October 24, 2025
Binanceでの主要5通貨の価格ダイナミクスの説明と予測における市場ミクロ構造指標の役割を調査したもの。趣旨は「板・約定由来の“定番マイクロ構造指標”だけで、短期のボラ/自己相関など“実務に効くダイナミクス”を予測できる。キーは Roll と VPIN。BTC/ETHは相互に影響。」https://t.co/YIw8ONrQfj
— よだか(夜鷹/yodaka) (@yodakablog) October 16, 2025
需給の不均衡について。私が感覚レベルで認識していた「需要↑かつ供給↓の一致」を理論・実証で裏打ちする内容だった。https://t.co/2NMGPWvUye
— よだか(夜鷹/yodaka) (@yodakablog) October 15, 2025
🧬 4. 思考の深化:「市場の死んでいる要素」を見る
今週改めて気づいたこと:
「市場の自由度(速度・確実性・流動性の質)のいずれかが欠けている局面ほど、構造的歪みが発生しやすい。」
つまり、“死んだ市場”は歪みが顕在化しやすい戦場であるということです。
今後これを形式化するために、market_health_score() を以下のようなイメージで設計予定。
- スプレッド、出来高、板厚、キャンセル率などを統合し、
市場健全度を0〜1で算出。 - スコアが低い市場=botの優位性が発揮しやすい。
この考え方はHFTとは逆で、
**「動的な市場」ではなく「静的な市場での歪み検知」**を目的としています。
超粗い分類ではあるが、私、特定の条件下で「需給の増減」という4象限を主軸にして「速度」「確実性」「流動性の質」という3つの補助軸でトレードするという基本の型があったんだけど、これらのうちいくつかの要素が死んでると「トレードしやすいな」と思ってた。NFTとかマイナーなトークンとか。
— よだか(夜鷹/yodaka) (@yodakablog) October 21, 2025
🧩 5. 抽象と具体の往復:仮定維持思考の再確認
AIに任せる部分と人間が保持すべき仮定を明確に切り分けるシステムの構築。AIを用いたbot開発のTips。
今週、久しぶりにAIと壁打ちしたり、自分なりのリサーチを気ままに行ったりしました。
その結論として、AIは「仮定の維持」を行えないため、
人間が抽象状態を保持し、AIには具体化・検証のみを担当させるのが最適だな、となりました。
(いつも同じ結論になるので、これもう何週目なんだよって感じではありますが)
この気づきから、
開発メモを分離し、
- 仮定
- 実験式
- 観測結果
- 再定義案
を連続的に更新していく運用に移行予定です。
「人間とAIのタスク分離」については、以下の本が参考になりました。
読了。主に株式市場における高速取引やAIの利用及びそれを取り巻く状況を解説した本。この手の資料でフラットな書き振りのものはレアなので参考になった。新書形式で簡潔にまとまっていてサクッと読めるわりに濃い内容だったし、リサーチの土台としても活用できる良著。https://t.co/AzFUmXweks
— よだか(夜鷹/yodaka) (@yodakablog) October 21, 2025
📈 6. 今週の成果サマリー
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設計進展 | 需給観測モデルの3層構造を確立。方向性予測の理論的骨格を明文化。 |
| 環境整理 | ローカル→VPS移行条件を定義。latency_probe実装方針決定。 |
| 理論補強 | 主要な論文を読了し、拡散過程・アグレッサーモデルを設計へ応用。 |
| 思考整備 | 抽象と具体の往復を明示化。開発哲学を記録する思考ログ体制へ移行。 |
🚀 7. 来週以降のタスク
・アービトラージbotの展開(①既存戦略の強化・スケール②新戦略の開発)
・トレードbotの黒字化(まずは需給分析型を作り込む)
優先度で見ると
| フェーズ | タスク | 目的 |
|---|---|---|
| Phase 1 | order_flow_imbalance() の実装と補助・発展系指標の作成 | 板と約定の需給非対称を定量化 |
| Phase 2 | market_health_score() 試作 | 静的市場の歪み検出(主にDeFi) |
| Phase 3 | トレードbot(需給解析型)の初期プロトタイプ構築 | 方向性予測精度の検証(目標:55%以上) |
| Phase 4 | 環境適応テスト | ローカル⇄VPS間の最適化評価 |
✍️ 所感
アービトラージbotが“結果に反応するbot”だとすれば、
トレードbotは“原因を先に読むbot”。
この1週間は、その「原因を構造的に定義する」ための基礎工事期間でした。
今後は、理論を式に、式をコードに、コードをbotに落とし込む段階へ進みます。
今はざっくりこんなイメージで触ってる(流動的だけど)。 https://t.co/ISnmIqpM9Z pic.twitter.com/96JQBbf0fR
— よだか(夜鷹/yodaka) (@yodakablog) October 23, 2025