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🛠️開発記録#536(2026/5/6)『市場と取引』を読みながら、見えない市場構造を観測変数へ落とす準備をした話

こんにちは、ぼっちbotterよだかです。

今日も「市場と取引」を読んだのでbot開発に接続できることを中心に本の内容や調べたことなどをまとめます。

前回の話
🛠️開発記録#534(2026/5/5)『市場と取引』を読んで"パフォーマンス評価"と"指数"について整理した話

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1. 24〜26章で読んだこと

今日は『市場と取引』の24章、25章、26章を読みました。

今回読んだ範囲は、これまで読んできた「投資家」「トレーダー」「流動性」「取引コスト」といった話から、もう少し市場構造そのものに寄った内容でした。具体的には、スペシャリスト、内面化・優先、市場内および市場間の競争についてです。

最初に出てきたのが、スペシャリストです。
スペシャリストは、単に取引がうまいトレーダーではなく、特定の銘柄や市場に対して流動性供給や注文処理に関わる特別な立場の参加者として説明されていました。

ここで重要だと感じたのは、スペシャリストには特権だけでなく義務もあるという点です。通常の参加者よりも注文フローや市場の状態に近い位置にいる一方で、市場の流動性を維持する役割も負っています。つまり、強い立場にいるからといって、自由に利益だけを取りにいける存在ではありません。むしろ、特別な位置にいるからこそ、ルールや義務、在庫リスク、市場品質維持の制約を受ける存在として見る必要があります。

次に、内面化・優先について読みました。

ここでは、顧客注文が公開市場にそのまま出されるのではなく、ブローカーやディーラー、マーケットメーカーなどの間で処理される構造が扱われていました。最初は「これは信頼の問題なのか」と考えましたが、調べ直してみると、もう少し分解して見る必要がありました。

内面化・優先で問題になるのは、単に「業者を信じられるか」ではありません。
顧客注文を誰が受け、どこに回し、どの価格で約定させ、その過程で誰が利益を得て、誰が価格発見を担うのか、という問題です。

つまり、ここで問われているのは、執行品質、利益相反、注文フローの価値、価格発見の分担です。特にリテール注文は、金融文脈では個人投資家・個人顧客の注文フローを指すことが多く、機関投資家や高速裁定業者の注文に比べて情報毒性が低い注文フローとして扱われることがあります。だからこそ、リテール注文はマーケットメーカーや internalizer にとって価値を持ちます。

一方で、リテール注文を内部で処理できるのは、公開市場が基準価格を作っているからでもあります。
外部市場が価格発見を担い、その価格を参照しながら内部化された注文が処理される。この構造は、顧客にとって良い執行を提供する可能性がある一方で、公開市場の価格発見や透明性を弱める可能性もあります。

最後に、市場内および市場間の競争について読みました。

ここで扱われていたのは、市場が分散していること、あるいは統合されていることの意味です。市場が一つにまとまっていれば、価格や流動性は見やすくなります。一方で、複数の市場が存在すれば、取引所同士、ブローカー同士、ディーラー同士が注文フローをめぐって競争します。

今回、自分の理解として重要だったのは、市場の分散と統合を、物理的に市場がいくつあるかだけで見ない方がよいということです。

大事なのは、価格、注文フロー、流動性、資本、情報がどれくらい滑らかにつながっているかです。
同じような商品が複数の市場で取引されていても、それらが完全に接続されているとは限りません。参加者、取引時間、手数料、規制、入出金、証拠金、ヘッジ手段、流動性の厚さが違えば、価格の反映速度やズレの残り方も変わります。

bot開発の文脈で見ると、ここはかなり重要です。

市場が分散しているからといって、それだけでエッジがあるわけではありません。
ただし、市場が分散していて、なおかつ市場間の接続に制約や遅れがある場合、その痕跡は価格差、スプレッド、出来高、板厚、basis、premium/discount、reversion速度などに現れる可能性があります。

今日読んだ範囲を一言でまとめるなら、次のようになります。

市場を見るときは、表に出ている価格や出来高だけでなく、その背後で誰が注文フローを受け、誰が流動性を出し、誰が価格を接続し、どこに制度上・構造上の制約が残っているのかを見る必要がある。

この理解は、今後のリードラグ研究やDeFi研究にもつながります。

今までは、ある市場の価格が別の市場に遅れて反応するかどうかを中心に見てきました。
しかし、今回読んだ内容を踏まえると、次に見るべきなのは、単なる価格の先行・遅行ではなく、その背後にある注文フロー、流動性提供者、裁定参加者、ヘッジャー、制度上の接続制約です。

見えているものは丁寧に観測する。
見えていないものは断定しない。
ただし、見えないから考えないのではなく、制度や参加者の構造から「表に出るならどの変数に出るか」を考え、代理変数として観測できる形に落とす。

今日読んだ24〜26章は、そのための見方を整理する内容でした。

この章の根拠・参照した情報

  • Trading and Exchanges』では、24章でSpecialists、25章でInternalization and order preferencing、26章でMarkets consolidate and fragment が扱われている。Harrisは、スペシャリストが流動性を供給したくない局面でも、取引所・規制・ビジネスモデルによって流動性供給を求められる場合があると説明している。
  • SECのForm CRS関連FAQでは、retail investor は、主に個人・家族・家計目的でサービスを受ける自然人、またはその法的代理人と定義されている。
  • FINRA Rule 5310は、顧客注文について reasonable diligence によって best execution を尽くす義務を定めている。
  • FINRAのBest Executionの項では、注文ごとの確認を行わない場合でも、注文執行品質について定期的かつ厳格なレビューが必要であり、少なくとも四半期ごとに証券別・注文タイプ別で実施する必要があると説明している。
  • SEC Rule 605は、執行品質を比較・評価できるようにするための開示制度であり、SECは2024年にその開示内容を現代化する改正を採択している。

2. 自分の理解をどう整理したか

今回読んだ24〜26章は、最初に読んだ時点では「スペシャリスト」「内面化」「市場間競争」という別々のテーマに見えていました。

ただ、メモを書きながら整理していくと、これらはかなり強くつながっている話だと感じました。
共通しているのは、注文フローを誰が受けるのか、流動性を誰が出すのか、価格発見はどこで起きるのか、市場同士はどのくらい滑らかにつながっているのかという問題です。

スペシャリストは、強いトレーダーではなく「特権と義務を持つ参加者」として見る

まず、スペシャリストについては、最初は「かなり強い立場にいる市場参加者」という印象を持ちました。

実際、スペシャリストは通常の参加者よりも注文フローや市場の状態に近い位置にいます。特定の銘柄や市場に深く関わり、流動性供給や注文処理にも関与します。その意味では、情報面・立場面で有利な存在です。

ただし、ここで理解を修正したのは、スペシャリストを単純に「強いトレーダー」と見ない方がよいという点です。

スペシャリストは、特別な位置にいる代わりに、市場品質を維持するための義務や制約も負っています。つまり、自由に利益だけを取りにいける存在ではありません。注文フローに近い一方で、流動性を出すこと、在庫リスクを抱えること、市場の秩序を壊さないことも求められます。

自分のメモでは「ほぼ全知だが、全能ではない」と書きました。
この表現は感覚としては近いですが、少し強すぎるとも思いました。

より正確には、

通常の参加者より注文フローに近いが、市場全体を完全に把握しているわけではない。情報優位はあるが、義務・在庫リスク・規則に縛られる。

という理解の方がよさそうです。

ここで重要なのは、強者を見るときに「好き勝手に勝てる存在」と考えないことです。
むしろ、強い位置にいる参加者ほど、その位置に応じた義務・制約・リスク・評判・監督を抱えている場合があります。

botterとしては、その参加者が強いかどうかではなく、その参加者がどの制約のもとでどのように流動性を出し、どの局面で引き、どの痕跡が価格や板に残るのかを見るべきだと整理しました。

内面化・優先は「信頼」だけではなく、注文フローの扱いの問題として見る

次に、内面化・優先についてです。

最初に読んだときは、「これは信頼の問題なのではないか」と感じました。顧客の注文が公開市場に直接出るのではなく、ブローカーやディーラー、マーケットメーカーの間で処理されるのであれば、顧客はその過程をどこまで信頼できるのか、という問いが自然に出てきます。

ただし、調べながら整理すると、「信頼」という言葉だけでは少し粗いと分かりました。

内面化・優先で問われているのは、次のようなことです。

  • 顧客注文を誰が受けるのか
  • その注文はどこに回されるのか
  • どの価格で約定するのか
  • ブローカーは顧客利益ではなく自社収益を優先していないか
  • 注文フローを受け取るマーケットメーカーは何を得ているのか
  • 公開市場の価格発見は弱まらないのか

つまり、内面化・優先は、単なる信頼ではなく、執行品質・利益相反・注文フローの価値・価格発見の分担をめぐる問題です。

ここで「リテール」という言葉の理解も補正しました。

金融文脈でのリテールは、小売業をする人という意味ではなく、個人投資家・個人顧客側の注文フローを指します。リテール注文は、機関投資家や高速裁定業者の注文に比べて、短期的な情報優位を持っている可能性が低いことがあります。そのため、マーケットメーカーにとっては、比較的扱いやすい注文フローとして価値を持ちます。

ただし、リテール注文を内部化して処理できるのは、公開市場が基準価格を作っているからでもあります。
公開市場で価格が形成され、その価格を参照して内部化された注文が処理される。この構造は、顧客に価格改善や高速執行を提供する可能性がある一方で、公開市場の価格発見や透明性を弱める可能性もあります。

自分の理解としては、ここでいう信頼とは、業者の善意を信じることではありません。

注文回送、報酬、約定品質、価格改善、利益相反を、ルール・開示・監督・比較可能なデータによって検証できる状態に近づけること。

これが、内面化・優先における信頼の中身だと整理しました。

市場の分散と統合は、「市場の数」ではなく「接続の滑らかさ」として見る

26章で扱われていた市場内・市場間の競争については、かなりbot開発に接続しやすい内容でした。

最初は、市場が分散しているか、統合されているかという話に見えます。
市場が統合されていれば、価格や流動性は見やすくなります。一方で、市場が分散していれば、取引所同士、ブローカー同士、ディーラー同士が注文フローをめぐって競争します。

ただ、自分の中で重要だったのは、市場の分散と統合を物理的な市場数だけで見ないことです。

市場が複数あるから分散している。
市場が一つだから統合されている。
それだけでは不十分です。

大事なのは、

価格、注文フロー、流動性、資本、情報がどれくらい滑らかにつながっているか。

同じような商品が複数市場で取引されていても、参加者が違い、取引時間が違い、手数料が違い、入出金や証拠金の制約が違い、ヘッジ手段が違えば、完全には接続されません。

逆に、物理的に別市場であっても、裁定参加者やマーケットメーカーが常に接続していれば、価格差はすぐに消えるかもしれません。

この理解は、今のリードラグ研究とかなりつながります。

市場間に遅れがあるかを見るとき、本当に見たいのは「価格がズレたか」だけではありません。
そのズレを直す参加者が誰で、その参加者がどの条件なら動けて、どの条件なら動けないのかを見る必要があります。

たとえば、Binance JapanのBTC/JPYがグローバルBTC/USDとUSD/JPYから作ったfair valueに対してズレているとしても、それだけではエッジとは言えません。
そのズレを直すべき参加者がいるのか。
その参加者は手数料・スプレッド・流動性・入出金・JPY制約を超えて動けるのか。
そのズレは何秒、何分、何時間残るのか。
このように分解してはじめて、bot開発上の観測対象になります。

今回の理解をbot開発向けに圧縮する

今回の読書と追加調査を踏まえると、自分の理解は次のように整理できます。

市場には、直接見えている価格や出来高の背後に、注文フローを受ける人、流動性を出す人、価格を接続する人、制度上の制約を受ける人がいる。

ただし、それらは多くの場合、直接は見えません。

マーケットメーカーの在庫は見えません。
APがなぜcreation/redemptionを行ったかは直接見えません。
CMEの大口参加者が何をヘッジしているかは分かりません。
Binanceの上位LPがどのコスト構造で板を出しているかも、外から完全には見えません。

だからといって、見えないものを無視するのも違います。

大事なのは、次の3分類です。

区分扱い方
直接見えるもの価格、板、スプレッド、出来高、約定、OI、fundingそのまま観測する
直接見えないものMM在庫、APの裁定判断、LPの内部条件、大口ヘッジ意図断定しない
代理変数で近づけるものspread拡大、depth減少、basis、premium/discount、出来高急増、reversion速度仮説として観測する

ここで注意すべきなのは、代理変数を作った瞬間に、それを本体と勘違いしないことです。

たとえば、spread拡大は「LP撤退そのもの」ではありません。
ETF premium/discountは「AP裁定失敗そのもの」ではありません。
CME basisは「制度金融フローそのもの」ではありません。
OI増加は「方向性需要そのもの」ではありません。

しかし、それらは構造が表に出た痕跡である可能性があります。

そのため、bot開発では、原因をラベルにしないことが重要です。

悪いラベルはこうです。

lp_withdrawal = trueinstitutional_flow = trueap_arbitrage_failed = true

これは、見えていない原因を見えたことにしてしまっています。

一方で、良いラベルはこうです。

spread_widening_flag = truedepth_thinning_flag = trueetf_premium_discount_abs_bpscme_basis_bpsoi_change_6hreversion_within_60m_flag

こちらは、観測できる事実をラベルにしています。
原因の解釈は、その後の分析レイヤーで扱えばよい。

今日の理解を一文でまとめるなら、こうです。

見えないものを無理に見えたことにしない。ただし、見えないから考えないのではなく、制度・参加者・制約から「表に出るならどの変数に出るか」を設計する。

これが、今回の24〜26章を読んで得た、自分にとって一番実務的な整理です。

この章の根拠・参照した情報

  • FINRA Rule 5310は、会員業者に対し、顧客注文について reasonable diligence により最良市場を確認し、顧客にできるだけ有利な価格で売買する義務を定めている。これは、内面化・優先を「信頼」だけではなく、執行品質と利益相反の問題として見る根拠になる。
  • FINRAのBest Executionの項では、注文ごとに執行品質を確認しない場合でも、注文執行品質について「regular and rigorous」なレビューが必要であり、少なくとも四半期ごとに、証券別・注文タイプ別でレビューする必要があると説明している。
  • SEC Rule 605は、市場センターごとの執行品質を比較・評価できるようにするための開示制度であり、SECは2024年にこの開示を現代化する改正を採択した。これは、信頼が業者の善意ではなく、比較可能なデータと開示によって担保されるべきだという理解につながる。
  • Regulation NMS Rule 606は、ブローカー・ディーラーに対して、顧客の non-directed orders の回送先に関する四半期レポートを公開することなどを求めている。FINRAも、Rule 606の開示は、顧客が注文回送・執行サービス・潜在的利益相反を理解する助けになると説明している。
  • SECのForm CRS関連FAQでは、retail investor は、主に個人・家族・家計目的でサービスを受ける自然人、またはその法的代理人として定義されている。金融文脈でのリテールを、個人顧客・個人投資家の注文フローとして理解する根拠になる。

3. 追加で調べて補強したこと

今回の読書メモでは、スペシャリスト、内面化・優先、市場間競争という概念をいったん抽象的に整理しました。

ただ、そのままだと「市場には特別な流動性提供者がいるらしい」「注文フローは市場外で処理されることがあるらしい」「市場が分散していると価格差や遅れが出るらしい」という理解にとどまりやすいです。

そこで、読書後にいくつか追加で確認しました。
特に確認したかったのは、これらの概念が、実際に自分が観測している市場ではどのような形で存在しているのかです。

具体的には、Binance / Binance Japan、CME、ETFについて調べました。

リテールとは、個人投資家・個人顧客の注文フローである

まず、「リテール」という言葉を確認しました。

金融文脈でのリテールは、小売業をする人という意味ではなく、主に個人投資家・個人顧客を指します。より実務的には、個人投資家から出てくる注文フローを指すことが多いです。

これは、市場構造を理解するうえで重要です。

リテール注文は、機関投資家の大口注文や高速裁定業者の注文とは性質が違います。一般に、注文サイズは比較的小さく、短期的な情報優位を持っている可能性も低いと見なされやすい。そのため、マーケットメーカーや internalizer にとっては、扱いやすい注文フローとして価値を持つことがあります。

ここで大事なのは、リテールを「弱い参加者」と見ることではありません。
見るべきなのは、注文フローの性質です。

同じ出来高でも、それがリテールの小口注文なのか、機関投資家の大口執行なのか、裁定業者の高速注文なのか、マーケットメーカーの在庫調整なのかで意味が変わります。

bot開発では、出来高や約定を見たときに、単に「量が増えた」と見るのではなく、その注文フローはどの種類の参加者の足跡かを考える必要があります。

内面化・優先における信頼は、透明性・開示・監督で担保される

次に、内面化・優先について確認しました。

最初は「顧客注文が市場外で処理されるなら、それは信頼の問題なのではないか」と考えました。
この理解は方向としては近いですが、もう少し分解した方がよさそうです。

内面化・優先における信頼とは、業者の善意を信じることではありません。
むしろ、顧客注文がどこに回され、どの価格で約定し、ブローカーやマーケットメーカーがどのような報酬を得ているのかを、ルール・開示・監督によって検証できるようにすることです。

ここで関係するのが、best execution、注文回送の開示、執行品質の開示、PFOFのような利益相反の開示です。

つまり、内面化・優先は、次のような問題を含んでいます。

  • 顧客にとって十分に良い価格で約定しているか
  • 注文回送先は顧客利益ではなくブローカー収益で決まっていないか
  • リテール注文フローが内部化されることで、公開市場の価格発見が弱まらないか
  • それでも顧客にとっては価格改善や高速執行というメリットがあるのか
  • それらを比較・検証できる開示があるのか

ここで理解したのは、信頼とは「人を信じること」ではなく、検証可能性の設計だということです。

これはbot開発にもそのまま接続できます。
自分が見ている板、出来高、約定履歴が、市場全体の注文フローを完全に表しているとは限りません。内部化された注文、OTC、大口のブロック取引、マーケットメーカーの内部処理など、公開市場に直接出てこないものがあるからです。

したがって、観測機で市場を読むときも、「見えているもの」と「見えていないもの」を分ける必要があります。

Binance / Binance Japanでは、NYSE型スペシャリストではなく、LP/MM/VIP制度として見る

次に、自分が実際に見ている暗号資産市場、とくにBinance / Binance Japanについて確認しました。

ここで重要だったのは、BinanceにNYSE型のスペシャリストがそのままいると考えない方がよいということです。

NYSE型のスペシャリストやDMMは、特定銘柄に対して制度上の役割を持ち、市場品質維持や流動性供給の義務を負う存在です。一方、Binanceに存在するのは、より商業的な流動性提供インセンティブです。

Binanceには、Market Maker Program、Liquidity Program、VIP制度などがあります。一定の取引量やmaker volumeを満たし、質の高いマーケットメイク戦略を持つ参加者は、手数料優遇、maker fee rebate、API制限の緩和などを受けられます。

これは、スペシャリストとまったく無関係ではありません。
実際、流動性提供者にインセンティブを与え、市場の板を厚くし、取引しやすくするという意味では、機能的に似ている部分があります。

ただし、同一視はしない方がよいです。

Binance型のLP/MMは、公共的義務を負うスペシャリストというより、取引所から手数料・リベート・接続面の優遇を受ける流動性提供者として見る方が正確です。

botter視点で重要なのは、自分と上位LP/MMではコスト構造が違う可能性があることです。

たとえば、上位LPはmaker rebateを受けられるかもしれません。API制限や低遅延接続で有利かもしれません。自分が手数料込みで取れないように見える薄いedgeでも、上位LPにとっては成立する可能性があります。

これは、Binance Japanのリードラグ研究でも重要です。

単にpremiumがあるかどうかを見るだけでは不十分です。
そのpremiumが、自分のfee、spread、slippage、約定リスクを超えるか。
さらに、上位LPや裁定参加者がなぜまだ消していないのか。
そこまで考える必要があります。

CMEは、制度金融側のリスク移転・ヘッジ・basisを見る市場として理解する

次にCMEについて確認しました。

CMEについては、自分の知識がほとんどなかったため、今回かなり重要な補強になりました。

CMEは、Binanceのような暗号資産取引所とはかなり違います。
規制された先物・オプション市場であり、清算、証拠金、限月、取引時間、ブローカー経由のアクセス、block trade、EFRPなどの制度が存在します。

ここで理解したのは、CME BTC先物を単なる「もう一つのBTC価格」と見ない方がよいということです。

CMEは、制度金融側の参加者、ヘッジャー、裁定業者、マーケットメーカーが、規制された先物市場の中でBTCリスクを移転する場所です。

したがって、CMEをlead sourceとして使う場合、価格だけを見ていると浅くなります。
見るべきなのは、CME価格と現物BTCの差、つまりbasis、出来高、OI、限月、ロール、米国時間、ETFとの同期です。

たとえば、CME basisが広がっているとき、それは単純な価格差ではなく、先物市場における資本コスト、ヘッジ需要、裁定資本制約、制度参加者の需給を含んでいる可能性があります。

もちろん、それを直接「機関投資家フロー」と断定してはいけません。
ただし、CME basisや出来高、OIは、制度金融側のリスク移転やヘッジ需要の代理変数として使える可能性があります。

この理解は、今のリードラグ研究にかなり接続します。

今後CMEを見るときは、

  • CME価格
  • 現物BTCとのbasis
  • 出来高
  • OI
  • 限月・ロール
  • 米国時間帯
  • ETF取引時間との重なり

を分けて見る必要があります。

ETFでは、APとマーケットメーカーが価格接続の中心になる

最後にETFについて確認しました。

ETFも、今回の読書範囲とかなりつながる市場でした。

ETFでは、一般投資家が取引所でETFを売買する二次市場と、Authorized Participant、つまりAPがETF発行体とcreation/redemptionを行う一次市場があります。
また、マーケットメーカーは二次市場でETFの気配を出し、取引の滑らかさを支えます。

ここで重要なのは、ETF価格が裏付け資産価値からズレたときに、APやマーケットメーカーがそのズレを埋める役割を持つことです。

ただし、APは常に裁定を行う義務を負っているわけではありません。
裁定が利益にならない場合、コストが高い場合、在庫やオペレーション上の制約がある場合、必ずしもcreation/redemptionを行うとは限りません。

ここは、スペシャリストの理解とも似ています。

APやマーケットメーカーは、価格接続において強い役割を持ちます。
しかし、全能ではありません。
コスト、在庫、リスク、取引時間、オペレーション制約の中で動いています。

spot Bitcoin ETFを見る場合も、単にETF価格を見るだけでは不十分です。

ETF出来高、ETFのspread、premium/discount、creation/redemption、米国取引時間、CME basis、BTC現物価格との接続を見る必要があります。

ETFは24時間365日動く暗号資産現物とは違い、米国株式市場の時間に強く依存します。
だから、ETFをBTCのlead sourceとして使う場合は、ETFが開いている時間帯と、BTC現物が24時間動くことのズレを前提にする必要があります。

市場ごとに「スペシャリスト的なもの」は違う

今回の追加調査で一番大きかったのは、同じ「流動性提供者」「価格接続者」といっても、市場ごとに実態が違うということです。

整理すると、以下のようになります。

市場スペシャリスト的な存在実態
NYSE型株式市場Specialist / DMM特定銘柄に対する制度上の流動性供給者
Binance / Binance JapanLP / MM / VIP上位参加者手数料・リベート・API面で優遇される商業的な流動性提供者
CMEMarket Maker / Liquidity Provider規制先物市場内の流動性提供制度、ヘッジ・basis・清算制度と結びつく
ETFAP + Market Maker一次市場と二次市場を接続し、ETF価格と裏付け価値のズレを調整する参加者

この比較で分かったのは、読書で出てきた概念を、そのまま各市場へ当てはめてはいけないということです。

「スペシャリスト」という言葉を覚えることが重要なのではありません。
重要なのは、各市場において、

  • 誰が流動性を出しているのか
  • その参加者は何を報酬として受け取っているのか
  • どの制度やルールに縛られているのか
  • どこまで公開情報として確認できるのか
  • 自分の観測データにはどの痕跡が出るのか

を分けて見ることです。

この章で補強した結論

今回の追加調査で、読書メモの理解はかなり実務寄りに修正されました。

読書直後は、市場には特別な流動性提供者や注文フロー処理の仕組みがある、という理解でした。

しかし、調べた後の理解はもう少し具体的です。

Binanceでは、スペシャリストではなくLP/MM/VIP制度として見る。
CMEでは、規制先物市場・清算・証拠金・basis・block/EFRP・限月として見る。
ETFでは、AP・マーケットメーカー・creation/redemption・premium/discount・米国sessionとして見る。
内面化・優先は、見えている板や出来高が市場全体の注文フローではないという前提として扱う。

この理解は、今後のbot開発にかなり効くと思います。

市場制度を知る目的は、見えないものを断定するためではありません。
見えない構造が、表に出るならどの変数に出るのかを考えるためです。

この点を、次の研究に持ち込みたいです。

この章の根拠・参照した情報

  • BinanceはMarket Maker Programについて、30日取引量が1,000 BTCを超える、または達成可能で、質の高いマーケットメイク戦略を持つ参加者が対象であり、手数料割引やAPI制限引き上げを受けられると説明している。これはBinance型の「スペシャリスト的な存在」を、制度上の専門家ではなく商業的なMM/LPインセンティブとして見る根拠になる。
  • BinanceのLiquidity Programページでは、Spot Maker Programについて、spot/margin取引を対象とし、fiat pairsに追加ウェイトがあり、参加時点でmaker feeが0になり、上位tierではrebateを得る可能性があると説明されている。
  • BinanceのFiat Liquidity Provider Program更新案内では、対象fiat marketにおける前週のspot取引パフォーマンスに基づいてmaker fee rebatesが配分されると説明されている。これはBinance Japanを含むJPY系市場を見る際、上位流動性提供者と一般参加者のコスト構造が異なりうることを示す。
  • CME Groupは暗号資産先物・オプションを、CFTC regulated marketplaceで取引できる商品として説明している。また、crypto futures/optionsのページでは、reference rates、real-time indices、BTIC、TAS、block trades、EFRPsなどの執行・関連制度にも言及している。CMEを単なるBTC価格ではなく、規制先物市場・清算・basis・大口取引・ヘッジの文脈で見る根拠になる。
  • BlackRockは、ETFの仕組みにおいてAuthorized Participantsとmarket makersがETF価格の正確性と取引の滑らかさに中心的役割を持つと説明している。
  • BlackRockのETF関連説明では、APはETF発行体とprimary marketでcreation/redemptionを行う金融機関であると説明されている。これはETFを二次市場価格だけでなく、一次市場のcreation/redemptionと接続して理解する根拠になる。
  • BlackRockのETF prospectusでは、APだけがFundと直接creation/redemptionできる一方、APはcreation/redemption取引を行う義務を負っていないと説明されている。APを「価格接続の権限を持つが、常に動く義務を持つわけではない参加者」として理解する根拠になる。

4. 抽象理解をbot開発文脈へ変換する

今回読んだ内容と追加で調べたことを、bot開発の文脈へ変換すると、中心になるのは次の考え方です。

市場ごとに、見えているもの、見えていないもの、見えていないが代理変数で近づけるものが違う。

これまで自分は、価格、出来高、スプレッド、板、OI、funding、premium、basis などを観測対象として扱ってきました。
しかし、今回の内容を踏まえると、それらの変数は市場構造そのものではなく、市場構造の一部が表に出た痕跡として見る方がよさそうです。

たとえば、スプレッドが広がったからといって、それだけで「流動性提供者が撤退した」とは言えません。
ETFにpremium/discountが出たからといって、それだけで「APの裁定が失敗した」とは言えません。
CME basisが動いたからといって、それだけで「制度金融フローが来た」とは言えません。

ただし、これらはまったく意味がないわけではありません。

見えない構造が表に出るとすれば、そこに出る可能性がある。
だから、代理変数として設計する価値がある。

今回の理解をbot開発へ接続するなら、ここが一番重要です。

見えているものを、まずは見えているものとして扱う

市場データとして直接見えるものはあります。

価格、板、スプレッド、出来高、約定、OI、funding、ETF価格、CME先物価格、Binance JapanのBTC/JPY価格などです。

これらは観測できます。
ただし、観測できるからといって、それがそのまま市場構造の原因を表しているわけではありません。

たとえば、出来高が増えたとします。
これは直接見える事実です。

しかし、それがリテールの小口注文なのか、機関投資家の大口注文なのか、裁定業者の注文なのか、マーケットメーカーの在庫調整なのかは、出来高だけでは分かりません。

同じように、価格差が出たとしても、それが裁定不能な歪みなのか、一時的な板の薄さなのか、片側市場の遅れなのか、見えていない大口フローの途中なのかは、その時点では断定できません。

したがって、まずは観測事実をそのまま記録する必要があります。

観測できるものまず記録する事実
価格どの市場で、どの方向に、何bps動いたか
スプレッド何bpsに広がったか、通常時と比べてどうか
板厚top-of-bookや一定bps内のdepthが増えたか減ったか
出来高どの時間帯にどれだけ増えたか
約定買い主導・売り主導らしき偏りがあるか
OI建玉が増えたか減ったか
fundingレバレッジ需要の偏りらしきものが出ているか
basis現物と先物の差が広がったか縮んだか
premium/discountETFやローカル市場が基準価値からどれだけズレたか

ここでは、原因を急がない方がよいです。

観測機の役割は、まず事実を壊さずに残すことです。
解釈はその後でよい。

見えていないものを、見えたことにしない

次に大事なのは、見えていないものを見えたことにしないことです。

今回の読書範囲で出てきたスペシャリスト、internalizer、AP、マーケットメーカー、LP、裁定参加者、ヘッジャーのような存在は、市場構造上は重要です。
しかし、外部からそれらの行動や意図を直接見られるわけではありません。

たとえば、次のようなものは基本的に見えません。

見えにくいものなぜ見えにくいか
マーケットメーカーの在庫外部からポジションや在庫調整意図を直接見られない
Binance上位LPの内部条件リベート、API優遇、個別契約、在庫方針までは公開されない
APの裁定判断creation/redemption権限はあっても、なぜ動いたかは直接見えない
CME参加者のヘッジ意図先物売買がヘッジか投機か裁定かは価格だけでは分からない
OTCやblockの背景公開板に出ない大口取引や相対取引がある
注文回送の細部顧客注文がどのような判断で回されたかは完全には見えない

この部分を無理に断定すると、観測機の設計が危うくなります。

たとえば、次のようなラベルは危険です。

lp_withdrawal = trueap_arbitrage_failed = trueinstitutional_flow = trueretail_buying = truemm_inventory_stress = true

これらは、見えていない原因をそのままラベルにしています。

もちろん、そう解釈したくなる局面はあります。
しかし、bot開発において原因をラベルにしてしまうと、後から検証するときに、観測事実と推測が混ざります。

その結果、実際には「スプレッドが広がっただけ」なのに「LPが撤退した」と記録してしまう。
実際には「ETF premiumが広がっただけ」なのに「AP裁定が失敗した」と記録してしまう。
こうなると、後から事実ベースで見直しにくくなります。

ここは今後かなり気をつけたいところです。

代理変数は、見えない構造への入口として使う

一方で、見えないから何もできないわけではありません。

むしろ、今回の読書と追加調査から学んだのは、見えない構造に対して、代理変数を設計することの重要性です。

マーケットメーカーの在庫は見えません。
しかし、スプレッド拡大、板厚減少、quote更新頻度の低下、約定後の価格戻りの弱さは、流動性提供者のリスク許容度が下がった痕跡かもしれません。

APの裁定判断は見えません。
しかし、ETF premium/discount、ETF出来高、ETF spread、BTC現物との乖離、creation/redemptionの変化は、ETF価格接続の状態を表す代理変数になりえます。

CME参加者のヘッジ意図は見えません。
しかし、CME basis、OI、出来高、限月ロール、米国session、ETF出来高との同期は、制度金融側のリスク移転やヘッジ需要を見るための補助線になりえます。

重要なのは、代理変数を本体と取り違えないことです。

見えない構造代理変数候補注意点
LP/MMの流動性供給姿勢spread widening、depth thinning、quote更新頻度、約定後reversionLP撤退そのものとは断定しない
AP/ETF裁定の状態ETF premium/discount、ETF spread、出来高、creation/redemptionAPの判断そのものではない
CME制度金融フローCME basis、volume、OI、roll proximity、session機関フローそのものではない
大口執行・ヘッジ出来高急増、価格インパクト、分割的な約定、OI変化大口の意図までは分からない
レバレッジ需要funding、OI、清算、perp spot basisロング需要・ショート需要の断定は危険
市場間接続の詰まりpremium/residual、reversion速度、cost pass率、時間帯裁定不能とは限らない

こうして見ると、代理変数は「見えないものの代わり」ではありますが、原因そのものではありません。
あくまで、構造が表に出た可能性を観測するための入口です。

Binance Japanリードラグ研究への接続

この考え方は、今のBinance Japanリードラグ研究にかなり直接つながります。

これまで、グローバルBTC/USDとUSD/JPYからfair valueを作り、Binance JapanのBTC/JPYがどの程度ズレるかを見てきました。
ただし、premiumやresidualが見えることと、それが取れることは別です。

今回の理解を踏まえると、見るべきものは次のようになります。

観測対象bot開発上の意味
premium / residual価格接続のズレ
spread bpsそのズレを取るための即時コスト
top-of-book depth実際に入れるサイズの目安
depth imbalance買い/売り方向の流動性偏り
trade direction proxyどちら側の成行が優勢か
reversion speedズレがどのくらいの時間で戻るか
cost pass after slippage手数料だけでなく板込みで取れるか
time-of-day bucketJPY市場特有の時間帯差
source session flagCME/ETFなど外部市場との接続状態

ここで重要なのは、premium_exists のような雑なラベルで止めないことです。

premiumがあるなら、次に見るべきなのは、

  • そのpremiumはどの市場由来か
  • spreadとdepthを超えているか
  • どの時間帯に出やすいか
  • どのlead sourceと同期するか
  • どれくらい滞留するか
  • 誰が戻しているように見えるか
  • 自分がtakerで入るのかmakerで待つのか

です。

とくに最後の点は重要です。
同じ価格差でも、takerで即時に入る場合と、makerで待つ場合ではEVがまったく違います。

takerなら、スプレッド、taker fee、slippageを超える必要があります。
makerなら、約定しないリスクと逆選択リスクを負います。
さらに、Binanceの上位LP/MMがmaker rebateやAPI優遇を持っているなら、自分とは違うコスト構造で板を出している可能性があります。

この差を見ないと、構造が見えても取れない、という状態になりやすいです。

CME・ETF lead sourceへの接続

CMEとETFについても、同じ考え方が使えます。

CMEを単なるBTC価格の一つとして見ると、かなり浅くなります。
CMEは、規制先物市場であり、限月、basis、証拠金、清算、block、EFRP、roll、米国時間帯などの制度的特徴を持っています。CMEの暗号資産先物FAQでも、crypto futuresがblock、BTIC、TAS、EFP/EFRPの対象になることが整理されています。

したがって、CMEを見るなら、価格だけでなく、

  • CME basis
  • CME volume
  • CME OI
  • roll proximity
  • session
  • ETF時間帯との重なり

を見た方がよいです。

ETFも同じです。
ETF価格だけを見るのではなく、ETF出来高、ETF spread、premium/discount、APのcreation/redemption、CME basis、BTC現物との接続を見る必要があります。

ただし、APの判断やマーケットメーカーのヘッジは直接見えません。
だからこそ、ETF premium/discountや出来高、spreadを代理変数として使う。

ここでも、ラベルは慎重にするべきです。

etf_ap_arbitrage_failed = true

ではなく、

etf_premium_discount_abs_bpsetf_spread_bpsetf_volume_spike_flagetf_us_session_flag

のように、観測可能な事実で残す。

そのうえで、後から「この局面ではETF市場側の価格接続が詰まっていた可能性がある」と解釈する方が安全です。

DeFi研究への接続

DeFi研究でも、この考え方はかなり使えます。

EthenaやHyperliquidを見ているときも、直接見えるものと見えないものがあります。

直接見えるのは、USDe supply、collateral backing、coverage proxy、HyperliquidのOI、funding、volume、mark priceなどです。

一方で、見えないものも多いです。

  • 誰がUSDeをmint/redeemしているのか
  • どの資本がどこへ移動しているのか
  • HyperliquidのOI増加がヘッジなのか投機なのか
  • funding変化がどの参加者層の需要を反映しているのか
  • CEXやOTCを経由したヘッジがどこで行われているのか

だからこそ、今作っている supply_state × coverage_state のようなレジーム分類は、原因ではなく観測ラベルとして扱うべきです。

expansion_coverage_improving は、Ethena需要が強いと断定するラベルではありません。
USDe supplyの24観測変化方向とcoverage proxyの24観測変化方向を組み合わせた、機械的な状態ラベルです。

この姿勢はかなり重要です。

DeFi側でも、

  • 原因をラベルにしない
  • 観測事実をラベルにする
  • 代理変数は本体ではなく入口として使う
  • 後から反応を見る

という原則を維持した方がよさそうです。

実装時の原則として残すこと

今回の内容を、今後の実装原則として残すなら、次のようになります。

1つ目は、観測事実と解釈を分けることです。

観測機は、まず事実を保存する。
解釈は別レイヤーで行う。

2つ目は、原因をラベルにしないことです。

lp_withdrawalinstitutional_flow のような原因名ではなく、spread_widening_flagcme_basis_bps のような観測名にする。

3つ目は、市場ごとに見えているものと見えていないものを分けることです。

Binance、CME、ETF、DeFiでは、それぞれ見えるものも見えないものも違います。
同じ「流動性」「注文フロー」「価格接続」という言葉を使っても、実態は市場ごとに異なります。

4つ目は、代理変数を本体と誤認しないことです。

basisは制度金融フローそのものではありません。
premium/discountはAP裁定そのものではありません。
spread拡大はLP撤退そのものではありません。
ただし、それらは構造の痕跡かもしれないので、観測する価値があります。

5つ目は、最終的には執行可能性へ戻すことです。

構造がありそうでも、fee、spread、slippage、latency、約定リスク、サイズ、運用負荷を超えなければbotとしては取れません。

したがって、今回の理解は、単なる市場構造の勉強で終わらせず、

見える変数をどう設計し、見えない構造をどう代理変数化し、最後にEVと執行可能性へどう接続するか

という形で使っていきたいです。

この章の根拠・参照した情報

  • FINRA Rule 5310は、顧客注文について reasonable diligence により最良市場を確認し、顧客にできるだけ有利な価格で売買する義務を定めている。これは、注文処理を「信頼」ではなく、執行品質・利益相反・検証可能性の問題として見る根拠になる。
  • FINRAは、best executionにおいて、注文執行品質の定期的かつ厳格なレビューが必要であり、PFOFがあってもbest execution義務を妨げてはならないと説明している。これは、内面化・優先を透明性・監督・比較可能性の問題として捉える根拠になる。
  • SEC Rule 605は、市場センターの執行品質情報を投資家や公衆が比較・評価できるようにすることを目的としている。これは、信頼が業者の善意ではなく、執行品質データと開示によって担保されるという理解につながる。
  • SECは、Rule 605の改正について、2024年に採択された改正のcompliance dateを2026年8月1日へ延長している。Rule 605の執行品質開示は現在も制度更新の対象であり、市場構造の透明性が継続的に調整されていることを示す。
  • CMEの暗号資産先物FAQでは、cryptocurrency futuresについて、block、BTIC、TAS、EFP/EFRPの対象になるかが整理されている。これはCMEを単なるBTC価格ではなく、規制先物市場・大口取引・basis・ヘッジ・清算制度と接続して見る根拠になる。

5. 今後の観測・研究に接続すること

今回読んだ24〜26章と、追加で調べた内容を踏まえると、今後の研究で意識したいことはかなりはっきりしました。

市場構造の勉強は、概念を覚えるためにやっているわけではありません。
スペシャリスト、内面化、優先、リテール、AP、マーケットメーカー、LP、basis、premium/discount といった言葉を知ること自体が目的ではない。

大事なのは、それらの概念を使って、

自分が見ている市場では、何が直接見えていて、何が見えておらず、見えていないものはどの変数に痕跡として出る可能性があるのか

を整理することです。

今回の内容を、今後の研究に接続するなら、まずはBinance Japan、CME、ETF、DeFiの4つに分けて考えるのがよさそうです。

Binance Japanでは、価格差だけでなく執行可能性を見る

Binance Japanのリードラグ研究では、これまでグローバルBTC/USDとUSD/JPYからfair valueを作り、Binance JapanのBTC/JPYがどの程度ズレるかを見てきました。

この方向性自体は悪くないと思います。
ただし、今回の内容を踏まえると、価格差やpremium/residualを見るだけでは足りません。

見るべきなのは、そのズレが自分の注文で実際に取れる状態なのかです。

そのためには、次のような変数をもう少し丁寧に見たいです。

観測対象見たいこと
spread bps価格差が即時コストを超えているか
top-of-book depth表示されている流動性でどの程度入れるか
depth within X bps少し滑らせたときの実効コスト
trade direction proxy成行買い・成行売りの偏り
reversion speedズレがどのくらいの時間で戻るか
time-of-day bucketJPY市場固有の時間帯差
cost pass after slippage手数料だけでなく板込みで取れるか
maker/taker別EV即時に取るのか、指値で待つのかを分ける

ここで特に重要なのは、makerとtakerを分けることです。

takerで入るなら、taker fee、spread、slippageを超える必要があります。
makerで待つなら、約定しないリスクと逆選択リスクを負います。

さらに、BinanceにはLP/MM/VIP制度があり、上位の流動性提供者はmaker fee rebateやAPI制限緩和などを受けられる可能性があります。Binance Futures Market Maker Programでは、対象者に通常より高いmaker rebate、API limitの引き上げ、低遅延接続サービスなどが提供されると説明されています。

つまり、自分が見ている価格差は、自分のコスト構造では取れなくても、上位LP/MMにとっては成立する可能性があります。逆に、上位LP/MMが消していないズレには、何らかの制約やリスクがある可能性もあります。

今後Binance Japanを見るときは、単に「ズレがあるか」ではなく、

そのズレを消すべき参加者は誰で、なぜまだ消えておらず、自分のコスト構造で取れるのか

という問いまで持っていきたいです。

CMEは、制度金融側のリスク移転とbasisを見る

CMEについては、今回の調査でかなり見方が変わりました。

CME BTC先物は、単なるBTC価格の別表示ではありません。
規制先物市場であり、限月、証拠金、清算、block、BTIC、TAS、EFP/EFRP、roll、米国時間帯といった制度的特徴を持っています。

CMEの暗号資産先物FAQでは、cryptocurrency futures がblock、BTIC、TAS、EFP/EFRPの対象になることが整理されています。
また、TASは日次settlement priceに対するスプレッドで取引できる仕組みで、指数を複製する場合などに有用と説明されています。

このことを踏まえると、CMEをlead sourceとして使う場合、価格だけを見るのは浅いです。

今後見るべきなのは、少なくとも次のような項目です。

観測対象見たいこと
CME basis現物BTCとの価格差、制度金融側の需給・資本コストの痕跡
CME volume米国時間帯に制度参加者の取引が増えているか
CME OI先物ポジションが増えているか、減っているか
roll proximity限月ロールの影響が出ていないか
session flagCMEが開いている時間、閉じている時間の違い
ETF session overlapETFとCMEが同時に動く時間帯の影響
block / EFRP情報公開板に出にくい大口・関連取引の補助情報

ここでも注意点は同じです。

CME basisが広がったからといって、それをそのまま「機関投資家フロー」と呼ぶのは危険です。
basisは、金利、需給、ヘッジ需要、裁定資本、証拠金制約、限月、流動性などが混ざった結果です。

だから、ラベルは institutional_flow = true ではなく、cme_basis_bpscme_oi_change のように、観測できる事実に寄せるべきです。

そのうえで、後から「この局面では制度金融側のリスク移転やヘッジ需要が表に出ていた可能性がある」と解釈する方が安全です。

ETFは、AP・マーケットメーカー・premium/discountを見る

ETFについても、今後の観測対象としてもう少し解像度を上げたいです。

ETFは、二次市場で一般投資家が売買する商品であると同時に、一次市場でAPがcreation/redemptionを行う仕組みを持っています。BlackRockは、APとマーケットメーカーがETF価格の正確性と取引の滑らかさに中心的役割を持つと説明しています。

また、BlackRockのFAQでは、APはETF sponsorとの契約によりETF sharesをcreate/redeemする権利を持つが、義務ではないと説明されています。マーケットメーカーは、売り買い両方のquoteを継続的に出すbroker-dealerであり、場合によっては同じ会社がAPとマーケットメーカーの両方を担うこともあります。

ここで重要なのは、ETFの価格接続は制度的に作られているが、完全に自動でも無摩擦でもないということです。

APやマーケットメーカーは、価格接続において重要な役割を持ちます。
しかし、常に動く義務があるわけではありません。
在庫、コスト、リスク、時間帯、creation/redemptionの条件によって、premium/discountが残ることもあります。

今後ETFを見るなら、価格だけではなく次のような変数を見たいです。

観測対象見たいこと
ETF price米国市場で取引されるBTCリスク価格
ETF volume米国投資家・機関・リテールの売買強度
ETF spread二次市場の流動性状態
ETF premium/discountETF価格と基準価値のズレ
creation/redemption一次市場で需給調整が起きているか
ETF session flagETFが取引可能な時間帯か
CME basisとの同期ETFと制度先物市場が同じ方向に動いているか
BTC spotとの乖離24/7現物市場との接続状態

自分の現行観測機では、ETFは近いsourceというより、少し遠いsourceとして見えています。
これは自然だと思います。

ETFは24/7で動くBTC現物とは異なり、米国取引時間、AP、マーケットメーカー、creation/redemption、二次市場の流動性を通ってBTCリスクを表現しているからです。

したがって、ETFをリードラグの直接シグナルとして使うより、最初は制度金融側のsession/regime tagとして扱う方が筋が良いかもしれません。

たとえば、

ETF取引時間中にETF出来高が急増し、ETF premium/discountが拡大し、CME basisも同方向に動く局面では、制度金融側のBTC需要やヘッジ需要が強まっている可能性がある。

このくらいの仮説に落とすと、価格単体を見るよりもかなり実務に近づきます。

DeFi研究では、レジームラベルを原因として扱わない

今回の考え方は、DeFi研究にもそのまま接続できます。

Ethena × Hyperliquid研究では、現在 supply_state × coverage_state による初期レジームを見ています。
これは、USDe supplyの24観測変化方向と、coverage proxyの24観測変化方向を組み合わせた機械的な分類です。

ここで大事なのは、このラベルを原因として扱わないことです。

expansion_coverage_improving は、「Ethena需要が健全に拡大している」と断定するラベルではありません。
あくまで、USDe supplyが増えていて、coverage proxyも改善しているように見える、という観測上の状態です。

同じように、Hyperliquid側のOI増加も、単純にロング需要とは言えません。
ヘッジかもしれないし、裁定かもしれないし、ショートポジションの増加かもしれないし、単に市場全体のリスク量が増えただけかもしれません。

今後DeFi側で見たいのは、次のような接続です。

観測対象見たいこと
supply_stateUSDe supplyの変化方向
coverage_statecollateral backingとの関係変化
regime run lengthレジームが状態として安定しているか
HL OI responseレジーム後に建玉が増えるか
HL funding responseレバレッジ需要の偏りが出るか
HL volume response取引活動が増えるか
mark price response価格反応はあるか。ただし主対象ではなく参考値
regime別response inventoryどの状態でどの反応が出やすいか

ここでも、原因をラベルにしないことが重要です。

ethena_demand_leads_hl_leverage = true のように書くと、まだ見えていない因果を見えたことにしてしまいます。

そうではなく、

regime_label = expansion_coverage_improvinghl_oi_change_6hhl_funding_change_6hhl_volume_change_6h

のように、観測事実を積み上げる。
そのうえで、後から「このレジームではHL側のOI反応が出やすい可能性がある」と解釈する方が安全です。

すぐやることと、保留することを分ける

今回の知識を研究へ接続するうえで、やることを増やしすぎると危険です。

市場構造の解像度が上がると、観測したいものはいくらでも増えます。
CME basis、ETF premium/discount、creation/redemption、block、EFRP、Binanceのdepth、trade direction、API制約、LP制度、DeFiの資本移動、OTC、CEXヘッジなど、全部気になります。

しかし、全部を一気に実装すると、観測機が重くなりすぎます。

今後は、すぐ観測に接続するものと、調査・理解として保留するものを分けたいです。

すぐ観測に接続できそうなもの

対象追加候補
Binance Japanspread、depth、trade direction proxy、reversion speed、time bucket
CMEbasis、volume、OI、session、roll proximity
ETFvolume、spread、premium/discount、session
DeFiregime別HL response inventory、run length、chatter診断

いったん理解・調査として保留するもの

対象保留理由
CME block / EFRP重要だが、まずは価格・basis・volume・OIの理解が先
ETF creation/redemption重要だが、データ取得頻度や使い方を確認する必要がある
Binance LP/MM制度の詳細公開情報で見える範囲に限界がある
queue position実装上重要だが、maker戦略に進む段階で深掘りする
APやMMの在庫推定代理変数化は可能だが、断定リスクが高い

この分け方をしておくと、勉強した内容をすぐに全部実装へ流し込まずに済みます。

今後の研究で使う問い

今回の内容を、今後の研究で使う問いとして残すなら、次のようになります。

1つ目。

この市場で直接見えているものは何か。

価格、板、出来高、約定、OI、funding、basis、premium/discountなどです。

2つ目。

この市場で重要だが直接見えていないものは何か。

MM在庫、AP判断、LP内部条件、大口ヘッジ意図、OTC、block、内部化された注文フローなどです。

3つ目。

見えないものが表に出るなら、どの変数に出るか。

spread、depth、volume、basis、premium/discount、OI、funding、reversion速度、sessionなどです。

4つ目。

その代理変数は、本体と取り違えていないか。

ここがかなり重要です。
代理変数は構造の入口であって、構造そのものではありません。

5つ目。

最後に、自分の注文で取れるか。

fee、spread、slippage、latency、size、約定リスク、運用負荷を超えているかを確認する必要があります。

この5つの問いを通すと、市場構造の勉強がそのままbot開発の観測設計に変換しやすくなります。

今日時点での研究接続のまとめ

今回の読書と追加調査から、今後の方針はかなり明確になりました。

市場ごとに、見えているものと見えていないものの性質は違います。

Binance Japanでは、価格差だけでなく、spread、depth、maker/taker、LP/MMとのコスト差を見る。
CMEでは、単なる価格ではなく、basis、OI、volume、session、rollを通じて制度金融側のリスク移転を見る。
ETFでは、AP、マーケットメーカー、premium/discount、出来高、spreadを通じて、ETFとBTC現物の価格接続を見る。
DeFiでは、供給・coverage・OI・funding・volumeを、因果ではなくレジームと反応として扱う。

そして、どの市場でも共通する原則は同じです。

見えているものを丁寧に観測する。
見えていないものを断定しない。
見えない構造は、制度・参加者・制約から代理変数へ落とす。
代理変数を本体と取り違えない。
最後はEVと執行可能性に戻す。

この原則を、今後のリードラグ研究とDeFi研究の両方に持ち込みたいです。

この章の根拠・参照した情報

  • Binance Futures Market Maker Programでは、参加条件として一定以上の取引量や質の高いmarket maker strategiesが挙げられ、benefitsとして通常より高いmaker fee rebates、API limits引き上げ、low latency connectivity servicesが記載されている。これはBinance系市場で上位LP/MMと一般参加者のコスト構造・接続条件が異なりうることの根拠になる。
  • BinanceのFiat Liquidity Provider Program更新案内では、maker volume percentageに応じたtierとmaker fee rebate rateが示され、weekly performance reviewが行われると説明されている。これはfiat pairにおいても流動性提供者向けインセンティブが存在することを示す。
  • Binance JapanのJPY deposit channel案内では、Fiat Liquidity Provider Programの基準を満たすeligible usersがSpot Maker Volumeに対してMaker Fee Rebateを受けられる可能性があると説明されている。これはBinance Japan / JPY系市場を見る際にも、流動性提供者のコスト構造を意識する根拠になる。
  • CMEのCryptocurrency Futures FAQでは、cryptocurrency futuresがblock、BTIC、TAS、EFP/EFRP eligibleであることが整理されている。これはCMEを単なるBTC価格ではなく、block取引、settlement基準取引、関連現物・先物取引、basisやヘッジの文脈で見る根拠になる。
  • CMEのTAS on Cryptocurrency Futures FAQでは、TASが日次settlement priceに対するspreadで取引する仕組みであり、index replicationなどで有用と説明されている。これはCMEにおける価格形成・執行手段の解像度を上げる根拠になる。
  • BlackRockは、ETFにおいてAuthorized Participantsとmarket makersがETF価格の正確性と取引の滑らかさに中心的役割を持つと説明している。ETFを二次市場価格だけでなく、AP・マーケットメーカー・creation/redemption・流動性供給の構造として見る根拠になる。
  • BlackRockのETF FAQでは、APはETF sharesのcreation/redemptionをprimary marketで管理する金融機関であり、その権利はあるが義務ではないと説明されている。また、market makersは継続的に売り買い両方のquoteを出すbroker-dealersであり、同じ会社がAPとmarket makerの両方を担う場合もある。

6. 今日時点のまとめ

今日は『市場と取引』の24〜26章を読み、スペシャリスト、内面化・優先、市場内および市場間の競争について整理しました。

読書直後の理解としては、これらは別々の制度や市場参加者の話に見えていました。
しかし、メモを書き、追加で調べ、bot開発文脈に引き寄せて考えると、今回の範囲はかなり一貫したテーマを持っていました。

それは、

市場の価格や出来高の背後には、注文フローを受ける人、流動性を出す人、価格を接続する人、制度上の制約を受ける人がいる。

ということです。

自分が普段観測している価格、スプレッド、出来高、板、OI、funding、basis、premium/discount は、表に出ているデータです。
しかし、その背後には、リテール注文、ブローカー、マーケットメーカー、LP、AP、CME参加者、ヘッジャー、裁定業者などが存在します。

重要なのは、それらを直接見えたことにしないことです。

マーケットメーカーの在庫は見えません。
APがなぜcreation/redemptionを行ったかは見えません。
CMEの大口参加者がヘッジしているのか投機しているのかは、価格だけでは分かりません。
Binanceの上位LPがどのようなリベートや接続条件で板を出しているのかも、外から完全には分かりません。

だから、見えないものを断定してはいけない。

一方で、見えないからといって考えなくてよいわけでもありません。
市場制度や参加者の制約を理解すれば、「その構造が表に出るなら、どの変数に痕跡が出るか」は考えられます。

たとえば、LPやマーケットメーカーの流動性供給姿勢は、spread拡大、depth減少、quote更新頻度、reversion速度に表れるかもしれません。
ETFの価格接続の詰まりは、premium/discount、ETF spread、出来高、creation/redemptionの変化に表れるかもしれません。
CMEの制度金融側のリスク移転やヘッジ需要は、basis、OI、volume、session、roll周辺の変化に表れるかもしれません。
DeFiの担保需要やレバレッジ需要は、USDe supply、coverage proxy、Hyperliquid OI、funding、volumeの変化として表れるかもしれません。

つまり、今日の学びはこうです。

見えているものは丁寧に観測する。
見えていないものは断定しない。
見えない構造は、制度・参加者・制約から代理変数へ落とす。
代理変数を本体と取り違えない。
最後はEVと執行可能性に戻す。

この流れを、今後の研究の基本姿勢にしたいです。

概念を覚えることではなく、観測設計へ変換することが目的

今回、スペシャリスト、内面化、優先、リテール、AP、マーケットメーカー、LP、basis、premium/discount といった言葉を調べました。

ただし、これらの用語を覚えること自体が目的ではありません。

大事なのは、それぞれの市場で、

  • 誰が注文フローを受けているのか
  • 誰が流動性を出しているのか
  • 誰が価格接続を担っているのか
  • その参加者は何を報酬として受け取っているのか
  • どの制度や制約に縛られているのか
  • その痕跡はどのデータに出る可能性があるのか

を考えることです。

同じ「流動性提供者」と言っても、市場ごとに実態は違います。

Binanceでは、NYSE型のスペシャリストというより、LP/MM/VIP制度によって優遇される流動性提供者として見る方がよい。
CMEでは、規制先物市場の中で、限月、証拠金、清算、basis、block、EFRP、roll、米国時間帯といった制度のもとでBTCリスクが移転される市場として見る方がよい。
ETFでは、APとマーケットメーカーが、一次市場のcreation/redemptionと二次市場の気配提示を通じて、ETF価格と裏付け価値を接続する仕組みとして見る方がよい。
DeFiでは、プロトコル上の供給・担保・利回り・OI・fundingを、資本移動やレバレッジ需要の直接証拠ではなく、代理変数として扱う方がよい。

このように、市場ごとに構造が違う以上、同じ観測項目を雑に横展開するだけでは足りません。

市場ごとに、見えるもの・見えないもの・代理変数で近づけるものを分ける必要があります。

原因ではなく、観測事実をラベルにする

今回の議論で、自分にとって特に重要だったのは、ラベルの付け方です。

bot開発では、ラベル名が思考をかなり強く誘導します。
もし観測機の中で、

lp_withdrawal = trueinstitutional_flow = trueap_arbitrage_failed = trueethena_demand_leads_hl = true

のような名前を使ってしまうと、その時点で原因を見えたことにしてしまいます。

しかし、実際に見えているのは、そこまでではありません。

見えているのは、たとえば、

spread_widening_flag = truedepth_thinning_flag = truecme_basis_bpsetf_premium_discount_abs_bpsoi_change_6hreversion_within_60m_flagregime_label = expansion_coverage_improving

のような観測事実です。

これは、かなり重要な違いです。

spread_widening_flag は観測事実です。
lp_withdrawal は解釈です。

etf_premium_discount_abs_bps は観測事実です。
ap_arbitrage_failed は解釈です。

cme_basis_bps は観測事実です。
institutional_flow は解釈です。

この区別を崩すと、あとから検証できなくなります。
観測機は、まず事実を保存する。
解釈は別の分析レイヤーで行う。
この分離は、今後の実装でもかなり強く意識したいです。

今後の研究では、見えない構造を代理変数へ落とす

今日の内容を今後の研究へつなげるなら、まずは大きな実装を増やすより、観測設計の整理に使いたいです。

Binance Japanのリードラグ研究では、premium/residualだけではなく、spread、depth、trade direction proxy、reversion速度、time bucket、maker/taker別EVを見る。
CMEでは、BTC価格だけではなく、basis、volume、OI、session、roll proximityを見る。
ETFでは、ETF価格だけではなく、volume、spread、premium/discount、session、可能ならcreation/redemptionを見る。
DeFiでは、regime labelを原因ではなく観測状態として扱い、HL側のOI、funding、volume反応をレジーム別に見る。

ただし、全部を一気に追加する必要はありません。

今の段階で重要なのは、研究対象を増やすことではなく、見方の精度を上げることです。
どの市場にどんな制度・参加者・制約があり、それが表に出るならどの変数に出るのか。
この問いを持っておけば、今後の観測機の拡張もかなり慎重に進められます。

特に、今後の自分に残したい問いは次の5つです。

  1. この市場で直接見えているものは何か。
  2. この市場で重要だが直接見えていないものは何か。
  3. 見えないものが表に出るなら、どの変数に出るか。
  4. その代理変数を本体と取り違えていないか。
  5. 最後に、自分の注文で取れるか。

この5つを通せば、市場構造の勉強を、単なる知識ではなくbot開発の観測設計に接続しやすくなります。

今日時点の結論

今日の時点では、まだ新しい売買判断を作る段階ではありません。

むしろ、今日やったことは、市場を見るための分類軸を増やすことでした。

スペシャリストを読んで、特別な流動性提供者は特権だけでなく義務と制約を持つことを確認しました。
内面化・優先を読んで、顧客注文の処理は信頼ではなく、執行品質・利益相反・注文フローの価値・価格発見の分担として見るべきだと整理しました。
市場間競争を読んで、分散と統合は物理的な市場数ではなく、価格・注文フロー・流動性・資本・情報の接続の滑らかさとして見るべきだと理解しました。

そして、追加で調べたことで、これらの概念が自分の見ている市場ではそれぞれ違う形で存在していることも確認しました。

Binanceでは、LP/MM/VIP制度。
CMEでは、規制先物市場、basis、block、EFRP、限月、清算。
ETFでは、AP、マーケットメーカー、creation/redemption、premium/discount。
DeFiでは、供給・coverage・OI・funding・volumeといった代理変数。

これらを踏まえると、今後の研究姿勢はかなり明確です。

市場構造を知る目的は、見えないものを断定するためではない。
見えない構造が、表に出るならどの変数に出るかを考え、観測可能な形に落とすためである。

この整理は、今後のリードラグ研究にもDeFi研究にも使えます。

今日のまとめとしては、ここまでで十分だと思います。
新しい仮説を無理に増やすより、今後の観測機や分析で使う「見方」を一段細かくできた日でした。

「市場と取引」も残り3章。そろそろ開発フェーズを再開できそうです。
それでは、また。

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