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Perp(永久先物/無期限先物)まとめ【基礎・基本編】

2025年9月21日

裁量でもbotでも共通していることはそれなりにあるので、考え方のコアになる部分だけざっとまとめました。

perp(永久先物/無期限先物)では原資産に紐づいた価格になるような設計の商品を仮想的に取引している。

構造・性質としては証拠金を前提としたレバレッジ取引でもある。デリバティブの一種。

この市場で実際にやり取りされているのは「永久先物」&「資金調達料」の2つ。もう一つ大事な要素は「清算」。以下でこの3つの要素を中心にperp(永久先物/無期限先物)についてまとめる。

永久先物と証拠金

一つ目の永久先物とそれを支える証拠金について。

これは、事実上仮想の商品なのでそれを取引する人たちは注文執行のベースとなる「証拠金」を預ける必要がある。証拠金は永久先物取引市場への参加条件(チケット)みたいなもの。証拠金は「①初期証拠金(IM = Initial Margin)」「②維持証拠金( MM = Maintenance Margin)」の2種類がある。

新規建て(ポジションオープン)に必要なのが「初期証拠金」。要求率はレバ倍率・銘柄・ティア(規模)などで決まる。例えば、レバ10倍なら必要証拠金率は10%として算出する。一般的には名目建玉(ポジション規模)が大きくなると、取引所ごとのティア制(段階的な維持証拠金率設定)に応じて必要な初期証拠金が上がる。

ポジション維持に最低限必要なのが「維持証拠金」で、これは精算のトリガー水準として機能する。通常、初期証拠金よりも低い割合で設定される(0.5~数%)。これを下回ったら「このポジションは危険」と判断され、清算が発生する。マーク価格(外部指数やフェア価格)で判定するのが一般的。

取引所は ポジション残高(証拠金+含み損益) をリアルタイムで監視し、

  1. 初期証拠金があるかどうか(建玉可能か)
  2. 維持証拠金を下回っていないか(維持可能か)

この2段構えで「清算ラインに触れたかどうか」を判断している。

精算判断は、約定価格・ポジション方向/サイズ・未実現損益・手数料・マーク価格などを使って計算される精算価格/破産価格に基づいている(清算については後ほど詳しく触れる)。

一般的には、ポジション規模が大きいほど取引所から高い維持証拠金率が要求される。
この「2段構えの証拠金のシステム」があるおかげで、取引所は安定稼働を続けることができる。

また、証拠金モードはCross(クロス:口座全体の余力で耐える)とIsolated分離:ポジションごとに証拠金を固定)があり、それぞれ挙動が異なるため、戦略とリスク許容度に応じて選択することになる。

チェック項目

・実行可能なレバレッジ倍率
・維持証拠金率
・証拠金の構造

・ティア別MM率のしきい値
・マーク価格の仕様
・証拠金モード(クロス/分離)

資金調達料(Funding)とFunding Rate

2つ目は資金調達料(Funding)。永久先物市場では、ポジション(ロング/ショート)を持っている人達同士(永久先物の保有者)の間で特定のルールに則って自動的にお金の受け渡しが行われる。この時にやり取りされるお金のことを資金調達料(Funding)と呼ぶ。支払いも含めてFundingと言うこともある。

この制度の目的は、仮想の商品である永久先物の価格を原資産の価格に寄せる(原資産から逸脱した価格にならないようにする)こと。

Fundingの支払いはポジションの損益とは直接関係なく、『Perp(永久先物)と現物(インデックス)の乖離』を調整するために定期的に行われる。

Perpが現物より高ければロングがショートに払い、安ければショートがロングに払う。

“perpが現物より高いか?”の判定は、Mark と Indexで比べるのが基本。多くのCEXでは Mark Price と Index Price の関係や、Markから導く“理論的乖離”でFRの向き・強さを決める。
・Index:複数の"現物"取引所の価格の加重平均/それらを合成した参照値
・Mark:その取引所が公開しているMark Price(Indexに「短期の乖離(ベーシス)」や平滑化を重ねたもの)
IndexやMarkの算出方法なども取引所によって異なるため、取引を行う場合はこの点も要チェック。

この制度があることで、市場参加者達は市場価格から大きく逸脱したポジションを抱えるリスクが大きくなると同時に、安いポジションを抱える参加者達にもFundingの支払いがあるため、ポジションを保有するインセンティブ(利益/旨み)が生じる。

その結果、(理論上は)参加者達の提示する注文のサイズや量が市場で取引が活発に行われるものへと調整されやすくなり、市場の健全性が担保される。

なお、何らかの方法でこの部分のリスク管理を他の参加者よりも上手に行えるプレイヤーにとってはこの限りではないため、他の参加者よりも有利に立ち回ることができる。(大抵の場合、この管理をいい加減にやっている人が損をするので、本気で市場から歪みを抜きたいのであれば、ここを徹底的に掘るのも良い)

資金調達料は、基本的に「原資産とperp価格の乖離」「原資産の価格」との比率を元に算出される。(算出方法は取引所ごとに公開されているので要確認)

資金調達料の支払われる額は保有ポジションのサイズと数によって変動する。サイズと数が大きいと支払額も大きくなる。

資金調達料の算出に使われるのがFunding Rate(よくFRと略されるやつ)。

この算出モデルは取引所によって細部が異なっていて、価格算出の参照元を複数市場の加重平均にしているところもあれば、板の直近の約定価格をベースにして算出しているところもある。乖離(プレミアム/ベーシス)に加えて金利成分を含む場合もある。多くのCEXではマーク価格(外部指数やフェア価格)を用いてFRや清算の基準を定義しているが、取引所によって本当に様々な算出モデルが存在するため要確認。

算出にかかる主な数値は3種類。
・Index Price(インデックス):複数市場の現物取引所の加重平均などで算出。市場価格の基準値。Indexは現物を参照した値。
・Mark Price(マーク価格):精算判定・未実現損益計算用の"フェア値"。その商品の制度用“物差し”。通常、Index Priceに小さなプレミアム推定を加えてスムージングしている(急騰/急落/釣り上げ対策)。Perp(商品)の“基準として使う価格”がMarkと覚えておくと混乱しない。
・Last Price(約定値):板の取引で決まる実売価格。指値/成り行きの約定価格がこれにあたる。

この算出モデルの如何によっては時間経過によるリスク推定などが絡んでくるため、オプション理論をベースにした戦略設計(デルタニュートラルなど)が可能になる。つまり、perp関連の知見と併せてオプション理論も学んでおくと、より高度な戦略設計やリスク管理手法を確立することができるようになるので早めに勉強を済ませておくのがおすすめですよってこと。

また、FR算出には、上記のような単純な乖離だけでなく「金利差(資金調達コスト)」を組み込んでいる取引所もあるので、「乖離補正+金利成分」でFunding Rateを算出しているケースもある。

これは取引所がどのような性質のリスク管理を重視しているかによって変わる。ここは、取引所の設計思想や法制度の影響を受けやすい部分でもある。この辺りをしっかり確認しておくと個人レベルでのリスク管理が一段階レベルアップするのでおすすめ。

資金調達料(funding)が支払われる頻度は取引所ごとに異なるが、通常1日のうちに複数回の決まったタイミングでfundingの支払いが実施される。(8時間毎に設定されているものもあるし、6時間毎に設定しているところもある。DeFiプロトコルだと1時間毎に支払われるところもある)

Fundingの支払いタイミングは固定。しかし、FRはインジケータとしてはリアルタイムで更新されるので、ここを観測することでポジション管理(新規注文/サイズ調整/手仕舞い/利確など)の指標の一つとして活用することもできる。

つまり、「FR更新はリアルタイム、Funding支払いは固定タイミング」ということ。

まとめると、perp市場には「高い側が低い側にお金を渡すことで低い側が存在するインセンティブを維持して様々な立場の市場参加者(相対的に優位な方も不利な方も)が存在できるようにしているため、結果的に市場の価格が現物価格に収束する」という理屈が前提にある。(この前提が崩れると市場が歪む)

チェック項目

・Fundingの算出方法
・Fundingの支払いタイミング
・Funding Rateの算出方法

・参照価格(マーク/インデックス/加重平均)の仕様
・FRの式に含まれる金利成分の有無
・更新頻度と実際の支払い間隔

精算

3つ目の要素「清算」。これは、永久先物の大きな特徴。取引所にとっては板の健全性を保つための仕組みの一つ。

ここで言う「清算」とは「そのユーザーのポジションを市場で強制的に反対売買する」行為。

清算の発生条件は参加者が持っているポジションが含み損を抱えていて、これが証拠金維持に困難であると判断されるライン(清算ライン)に引っかかること。

清算ラインに引っ掛かると、ロングならショート、ショートならロングとして処理してポジション自体を打ち消そうとする処理が発生する。この時の注文方法は成り行きだったり、取引所独自の注文方法だったり色々ある。

清算ラインのジャッジも取引所ごとに細かい部分で差異があるが、基本的にはそのポジションを現実的に処理できると推測される範囲内に収まるように計算される。なお、取引市場の安定稼働などの観点から精算ラインの計算式から算出される推定値よりも少し早めに精算されるのが一般的。

通常、この清算プロセスは強制的に発生し、清算発生のタイミングでユーザーは損失を埋めるのに必要な分の証拠金を没収(強制決済)される。没収された証拠金はポジション決済で発生する損失を吸収するための担保として使われる。損失補填して余った分はユーザーに返ってくる場合もある。(取引所が没収した証拠金をネコババするわけではない)

CEXでは通常、清算エンジンが成り行きor特殊なオークション注文を板に投げて処理する。しかし、これはあくまで基本的なケースであり、処理フローは取引所ごとに仕様の差がある(部分清算/内部マッチング/清算専用オークションなど)。

急落・急騰時に謎の成り行き注文がドカンと出ることがあるのは清算エンジンの動作である場合が濃厚。市場に流れるのはあくまでポジションなので、その決済で発生する損失をカバーするために没収された証拠金が用いられる。

各取引所では、主に「この精算プロセスの発生を如何にして回避するか」と「精算発生時に市場に落とされた反対注文を処理できなかった時の対策を講じる」と「精算発生後にその処理が円滑に行われるような実行フローの整備」の3パターン(もしくはその組み合わせ)で先物市場の安定稼働を実現しようとしている。

例えば、上記の精算プロセスで市場に落とされた反対注文が処理しきれない時は、「保険基金」から資金が補填されてポジション処理が行われるシステムを採用している。「保険基金」とは取引所が保有する「市場の損失補填のための余剰金」のこと。

因みに、保険基金でも精算プロセスの処理を吸収できない場合は、設計によってはADL(Auto-Deleveraging)が発動して、反対側の高レバレッジ/高順位のポジションから順に自動的に縮小されることがある。(ここも取引所ごとに開示基準や順位ロジックが異なる)

しかし、取引所によってはこの余剰金システムをどのように運用しているのか公開していない(≒調べても見つけられない)ところもあったり、そもそも「市場の損失補填のために別のシステムを採用している」ケースもある。この点も取引所毎に仕様が異なるので各自で要確認。

この辺りはDeFi関連のプロトコルを見てみると参考例がそこなりに見つかる(ネイティブトークンの発行で補填するなど)が、そこまで詳しく書いていると本記事の趣旨とズレてしまうので今回は割愛。

なお、清算は市場安定のために早めに執行されることがあり、計算上の理論境界よりも手前でトリガーされる設計も一般的。ギリギリまで耐えるはずなのに、早めに清算を喰らう原因の一つはこれ。

まとめると、精算プロセス実行時に生じた不足分は保険基金などでカバーするのが基本だが、保険基金をシステムとして明示していない取引所もあるので、取引所の仕様については、自分で具体的な設計を調べる必要がある、ということ。

清算を過度に恐れる必要はないが、「spotからの乖離が大きく、ハイレバなポジション」であるほど清算に引っかかりやすくなるので、「厚めの証拠金+低レバ運用」で清算を避けるのが基本。

チェック項目

・清算(価格)/破産(価格)の定義
・精算発生の条件
・精算処理の過程
・精算ラインの判定ロジック(計算式)
・精算が実行できなかった場合の対策
・そもそも精算処理をどのように捉えているか
・保険基金の残高・補填ルール
・ADLの有無と順位ロジック

総括

まとめると、永久先物は、現物と結び付けるFunding設計と、極端な価格乖離や債務超過を防ぐ**清算(+保険基金/ADL)**で市場の安定を図る“常設期限なし先物”であると言える。

実運用では、マーク価格・ティア別MMR・FR式・清算/ADL仕様・証拠金モードの5点を取引所ごとに把握することが、リスク管理と戦略設計の出発点となる。

で、どうするか?

上記以外の点では、永久先物市場でも取引にかかる手数料や注文の方法やサイズや金額設定などについては現物取引と基本的には同じようなシステムであるため、注意すべきことを抑えつつ、現物と同じような感覚でトレードできる。

ただし、先物であるという性質上、時間という概念を加えて諸々の価値・リスクや数値を理論上推定できるため、オプション取引の概念を組み合わせることができる。これは、金融市場についての研究が進んでおり、経済的にもさまざまな数式モデルが提唱されているためである。

そのため、永久先物とオプションの概念を両方とも理解していれば、 観測できる情報が増えて解釈の幅が広がり、現物取引よりも高度な戦略が実行可能である。

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