こんにちは、よだかです。
今日から『ミクロ経済学の力』を読んでいます。

bot開発に接続できる考え方やヒントを得るために読み始めたのですが、現時点ではまだ、直接使える具体的な方法を獲得できたわけではありません。
ただ、すでに自分がある程度触れているマーケットマイクロストラクチャなどの領域に対して、ミクロ経済学が源流にあたる部分を持っていることは少し見えてきました。
今回は、本書の1・2章を読んで得た内容をもとに、ミクロ経済学、マーケットマイクロストラクチャ、bot開発の関係について、現時点での理解を整理していきます。
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🛠️開発記録#558(2026/6/19)「金融マーケット予測ハンドブック(12章:テクニカル分析の基礎)」を読んで、botterとしての立ち位置を再整理した話
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1章 ミクロ経済学を読んで、すぐにはbotに接続できないと感じた
今回、『ミクロ経済学の力』を読み始めた目的は、bot開発に接続できる考え方を得ることでした。
私はこれまで、仮想通貨市場を中心に、板、約定、価格差、流動性、CEXとDEXの違い、アビトラ、執行コストなどを見てきました。
その中で、ある程度はマーケットマイクロストラクチャ的な領域に触れてきた感覚があります。
誰が価格差を作るのか。
誰がその価格差を消すのか。
なぜ価格差が残るのか。
どの市場が先に動き、どの市場が遅れて反応するのか。
見えている価格差は本当に取れるのか。
こうした問いは、bot開発においてかなり重要です。
そのため、ミクロ経済学を学べば、こうした市場の動きをより体系的に理解できるのではないかと考えました。
ただ、1・2章を読んだ現時点では、すぐにbot開発へ直接使える具体的な方法が見つかったわけではありません。
1章では、消費者行動の理論が扱われていました。
効用。
予算制約。
無差別曲線。
限界代替率。
所得効果と代替効果。
需要の価格弾力性。
2章では、企業行動の理論が扱われていました。
生産関数。
労働と資本。
限界生産性。
費用。
利潤最大化。
固定費と変動費。
短期と長期。
どれも重要な概念だとは思います。
ただ、これらを読んだからといって、そのまま「この指標を作れば勝てる」「このモデルを使えば裁定機会を見つけられる」という話にはなりませんでした。
むしろ、強引に接続しようとすると危うさも感じました。
たとえば、消費者理論で出てくる効用最大化を、そのままトレーダーの行動に当てはめることはできます。
トレーダーも何かを最大化しようとしている。
利益かもしれない。
リスク調整後リターンかもしれない。
在庫調整かもしれない。
短期損失の回避かもしれない。
そう考えれば、消費者理論と市場参加者の行動を接続することは一応できます。
しかし、これはかなり抽象的な接続です。
現実の市場では、トレーダーは単に効用を最大化しているだけではありません。
情報差があります。
レバレッジがあります。
強制清算があります。
手数料があります。
スリッページがあります。
約定しないリスクがあります。
他のbotが先に動く可能性もあります。
取引所ごとのルールや流動性の違いもあります。
そう考えると、ミクロ経済学の初期モデルをそのまま市場に貼り付けるのは、かなり乱暴です。
企業理論についても同じです。
生産関数や限界生産性の考え方は、自分のbot開発におけるリソース配分に接続できそうではあります。
どの観測機を作るのか。
どの市場を掘るのか。
どの戦略に時間を使うのか。
追加の実装時間に対して、どれだけ判断精度が上がるのか。
どこから先は限界効果が落ちるのか。
こうした問いには使えそうです。
ただし、これもまだ直接的な売買シグナルではありません。
あくまで、自分の作業や市場理解を整理するための補助線です。
つまり、現時点での感触としては、ミクロ経済学はbot開発の即戦力になるというより、もっと手前にある考え方のように見えました。
価格とは何か。
制約とは何か。
費用とは何か。
限界的な変化とは何か。
均衡とは何か。
主体は何を目的に行動するのか。
こうした問いを整理するための基礎言語。
それが、今の段階で見えているミクロ経済学の位置づけです。
なので、今回の読書では、すぐに使える実装アイデアを得るというよりも、自分が持っている知識と、これから学ぶべき知識を仕分けることの方が大きな収穫になりました。
ミクロ経済学は、まだ遠い。
でも、無関係ではない。
むしろ、マーケットマイクロストラクチャやbot開発に進む前の、かなり源流にある理論なのかもしれない。
そう考えると、今すぐ使えないこと自体は、それほど問題ではないのだと思います。
大事なのは、これを直接botに接続しようと焦ることではなく、どの知識がどこにつながっているのかを整理しながら読み進めることです。
2章 ミクロ経済学は、末端の実装ではなく源流に近い
1・2章を読んで感じたのは、ミクロ経済学はbot開発の末端にある実装知識ではなく、かなり源流に近い理論なのではないか、ということです。
私が普段見ているものは、もっと末端にあります。
板。
約定。
スプレッド。
流動性。
価格差。
手数料。
スリッページ。
レイテンシ。
取引所間のズレ。
DEXプールの歪み。
これらは、かなり実戦に近い情報です。
botを作るなら、最終的にはここまで落とす必要があります。
どの価格で注文を出すのか。
どの市場を見るのか。
どのくらいのサイズなら通せるのか。
手数料を引いても期待値が残るのか。
他のbotより先に動けるのか。
約定できなかった場合のリスクはどの程度か。
ここまで考えて、ようやく実装の話になります。
一方で、ミクロ経済学の初期章で扱われる内容は、そこまで具体的ではありません。
消費者は、限られた予算の中で効用を最大化する。
企業は、生産要素を使って生産し、費用や価格を踏まえて利潤を最大化する。
価格が変われば、需要量や供給量が変わる。
選択には制約がある。
何かを増やせば、別の何かを諦める必要がある。
追加で1単位増やしたときの効果を見る。
かなり抽象度が高いです。
そのため、最初に読んだときは、どうしても遠く感じました。
しかし、少し引いて考えると、これは市場を見るためのかなり基本的な言語でもあります。
価格とは何か。
費用とは何か。
制約とは何か。
需要とは何か。
供給とは何か。
主体は何を目的に行動するのか。
どの条件のもとで、その行動が最適になるのか。
こうした問いは、板や約定を見る前の段階にあります。
つまり、ミクロ経済学は「この板をどう読むか」を直接教えてくれるものではありません。
それよりも前に、
そもそも市場参加者は何らかの目的と制約のもとで行動している
という前提を与えるものです。
たとえば、マーケットメーカーが板を出すとします。
実務的には、板の厚み、スプレッド、約定頻度、キャンセル速度などを見ることになります。
しかし、その背後には、
- スプレッド収益を取りたい
- 在庫リスクを抑えたい
- 情報を持った相手との取引を避けたい
- 急変時には板を引きたい
- 手数料やリベートを考慮したい
といった目的や制約があります。
これはかなりミクロ経済学的です。
裁定者も同じです。
価格差があれば、理論上は裁定によって価格差が消えるはずです。
しかし現実には、すぐには消えない価格差があります。
なぜなら、裁定には制約があるからです。
手数料。
スリッページ。
送金時間。
在庫制約。
レイテンシ。
取引所の入出金制限。
API制限。
約定失敗。
MEV。
stablecoinの信用差。
こうした制約があるため、見かけ上の価格差がそのまま利益になるわけではありません。
ここでも、ミクロ経済学の「制約付き最適化」という見方は使えます。
ただし、ここで注意が必要です。
ミクロ経済学を読んだからといって、いきなり市場の理論値が分かるわけではありません。
まして、特定の銘柄が上がるか下がるかを判断できるわけでもありません。
ミクロ経済学は、直接的な予測装置ではありません。
むしろ、現実をいったん単純化し、何を目的関数として置くのか、どんな制約を入れるのか、どの条件なら均衡が成立するのかを考えるための道具です。
これは、bot開発における観測機やシグナル設計にも近いところがあります。
現実の市場をすべて見ることはできません。
だから、何かを捨てます。
どのデータを取得するのか。
どのデータを無視するのか。
どこまでを代理変数として使うのか。
どの前提が崩れたら、そのシグナルを無効にするのか。
これらは、ある意味でモデル設計そのものです。
そう考えると、ミクロ経済学は実装の末端にある知識ではなく、モデルを作るときの上流にある知識だと言えます。
板や約定を読むための直接的な手法ではない。
しかし、なぜ板が出るのか、なぜスプレッドがあるのか、なぜ価格差が消えないのか、なぜ参加者ごとに行動が違うのかを考えるための源流にはなっている。
今回の読書で見えてきたのは、この位置関係でした。
私が求めていたのは、すぐにbotへ組み込める実装アイデアでした。
しかし、今手に入ったのは、それよりも手前にある地図です。
ミクロ経済学は源流。
マーケットマイクロストラクチャは応用。
bot開発はさらにその末端の実装。
この階層を意識できたことは、今回の読書でかなり大きな収穫だったと思います。
3章 自分が今知っているのは、むしろ末端側だった
今回、ミクロ経済学を読み始めて改めて感じたのは、自分がこれまで触ってきた知識は、かなり末端側に寄っていたということです。
ここで言う末端というのは、価値が低いという意味ではありません。
むしろ、botterとして実際に勝負する場所です。
私が普段見ているのは、効用関数や生産関数ではありません。
板。
約定。
スプレッド。
出来高。
板の厚み。
注文の偏り。
価格差。
手数料。
スリッページ。
約定するかどうか。
他の市場が先に動いているかどうか。
たとえばCEXを見るなら、単に価格だけを見ているわけではありません。
best bid / best ask。
スプレッドの広がり方。
板の厚み。
板の復元速度。
成行が当たったあとの戻り方。
大きめの指値が置かれたあとに食われるのか、逃げるのか。
約定が片側に寄っているのか。
小さな約定が連続しているだけなのか、それとも明確に大きな注文が入っているのか。
板に見えている流動性と、実際に通せる流動性がどのくらい違うのか。
こういうところを見ます。
価格だけなら誰でも見られます。
しかし、botで使う場合は、価格そのものよりも、
その価格で本当に取引できるのか
が重要になります。
見えている価格差があっても、実際に注文を出した瞬間に板が消えるなら取れません。
板の上では利益が出そうに見えても、自分のサイズを流したらスリッページで消えるなら意味がありません。
約定した片足だけ残って、もう片方が滑るなら、それは利益ではなく在庫リスクになります。
だから、実際には「価格差があるか」よりも、
その価格差は、どのサイズで、どの時間内に、どのコストで、どのくらいの確率で取れるのか
を見ることになります。
DEXも同じです。
AMMで価格がズレているように見えても、そのまま取れるわけではありません。
プールの流動性。
reserve。
fee tier。
ルート。
ガス代。
ブロック時間。
MEVに挟まれる可能性。
価格インパクト。
自分が入れたトランザクションが通るまでの間に、他の裁定者が先に抜く可能性。
このあたりを見ないと、見かけ上のアビトラはすぐに消えます。
特にDEXでは、画面上の価格差やquoteだけを見ても足りません。
実際にそのサイズを通したときの出力。
途中のプールで発生する価格インパクト。
ガス代を引いた後の期待値。
失敗したときのコスト。
競合botがいる場合の優先順位。
トランザクションが通るまでの遅延。
ここまで見て、ようやく「取れるかもしれない歪み」になります。
CEX間の価格差も、見た目ほど単純ではありません。
同じBTCでも、取引所ごとに価格が違うことはあります。
しかし、その差が残っている理由は複数あります。
片方の市場の流動性が薄いだけかもしれない。
入出金が詰まっているのかもしれない。
JPY建て、USD建て、USDT建て、USDC建ての差かもしれない。
為替レートの反映が遅れているのかもしれない。
取引所内の参加者が違うのかもしれない。
その市場だけが先に情報を織り込んでいるのかもしれない。
つまり、価格差は見える。
でも、それが歪みなのか、構造差なのか、先行情報なのか、コストで消える見かけ上の差なのかは、別の問題です。
ここを間違えると、かなり危ないです。
「ベンチマークからズレているから戻るだろう」と考えて逆張りすると、実際には個別市場の方が先に正しい情報を織り込んでいて、ベンチマーク側が後から追いかけることもあります。
この場合、ズレは歪みではありません。
先行です。
botで本当に必要なのは、ズレを見つけることではなく、そのズレの性質を分類することです。
取れる歪み。
取れない歪み。
構造差。
先行情報。
単なるノイズ。
手数料で消える差。
スリッページで消える差。
約定リスクに見合わない差。
この分類ができないと、価格差を見つけてもトレードにはなりません。
私がこれまで触ってきたのは、こういうかなり末端側の世界です。
理論値よりも、実際に約定するか。
均衡よりも、いま板が逃げるか。
効用よりも、手数料を引いて残るか。
需要供給よりも、次の数秒で誰が板を食うか。
価格差よりも、その差を自分の速度とサイズで取れるか。
こういう世界です。
だから、ミクロ経済学の1・2章を読んだときに、少し距離を感じました。
効用。
予算制約。
無差別曲線。
限界代替率。
生産関数。
限界生産性。
利潤最大化。
どれも大事だとは思います。
ただ、普段見ている板や約定やアビトラの失敗理由とは、かなり抽象度が違います。
私が今見ている現象は、すでにかなり加工された末端の結果です。
市場参加者の目的。
制約。
情報差。
取引所のルール。
流動性供給者の在庫リスク。
裁定者同士の競争。
手数料体系。
レイテンシ。
API制限。
MEV。
入出金制約。
こうしたものが全部混ざった結果として、板や約定や価格差が出ています。
私はその結果を見ています。
しかし、その結果がなぜ発生しているのかを、理論的に分解するための中間層に対する理解はまだ弱いです。
たとえば、スプレッドが広がったときに、
流動性が薄い
とは言えます。
でも、それだけでは説明として浅いです。
なぜ流動性が薄くなったのか。
マーケットメーカーが在庫を持ちたくないのか。
情報を持った注文が来ていると判断されたのか。
ボラティリティが上がったからなのか。
他市場との同期が崩れているのか。
単にその取引所の参加者が少ないだけなのか。
ここまで分けないと、次の判断にはつながりません。
価格差についても同じです。
価格差がある、という観測だけでは足りません。
なぜ残っているのか。
誰が消すのか。
どの時間軸で消えるのか。
自分が消す側に回れるのか。
それとも消される側に回ってしまうのか。
そもそも消えるべき差なのか。
ここが分からないと、botの判断には落ちません。
今回の読書で分かったのは、自分が何も知らないということではありません。
むしろ、知っている領域がどこに偏っているのかが見えてきた、という感覚です。
自分が持っているのは、かなり末端側の観察と実装感覚です。
板を見て、約定を見て、価格差を見て、コストを引いて、実際に通るかどうかを考える感覚。
一方で、その背後にある理論的な中間層はまだ弱い。
ミクロ経済学はその源流となる考え方です。
一方、マーケットマイクロストラクチャやbot開発は末端にあります。
その間には、ゲーム理論、情報の非対称性、メカニズムデザイン、オークション理論、価格発見、流動性理論のような中間層があります。
おそらく、今の自分に足りないのはここです。
源流と末端を両方見ているのに、間の階段がまだ十分に作れていない。
だから、ミクロ経済学を読んでもすぐにはbotに接続できない。
逆に言えば、この中間層を埋めていけば、自分がこれまで見てきた板や約定や価格差に対して、もう少し強い説明を与えられるようになるはずです。
今回の読書で得た収穫は、具体的な売買ロジックではありません。
自分が見ているものが、知識体系のどの位置にあるのか。
そして、どこがまだ空白なのか。
その仕分けが少し進んだことです。
4章 足りていないのは中間層の理解だった
今回の読書で見えてきたのは、自分に足りていないのはミクロ経済学そのものだけではなく、ミクロ経済学とマーケットマイクロストラクチャをつなぐ中間層の理解だということです。
かなり大雑把に整理すると、今の自分の理解はこうです。
ミクロ経済学は源流に近い。
効用。
費用。
制約。
需要。
供給。
均衡。
限界。
代替。
利潤最大化。
こうした概念を使って、個々の経済主体がどのように行動するのかを考える。
一方で、bot開発で実際に見るのはもっと末端です。
板。
約定。
スプレッド。
出来高。
流動性。
価格差。
スリッページ。
レイテンシ。
手数料。
MEV。
API制限。
入出金制約。
ここにはかなり距離があります。
この距離を埋めるためには、単にミクロ経済学の基礎概念をbotに無理やり当てはめるだけでは足りません。
必要になるのは、その間にある理論や考え方です。
代表的には、ゲーム理論、情報の非対称性、オークション理論、メカニズムデザイン、産業組織論、価格発見、マーケットマイクロストラクチャ理論あたりです。
このあたりが、源流と末端をつなぐ中間層になるのだと思います。
たとえば、本書の初期章では、消費者や企業が自分の制約の中で最適化するという話が出てきました。
消費者は予算制約の中で効用を最大化する。
企業は費用や生産関数を踏まえて利潤を最大化する。
これは単独主体の最適化としては分かりやすいです。
しかし、実際の市場では、自分だけが最適化しているわけではありません。
他のトレーダーもいます。
マーケットメーカーもいます。
裁定者もいます。
LPもいます。
MEV botもいます。
取引所もあります。
大口もいます。
ノイズトレーダーもいます。
そして、それぞれが別々の目的と制約を持っています。
自分が見つけた価格差は、他のbotも見つけているかもしれない。
自分が注文を出すと、板が逃げるかもしれない。
自分がDEXで裁定しようとすると、MEV botに挟まれるかもしれない。
マーケットメーカーは、情報を持った相手との取引を避けるためにスプレッドを広げるかもしれない。
大口の注文が通ったあと、他の市場が追随するかもしれない。
こうなると、単独主体の最適化だけでは足りません。
自分の最適行動は、他者の行動に依存します。
ここでゲーム理論が必要になります。
ゲーム理論は、ざっくり言えば、複数の主体が互いの行動を前提にしながら意思決定する状況を扱う理論です。
これは市場にかなり近いです。
特にbot開発では、他者の存在を無視できません。
価格差を見つけても、自分だけが見つけているとは限らない。
板が厚く見えても、自分が近づいた瞬間に消えるかもしれない。
裁定機会があるように見えても、他のbotが先に執行するかもしれない。
ガス代を積めば勝てるかもしれないが、積みすぎると期待値が消える。
スピードで勝てない市場に突っ込めば、常に後手に回る。
こうした問題は、単なる価格分析ではなく、他者との相互作用です。
だから、ミクロ経済学の基礎からマーケットマイクロストラクチャへ進む途中で、ゲーム理論はかなり重要な橋になるのだと思います。
もう一つ重要なのが、情報の非対称性です。
市場参加者は、全員が同じ情報を持っているわけではありません。
ある参加者は大口フローを先に見ているかもしれない。
ある参加者は特定取引所の入出金制約を知っているかもしれない。
ある参加者はオンチェーンの資金移動を早く検知しているかもしれない。
ある参加者は他市場の板変化を低遅延で見ているかもしれない。
ある参加者は単に遅れて反応しているだけかもしれない。
この情報差が、価格、スプレッド、流動性、約定行動に出ます。
スプレッドが広いとき、単に流動性が薄いだけとは限りません。
情報を持った相手と取引するリスクが高いから、マーケットメーカーが広めのスプレッドを要求している可能性があります。
板が急に薄くなったときも同じです。
単に注文が減ったのではなく、何かしらの情報リスクを感じた流動性供給者が逃げているのかもしれません。
この見方がないと、板やスプレッドを浅く読んでしまいます。
情報の非対称性を知っていると、スプレッドは単なるコストではなくなります。
スプレッドは、情報リスク、在庫リスク、執行リスク、流動性供給の報酬などが混ざったものとして見えてきます。
これはかなり大きいです。
botで板を見るときにも、
なぜ今このスプレッドなのか
という問いの深さが変わります。
オークション理論やメカニズムデザインも重要です。
市場参加者が同じでも、ルールが違えば行動は変わります。
CEXの板取引。
DEXのAMM。
Uniswap v3の集中流動性。
perpのfunding rate。
maker-taker fee。
取引所ごとの手数料体系。
ガス代による優先順位。
ブロック単位でのトランザクション処理。
MEVの存在。
バッチオークション型の設計。
これらは全部、参加者の行動を変えます。
同じ価格差があっても、CEXで取る場合とDEXで取る場合では、必要な判断が違います。
CEXでは板と約定とレイテンシが重要になる。
DEXではプールの状態、価格インパクト、ガス代、MEV、ルーティングが重要になる。
perpではfunding、建玉、清算、basisが絡む。
ETFやCMEが絡むなら、現物市場とは違う参加者や時間軸が入ってくる。
つまり、市場のルール自体が参加者の行動を作ります。
この「ルールがインセンティブを作る」という見方は、かなりメカニズムデザイン的です。
botterとしては、これは戦場選びにも関わります。
どの市場なら自分が戦えるのか。
どの市場は速度勝負になりすぎるのか。
どの市場は構造的に歪みが残りやすいのか。
どの市場は見かけ上の価格差があっても取れないのか。
どの市場ではルールそのものが特定の参加者に有利になっているのか。
これを見ないと、戦略以前に戦場を間違えます。
産業組織論的な見方も一部必要だと思います。
取引所やプロトコルは、単なる場所ではありません。
それ自体がプレイヤーです。
なぜ取引所は手数料体系を変えるのか。
なぜmakerにリベートを出すのか。
なぜ新興DEXはインセンティブを撒くのか。
なぜマーケットメーカーを誘致するのか。
なぜ特定ペアに流動性が集中するのか。
なぜ大手CEXの価格発見力が強いのか。
なぜ小さい市場では価格差が残るのか。
こうした問いは、個別の板だけを見ていても分かりません。
市場そのものがどう作られ、どの参加者を集め、どう流動性を維持しようとしているのかを見る必要があります。
これも、ミクロ経済学と市場実務をつなぐ中間層です。
今回、ミクロ経済学の1・2章を読んで分かったのは、自分がこの中間層を十分に持っていないということでした。
源流側の言葉は少し見えてきた。
効用、費用、制約、限界、均衡。
末端側の感覚も少しはある。
板、約定、価格差、手数料、スリッページ、DEX、CEX、執行コスト。
でも、その間にある、
なぜその参加者はそう動くのか。
なぜそのスプレッドが成立するのか。
なぜその価格差は残るのか。
なぜそのルールではその行動が誘発されるのか。
なぜその市場が価格発見を主導するのか。
なぜその歪みは取れるのか、取れないのか。
この部分の理解がまだ薄い。
だから、ミクロ経済学を読んでもすぐにbot開発に接続できないのだと思います。
これは悪いことではありません。
むしろ、どこが足りないのかが見えてきたということです。
今後は、ミクロ経済学を読み進めながら、ゲーム理論、情報の非対称性、メカニズムデザイン、マーケットマイクロストラクチャの理解を足していく必要があります。
そうすることで、源流と末端が少しずつつながっていくはずです。
今の段階で無理に「効用関数を使ってBTCを読む」みたいなことをする必要はありません。
それよりも、
市場参加者は何を最大化しているのか
どんな制約を受けているのか
他者の行動をどう読んでいるのか
情報差はどこにあるのか
市場ルールはどんな行動を誘発しているのか
その結果として、板や約定や価格差に何が出ているのか
を考えられるようになること。
おそらく、それが今の自分に必要な中間層の理解です。
5章 現代の市場では、価格差は単なる非効率ではない
bot開発をしていると、価格差そのものは普通に見つかります。
CEX間の価格差。
CEXとDEXの価格差。
spotとperpのズレ。
現物と先物のbasis。
BTC/USDとBTC/JPYの乖離。
USDT建て、USDC建て、JPY建ての違い。
DEXプールごとの交換レートの差。
同じトークンでもチェーンやDEXごとに違う価格。
このあたりは、観測機を作れば見えます。
むしろ、ある程度botを作っていると、価格差を見つけること自体はそこまで難しくありません。
問題は、その先です。
見えている価格差のほとんどは、そのままでは使えません。
価格差がある。
quote上は利益が出ている。
板上は抜けそうに見える。
プール間ではズレている。
計算上はプラスに見える。
でも、実際に執行しようとすると消える。
このパターンがかなり多いです。
だから、bot開発で本当に必要なのは、価格差を見つけることではなく、
その価格差が、どの条件なら実際に取れるのか
を判定することです。
ここを雑にすると、価格差検出botはすぐにノイズ検出botになります。
たとえばCEXであれば、単にbest bidとbest askの差を見るだけでは足りません。
見えるべきものはもっと多いです。
板の厚み。
自分のサイズを通したときの平均約定価格。
スプレッドの変化。
板の復元速度。
約定の偏り。
大きめの注文が置かれたあとに食われるのか、逃げるのか。
約定直後に価格が戻るのか、そのまま抜けるのか。
複数市場間でどちらが先に動いているのか。
その価格差が何秒続くのか。
注文を出す頃にはまだ残っているのか。
片足だけ約定した場合にどう処理するのか。
実装上は、単純な価格差ではなく、少なくとも「自分のサイズを通した場合の実効価格」で見る必要があります。
板の最良気配だけを見て利益があるように見えても、自分の注文サイズを入れた瞬間に2段、3段と食ってしまうなら、期待値は全然違います。
だから、価格差を見るときは、
best price の差
ではなく、
depth込みの実効価格差
を見る必要があります。
さらに、そこから手数料、スリッページ、約定失敗、レイテンシ、片足リスクを引く。
ここまでやって、ようやく「候補」になります。
DEXでの執行を想定する場合は、さらに面倒です。
例えは、AMMでは、価格は板で決まっているわけではありません。
プールの状態、流動性、fee tier、ルート、自分の入力サイズによって、出力が変わります。
そのため、DEXで見るべきものは単なる価格ではありません。
reserve。
liquidity。
fee tier。
swap route。
amount in / amount out。
価格インパクト。
gas cost。
ブロック時間。
RPCの応答。
quoteの鮮度。
pool stateの更新遅れ。
自分のtxが通るまでに他の裁定者が入る可能性。
MEVに挟まれる可能性。
失敗時のgas loss。
このあたりを見ないと、quote上の利益はほぼ信用できません。
特にDEXでは、「quoteではプラスだったが実行時には消えている」ということが普通にあります。
理由はいくつかあります。
プール状態が更新された。
他のbotが先に抜いた。
gasが上がった。
ルート上の別プールで滑った。
ブロックに入るまでの間に外部価格が動いた。
そもそも自分のRPCや取得レイヤーが遅かった。
トランザクションがrevertした。
想定したamount outが通らなかった。
つまり、DEXアビトラでは、価格差検出よりも、実行可能性の判定と失敗コストの管理の方が重要になります。
実際にbotとして考えるなら、流れはこうなります。
まず、候補を拾う。
価格差がある。
route上は利益がある。
quote上はプラス。
CEXとDEXの外部価格にズレがある。
次に、候補を削る。
流動性が薄すぎるものを落とす。
dustサイズしか通らないものを落とす。
gasで消えるものを落とす。
手数料で消えるものを落とす。
スリッページ耐性が低すぎるものを落とす。
更新頻度が低く、状態が古いものを落とす。
成功確率が低いものを落とす。
競合が強すぎるものを落とす。
片足リスクが重いものを落とす。
そして、最後に残ったものだけを実行候補にする。
ここまで絞ると、価格差はかなり減ります。
検出段階ではたくさん見えたものが、実行可能性を入れた瞬間にほとんど消える。
これはかなり現実的です。
だから、現代の市場では、価格差を見つけるだけではエッジになりません。
価格差が残っている理由まで見ないといけません。
なぜ残っているのか。
誰も見ていないから残っているのか。
見えているけど小さすぎて取れないのか。
流動性が薄すぎるのか。
手数料で消えるのか。
ガス代で消えるのか。
スピード勝負で負けるのか。
入出金制約があるのか。
stablecoinの信用差なのか。
取引所内の需給差なのか。
そもそも個別市場の方が先に正しい情報を織り込んでいるのか。
ここを分類しないと、トレードにはならない。
価格差には、少なくとも4種類あります。
1つ目は、取れる歪み。
これは、流動性があり、執行でき、コストを引いても利益が残り、収束までの時間軸が自分の実行速度と合っているものです。
botで狙いたいのは基本的にここです。
2つ目は、取れない歪み。
見た目には価格差がある。
計算上も一見プラス。
でも、実際に通すと消える。
スプレッドで消える。
手数料で消える。
スリッページで消える。
gasで消える。
約定待ちの間に消える。
自分のサイズを入れると価格が動きすぎる。
競合botに先に抜かれる。
これは価格差ではあっても、利益ではありません。
3つ目は、構造差。
これは、そもそも消えるべき価格差ではない可能性があります。
USDT建てとUSD建て。
USDC建てとJPY建て。
取引所内の入出金制約。
地域市場の需給。
法定通貨ペアの流動性差。
stablecoinの信用差。
ブリッジリスク。
チェーンごとの資産移動制約。
CEXとDEXの参加者層の違い。
こうした差は、単純な裁定機会ではなく、構造の違いが価格に出ているだけかもしれません。
4つ目は、先行情報。
これが一番危ないです。
ある市場がベンチマークからズレているとき、それを「歪み」と見て逆張りしたくなることがあります。
しかし、実際にはその市場の方が先に正しい情報を織り込んでいる場合があります。
CMEやETF関連の市場が先に動く。
perpの建玉やfundingに先に変化が出る。
特定CEXの板が先に崩れる。
DEX側でオンチェーン需給が先に出る。
stablecoinペアが先に信用リスクを織り込む。
BTC/JPYが為替や国内需給を先に反映する。
この場合、ベンチマークからの乖離は戻るべき歪みではありません。
むしろ、他市場が後から追随するシグナルです。
これを歪みだと誤認すると、逆張りで焼かれます。
だから、私が今後作るべきなのは、単なる価格差検出ではありません。
必要なのは、価格差の分類器です。
見えている差分に対して、
これは取れる歪みか
取れない歪みか
構造差か
先行情報か
ただのノイズか
を判定するレイヤーが必要です。
実装としては、価格差検出レイヤーと執行判定レイヤーを分ける必要があります。
価格取得。
正規化。
ベンチマーク算出。
個別市場との差分算出。
流動性チェック。
コスト控除。
サイズ別の実効価格計算。
継続時間の測定。
収束速度の推定。
先行市場の判定。
実行可否判定。
失敗時の損失見積もり。
このあたりを分けておかないと、後から何が原因で失敗したのか分からなくなります。
たとえば、botが負けたとします。
そのときに、
価格差の検出が悪かったのか。
ベンチマークが悪かったのか。
取得データが遅かったのか。
quoteが古かったのか。
流動性の見積もりが甘かったのか。
ガス代の見積もりが甘かったのか。
執行速度で負けたのか。
片足リスクの管理が甘かったのか。
そもそも構造差を歪みと誤認したのか。
先行情報を逆張りしてしまったのか。
これが分からないと改善できません。
だから、設計上は、価格差を見つける部分と、それを取引候補に昇格させる部分は分けた方がいいです。
見つけるだけなら広く拾う。
しかし、実行候補にする段階ではかなり厳しく落とす。
この二段構えが必要です。
これは、最近考えている取得レイヤー、正規化レイヤー、観測機、判定レイヤーを分ける設計ともつながります。
生データを取る部分。
市場ごとの形式差を揃える部分。
価格差や流動性を観測する部分。
実行可能性を判定する部分。
実際に注文を出す部分。
これらを分離しておけば、後から市場や戦略を増やしても検証しやすい。
逆に、価格差検出と執行判断が一体化していると、勝てなかったときにどこを直せばいいのか分かりにくくなります。
ミクロ経済学の文脈で言えば、価格差は単なる非効率ではありません。
価格差は、制約が表面に出たものです。
裁定者の制約。
流動性供給者の制約。
情報差。
取引所ルール。
手数料体系。
時間制約。
資本移動制約。
実行コスト。
競合botの存在。
こうした制約があるから、価格差が残ります。
だから、botterとして見るべきなのは、価格差そのものではありません。
価格差の背後にある制約です。
そして、その制約が他人には重く、自分には軽い場合にだけ、エッジが生まれます。
自分だけが速く取れる。
自分だけが安く執行できる。
自分だけが小さいサイズで十分。
自分だけがその市場を見ている。
自分だけがその構造差を正しく分類できる。
自分だけが他者が捨てる小さな歪みを拾える。
こういう条件がないと、見えている価格差はたいてい消えます。
現代の市場では、明らかな非効率はすぐに消えます。
特にメジャー市場では、価格差を見つけた時点で遅いことも多いです。
だから、見るべきなのは、
価格差があるか
ではなく、
なぜその価格差が残っているのか
その残っている理由を自分は突破できるのか
その分類を他者より正しく、早く、安くできるのか
です。
今回ミクロ経済学を読んで、価格、均衡、制約という言葉を改めて見たことで、このあたりの整理が少し進みました。
価格差はチャンスとは限りません。
価格差は制約の痕跡です。
構造差の痕跡です。
情報差の痕跡です。
単に取れないから残っているだけのものかもしれません。
bot開発に必要なのは、価格差を拾うことだけではなく、その価格差を実行可能な歪みとして分類できるかどうかです。
そこまで落として初めて、ミクロ経済学の「制約」や「均衡」という言葉が、自分の実装感覚と少しつながってくるのだと思います。
6章 現時点でbot開発に接続できそうなこと
ここまで整理してきた通り、ミクロ経済学を読んだからといって、すぐに利益の出るbotが作れるわけではありません。
少なくとも、1・2章を読んだ現時点では、直接的な売買ロジックやシグナルに変換できるものはかなり少ないです。
ただし、まったく使えないわけではありません。
現時点でbot開発に接続できそうなのは、具体的な指標そのものというより、
市場をどう分解し、何をベンチマークにし、どのズレを取引候補として扱うか
という設計思想の部分です。
一番近いのは、広域市場からベンチマークを作り、個別市場との差分を見る考え方です。
単一市場だけを見ても、価格が高いのか安いのかは判断しにくいです。
BTC/JPYだけを見る。
BTC/USDTだけを見る。
特定DEXプールだけを見る。
特定取引所の板だけを見る。
これだけでは、その価格がどの程度ズレているのか分かりません。
だから、まずは外側に基準を作る必要があります。
複数CEXの価格。
USD建て価格。
JPY建て価格。
perpとspot。
funding。
basis。
CME。
ETF関連の需給。
stablecoinペア。
DEXプール。
オンチェーン流動性。
為替。
こうした複数の市場情報を使って、現時点のベンチマーク価格や収束候補帯を作る。
そのうえで、個別市場がそこからどれだけズレているかを見る。
これは、今の段階でもかなり使えそうです。
ただし、ここで作るベンチマークは「真の価値」ではありません。
あくまで比較用の基準です。
市場全体をざっくり見たときに、このあたりが妥当そうだ、という推定レンジ。
個別市場の価格や板やDEXプールの状態を評価するための基準。
そのくらいに置いた方が良いです。
ここで「理論値」や「価値」という言葉を強く使いすぎると危ないです。
実際には、ベンチマーク側が間違っていることもあります。
遅れていることもあります。
個別市場の方が先に正しい情報を織り込んでいることもあります。
だから、ベンチマークからズレているからといって、すぐに逆張りするわけではありません。
まず見るべきなのは、
そのズレは戻るのか
それとも他市場が追随するのか
です。
ここがbot設計では重要になります。
たとえば、ある市場が広域ベンチマークからズレているとします。
そのとき、考えるべきことは複数あります。
その市場の流動性は十分か。
そのズレは何秒、何分、何時間続いているのか。
過去に同じようなズレは戻ったのか。
戻るときはどの市場が先に動いたのか。
ズレが拡大するときは何が起きていたのか。
手数料を引いても取れるのか。
自分のサイズを入れても残るのか。
約定失敗や片足リスクはどの程度か。
その市場は先行市場なのか、追随市場なのか。
これらを見ないと、単なる乖離観測で終わります。
実装に落とすなら、まずはレイヤーを分けた方が良いと思っています。
生データ取得レイヤー。
正規化レイヤー。
ベンチマーク算出レイヤー。
個別市場観測レイヤー。
乖離判定レイヤー。
実行可能性判定レイヤー。
執行レイヤー。
事後検証レイヤー。
この分離はかなり重要です。
以前から、情報取得レイヤーと正規化レイヤーと各観測機は分けた方が良いのではないかと考えていましたが、今回の読書でその必要性をもう一度確認できました。
なぜなら、価格差検出と実行判断を混ぜると、失敗したときに原因が分からなくなるからです。
価格差の検出が悪かったのか。
ベンチマークの作り方が悪かったのか。
取得データが遅かったのか。
正規化が雑だったのか。
流動性チェックが甘かったのか。
コスト控除が不十分だったのか。
先行市場を誤認したのか。
構造差を歪みと見誤ったのか。
執行速度で負けたのか。
片足リスクの管理が甘かったのか。
これらを分けて見られないと、改善できません。
だから、bot開発においては、単にシグナルを作るよりも、まずは観測と判定を分解することが重要になります。
たとえば、ベンチマーク算出レイヤーでは、単純平均ではなく、重み付けが必要です。
全ての市場を同じ重みで見ると、むしろノイズが増えます。
流動性が厚い市場。
価格発見力の強い市場。
他市場に先行しやすい市場。
裁定接続が強い市場。
実際に自分が執行可能な市場。
こうした市場は重く見る。
逆に、流動性が薄い市場、更新が遅い市場、入出金制約が強い市場、構造的にズレやすい市場は、そのまま混ぜると危ない。
だから、ベンチマークを作るときには、
出来高。
板厚。
スプレッド。
約定頻度。
価格更新頻度。
他市場への先行性。
流動性の安定性。
実行可能性。
ペアの信用リスク。
取引所固有の制約。
このあたりで重みを調整する必要があります。
ここは今後かなり詰めたい部分です。
個別市場観測レイヤーでは、その市場固有の状態を見る必要があります。
CEXなら、板、約定、深さ、キャンセル、スプレッド、約定偏り、板の復元速度。
DEXなら、reserve、liquidity、fee tier、route、price impact、gas、MEVリスク、pool stateの鮮度。
perpなら、funding、basis、open interest、清算帯、long/shortの偏り。
法定通貨ペアなら、為替、入出金、地域需給、取引所内の参加者層。
同じ「価格差」でも、市場ごとに見るべきものは違います。
ここを共通化しすぎると、重要な差分を落とします。
逆に、市場ごとにバラバラに実装しすぎると、後から拡張しにくくなります。
だから、データ取得と正規化は共通化しつつ、観測機と判定ロジックは市場特性に応じて分けるのが良さそうです。
乖離判定レイヤーでは、単にベンチマークとの差分を見るだけでは足りません。
必要なのは、差分の性質を見ることです。
一時的なノイズなのか。
収束しやすい歪みなのか。
構造差なのか。
先行情報なのか。
流動性不足による見かけ上の差なのか。
サイズを入れると消える差なのか。
コスト控除後も残る差なのか。
ここで、過去データを使った分類が必要になります。
同じような乖離が過去に発生したとき、どのくらいの時間で戻ったのか。
戻らずにベンチマーク側が追随したことはあるのか。
そのとき、どの市場が先に動いていたのか。
出来高や板厚はどう変化していたのか。
スプレッドは広がっていたのか。
fundingやbasisはどう動いていたのか。
こうした履歴を見ないと、乖離を取引候補にするのは危険です。
実行可能性判定レイヤーでは、さらに厳しく削る必要があります。
見かけ上の利益から、手数料を引く。
スプレッドを引く。
スリッページを引く。
ガス代を引く。
想定レイテンシ中の価格変動リスクを引く。
約定失敗確率を考慮する。
片足約定時の損失を見積もる。
在庫を抱えた場合の処理コストを入れる。
競合botに先に抜かれる確率を考える。
ここまでやると、多くの候補は落ちます。
それでいいと思います。
むしろ、ここで落ちない候補だけが、ようやく実行候補になります。
bot開発で危ないのは、検出数が多いことを成果だと勘違いすることです。
価格差候補がたくさん出る。
アビトラ候補が大量に出る。
quote上はプラスが多い。
しかし、実行可能性まで入れるとほとんど消える。
これは失敗ではなく、正常なフィルタリングです。
本当に重要なのは、候補数ではありません。
実行後に、コスト控除後で期待値が残るかどうかです。
この意味で、ミクロ経済学の「制約」という考え方はかなり役に立ちます。
市場参加者は制約のもとで動く。
裁定者も制約のもとで動く。
マーケットメーカーも制約のもとで板を出す。
自分のbotも制約のもとでしか動けない。
資金制約。
在庫制約。
速度制約。
API制約。
データ品質制約。
執行コスト制約。
リスク許容度。
実装コスト。
これらを無視すると、机上の価格差だけを追うことになります。
逆に、制約をきちんと入れれば、見えるものは少なくなりますが、使える候補に近づきます。
現時点でbot開発に接続できそうなのは、まさにここです。
ミクロ経済学の概念を直接シグナルにするのではありません。
効用関数を使ってBTCを予測するわけでもありません。
需要曲線を書いてトークン価格を当てるわけでもありません。
そうではなく、
市場には参加者ごとの目的と制約がある
価格差は制約や情報差の結果として出る
ベンチマークは比較用の仮説であり、真の価値ではない
乖離は分類しなければ使えない
実行可能性まで落として初めてトレード候補になる
という設計思想として使う。
これが、今の段階で一番現実的な接続だと思います。
今後やるなら、まずは観測機の設計をこの考え方に合わせて整理したいです。
価格を取るだけではなく、価格差の原因を分類できるようにする。
ベンチマークからの乖離を見るだけではなく、乖離の継続時間、流動性、コスト、先行性、収束性を見る。
DEXでは、quoteだけではなく、route、pool state、gas、MEV、失敗確率を見る。
CEXでは、最良気配だけではなく、depth込みの実効価格、板の復元速度、約定偏り、片足リスクを見る。
そして、最終的には、
検出した価格差
実行可能な価格差
実際に取れた価格差
失敗した価格差
構造差だった価格差
先行情報だった価格差
を分けて記録できるようにしたいです。
このログが蓄積されれば、何がエッジで、何がノイズで、何が罠だったのかを後から検証できます。
現時点では、まだミクロ経済学から直接botの武器を得たわけではありません。
しかし、モデルを作るときの分解の仕方、制約の入れ方、価格差の扱い方については、少し整理が進みました。
すぐに実装できるシグナルではない。
でも、観測機や判定レイヤーを設計する上での基礎言語にはなる。
今のところ、ミクロ経済学とbot開発の接続は、そのくらいの距離感で捉えるのが良さそうです。
7章 今後学ぶべきこと
今回、『ミクロ経済学の力』の1・2章を読んで得た一番大きな収穫は、具体的な売買ロジックではありません。
むしろ、自分が今どの位置にいて、何を知っていて、何が足りていないのかを少し仕分けできたことです。
現時点での理解をかなり大雑把に置くなら、こうなります。
ミクロ経済学は源流。
ゲーム理論や情報の非対称性、メカニズムデザインは中間層。
マーケットマイクロストラクチャは金融市場への応用形。
bot開発は、そのさらに末端にある実装。
この階層が少し見えてきました。
これまで自分は、かなり末端側を触ってきました。
板。
約定。
価格差。
スプレッド。
流動性。
CEX。
DEX。
アビトラ。
手数料。
スリッページ。
レイテンシ。
ガス代。
MEV。
入出金制約。
実行可能性。
これらは、botterとして避けられない実務領域です。
ここを見ないと、実際に取れるかどうかは判断できません。
一方で、その背後にある理論の階段はまだ十分に埋まっていません。
なぜそのスプレッドがあるのか。
なぜその価格差が残るのか。
なぜ板が逃げるのか。
なぜその市場が先に動くのか。
なぜその裁定機会は取れないのか。
なぜ流動性供給者はそこで流動性を出すのか。
なぜ同じ資産なのに市場ごとに価格発見力が違うのか。
こうした問いに対して、今の自分はある程度の実務感覚では答えられます。
ただ、理論として整理しきれているわけではありません。
だから今後は、源流と末端の間にある階段を埋めていく必要があります。
まずは、ミクロ経済学の続きを読み進めます。
1・2章では、消費者行動と企業行動を見ました。
効用。
予算制約。
無差別曲線。
限界代替率。
所得効果と代替効果。
需要の価格弾力性。
生産関数。
限界生産性。
費用。
利潤最大化。
このあたりは、まだかなり基礎です。
ここから、需要と供給、市場均衡、不完全競争、外部性、公共財、情報の非対称性、ゲーム理論などに進んでいくはずです。
現時点では、1・2章だけでbot開発に直接接続するのはかなり難しいです。
しかし、後半に進むほど、市場実務に近い概念が増えてくると思っています。
特に重要になりそうなのは、情報の非対称性です。
市場参加者は、同じ情報を持っていません。
ある参加者は早く情報を得ている。
ある参加者は大口フローを見ている。
ある参加者はオンチェーンの変化を先に検知している。
ある参加者は取引所内の需給を見ている。
ある参加者は単に遅れて反応している。
この情報差は、価格、スプレッド、板の厚み、約定、流動性に出ます。
マーケットメーカーがなぜスプレッドを広げるのか。
なぜ板を引くのか。
なぜ一部の注文は「毒注文」になるのか。
なぜ流動性供給者は情報を持った相手との取引を嫌うのか。
このあたりは、bot開発にかなり近いはずです。
次に学ぶべきなのは、ゲーム理論です。
市場では、自分だけが最適化しているわけではありません。
他のbotも動いています。
裁定者もいます。
マーケットメーカーもいます。
LPもいます。
MEV botもいます。
大口もいます。
取引所もプロトコルも、それぞれのインセンティブを持っています。
自分が価格差を見つけたとき、他のbotも見つけているかもしれません。
自分が注文を出すと、板が逃げるかもしれません。
自分がDEXで裁定しようとすると、MEV botに挟まれるかもしれません。
ガス代を積めば勝てるかもしれませんが、積みすぎれば期待値が消えます。
このように、自分の最適行動が他者の行動に依存する場面では、ゲーム理論的な見方が必要になります。
今の自分は、ここを実務感覚としては多少分かっています。
ただ、理論として十分に扱えているわけではありません。
ここを補うことで、価格差、競争、執行、MEV、板引き、裁定者同士の競争をもう少し整理できるはずです。
メカニズムデザインやオークション理論も重要です。
市場参加者が同じでも、ルールが変われば行動は変わります。
CEXの板取引。
DEXのAMM。
Uniswap v3の集中流動性。
perpのfunding。
maker-taker fee。
取引所の手数料体系。
ガス代による優先順位。
ブロック単位での処理。
MEV。
バッチオークション型の仕組み。
これらは、参加者の行動を変えます。
botterとしては、価格だけでなく、市場のルールそのものを見なければいけません。
どの市場なら自分が戦えるのか。
どの市場は速度勝負になりすぎるのか。
どの市場では構造的に歪みが残りやすいのか。
どの市場では見えている価格差が取れないのか。
どのルールが、どの参加者を有利にしているのか。
これは、戦略以前の戦場選びに関わります。
その上で、マーケットマイクロストラクチャを改めて学び直したいです。
これは、私がすでにある程度触っている領域です。
ただ、実装や観察から入っているので、体系的な理解としてはまだ粗い部分があります。
スプレッド。
板。
約定。
注文フロー。
価格発見。
流動性。
マーケットメーカー。
在庫リスク。
逆選択。
HFT。
執行コスト。
lead-lag。
information share。
このあたりをきちんと整理できれば、これまで見てきた市場現象の解像度が上がるはずです。
特に、価格発見はかなり重要です。
どの市場が先に動くのか。
どの市場が追随するのか。
どの市場をベンチマークにすべきなのか。
どの市場のズレは歪みで、どの市場のズレは先行情報なのか。
これは、今後のbot開発にかなり直結します。
広域市場からベンチマークを作るにしても、単純平均では弱いです。
流動性、板厚、出来高、約定頻度、先行性、裁定接続性、実行可能性を見て、どの市場をどれくらい重く見るかを決める必要があります。
ここを雑にすると、ベンチマークそのものが遅れたノイズになります。
DeFiやAMM特有の理論も、引き続き掘る必要があります。
AMMはCEXの板取引とはかなり違います。
価格は板ではなく、プール状態とカーブから出ます。
Uniswap v3の集中流動性では、LPはどの価格レンジに資本を置くかを選びます。
このとき、LPは単に手数料を得ているだけではありません。
価格変動リスク。
レンジ外に出るリスク。
リバランスコスト。
裁定者に抜かれるコスト。
LVR。
MEV。
ガス代。
プール間のルート。
外部価格との同期。
こうした要素を抱えています。
AMMを見るなら、単なる価格差ではなく、LP、裁定者、外部市場、ガス、MEVがどう相互作用しているかを見る必要があります。
ここは、ミクロ経済学、ゲーム理論、メカニズムデザイン、マーケットマイクロストラクチャがかなり強く接続する領域だと思います。
最後に、これらを実装へ落とす必要があります。
学んで終わりでは意味がありません。
最終的には、観測機、判定レイヤー、執行ロジック、事後検証に落とす必要があります。
価格取得。
正規化。
ベンチマーク算出。
個別市場観測。
乖離判定。
流動性チェック。
コスト控除。
収束性判定。
先行市場判定。
実行可能性判定。
執行。
ログ保存。
事後検証。
この流れを整理していきたいです。
特に、今後は「価格差を見つけたか」だけでなく、価格差の分類を重視したいです。
取れる歪み。
取れない歪み。
構造差。
先行情報。
ノイズ。
コストで消える差。
サイズを入れると消える差。
片足リスクが重すぎる差。
これらを分けて記録できるようにする。
そうすれば、後から何がエッジで、何が罠だったのかを検証できます。
今回の読書で、すぐに使えるbotの武器が手に入ったわけではありません。
ただ、何を学べばよいのかは少し見えてきました。
ミクロ経済学を読む。
ゲーム理論を読む。
情報の非対称性を理解する。
メカニズムデザインやオークション理論を見る。
マーケットマイクロストラクチャを体系的に学ぶ。
DeFi/AMM特有の理論を掘る。
最後に、自分のbot設計へ落とす。
この順番で、源流から末端までの階段を少しずつ埋めていく。
今の自分に必要なのは、おそらくこれです。
ミクロ経済学を直接botに接続しようと焦る必要はありません。
今はまだ、基礎概念を読んでいる段階です。
ただ、その基礎概念がどこへつながるのかは少し見えてきました。
ミクロ経済学は源流。
中間層にはゲーム理論、情報の非対称性、メカニズムデザインがある。
その先にマーケットマイクロストラクチャがある。
さらにその先にbot実装がある。
この地図を持った上で読み進めれば、今後の学習はかなり進めやすくなると思います。
とはいえ、観測機の改良や新規開発など、実務で回せる部分も増えてきていることは事実です。
なので、ぼちぼち実装も進めながら、勉強とアウトプットも続けていきます。
それでは、また。