Bot CEX DeFi bot DEX 思考ログ 書籍・論文・web記事 開発ログ

🛠️開発記録#532(2026/5/3)『市場と取引』上巻を読み終えて、bot研究で見るべき市場参加者と価格の見方を整理した話

こんにちは、ぼっちbotterよだかです。

「市場と取引」の上巻を読み終えたので、メモをもとに内容と現時点での私の認識を整理しました。

前回の話
🛠️開発記録#530(2026/5/1)『市場と取引』を読みながら、スプレッドと大口取引を整理した日

続きを見る

1. 上巻を読み終えた時点での位置づけ

『市場と取引』の上巻を読み終えました。

今回の読書は、すぐに新しい売買判断を作るためのものではありません。
目的は、自分が市場をどう見ているのかを一度言葉にして、認識の抜け漏れを見つけることです。

読んでいる途中で、いくつかの概念が自分のbot研究とつながり始めました。

たとえば、リードラグ研究では、ある市場の価格変化が別の市場に遅れて伝わるかを見ています。
歪み回帰の研究では、価格差やプレミアムが戻るかを見ています。
DeFi観測では、供給・担保・利回り・OI・funding などの変化が、別の市場にどう表れるかを見ています。

これらは別々の研究に見えます。
ただ、根本では同じ問いにつながっています。

  • 誰が取引しているのか
  • 何を目的に取引しているのか
  • どんな制約を抱えているのか
  • その行動は価格や流動性にどう残るのか
  • 自分はそこから何を観測できるのか
  • それは実際に取引可能な形まで落ちるのか

上巻を読んで得た一番大きなものは、答えではなく分類軸です。

価格だけを見るのではなく、その背後にいる参加者を見る。
価格差だけを見るのではなく、その差がなぜ生じたのかを見る。
出来高やスプレッドだけを見るのではなく、それが誰の行動や制約の表れなのかを考える。

そのための言葉が少し増えました。

今回メモした主なテーマは、バリュー・トレーダー、アービトラージャー、バイサイド・トレーダーです。
それぞれ、自分の研究に接続できる部分があります。

バリュー・トレーダーからは、価値の見積もりと市場価格のズレを見る視点を得ました。
アービトラージャーからは、相対価格、ベーシス、スプレッド、ヘッジ、収斂を見る視点を得ました。
バイサイド・トレーダーからは、大きな投資判断が市場で執行されるときの制約や痕跡を見る視点を得ました。

ただし、まだ理解できていないことも多いです。

たとえば、自分の研究でいう fair value とは何なのか。
基準価格、参照価格、正常関係、ファンダメンタル・バリューをどう使い分けるのか。
アービトラージと呼んでいるものは、純粋な無リスク裁定なのか、リスクを取った相対価値トレードなのか。
バイサイド・トレーダー、大口トレーダー、PM、ブローカー、ディーラーの違いを正確に理解できているのか。

このあたりは、まだかなり甘いです。

なので、この記事では「分かったこと」を確定的にまとめるというより、現時点の認識をいったん可視化します。
そのうえで、分かっていること、分かっていないこと、これから調べることを分けます。

今後の目的は、読書内容をそのまま知識として保存することではありません。
市場を見るための判断軸に変えることです。

価格差を見たときに、すぐに「エッジかもしれない」と考えるのではなく、

  • これは誰の行動の結果なのか
  • どの制約から生まれたズレなのか
  • なぜ戻ると考えられるのか
  • 戻るとして、自分が取れる時間軸なのか
  • コストを超えて残る余地があるのか

を確認できるようにする。

上巻を読み終えた時点では、まだ答えはありません。
ただ、市場を見るための地図は少し細かくなりました。
この記事では、その地図を一度整理しておきます。

2. バリュー・トレーダーから考えたこと

バリュー・トレーダーの章では、まず「価値を見積もる」という考え方が重要だと感じました。

バリュー・トレーダーは、単に安く見えるものを買う人ではありません。
利用できる情報を集めて、対象となる商品の価値を見積もり、その見積もりと市場価格の差を見る参加者です。

ここで大事なのは、市場価格そのものが間違っていると決めつけないことです。

市場価格と自分の見積価格がズレているとき、間違っているのは市場ではなく、自分の見積もりかもしれません。
この点は、bot研究でもかなり重要だと思いました。

自分の研究でも、fair value や基準価格という言葉を使うことがあります。
たとえば、Binance Japan の BTC/JPY を見るときに、global BTC/USD と USD/JPY から fair value を作る、という考え方があります。

ただし、それは本当の意味での価値そのものではありません。
あくまで、いまの研究で使うための参照価格です。

ここを曖昧にすると危ないです。

fair value と呼んでいるものが、実際には「取引可能な基準線」なのか、「相対価格を見るための参照軸」なのか、「本源的な価値の推定」なのかを分ける必要があります。

現時点の自分の研究では、ファンダメンタル・バリューを正面から推定しているわけではありません。
むしろ、限定された市場・時間軸・情報セットの中で、比較に使える基準価格を作っている段階です。

この理解は残しておきたいです。

バリュー・トレーダーの考え方から接続できるのは、次の問いです。

  • 自分は何を価値とみなしているのか
  • その価値はどの情報から作っているのか
  • 市場価格との差は、なぜ生じているのか
  • その差は戻ると考えてよいのか
  • 戻るとして、どの時間軸で戻るのか
  • 自分のコストを超えて残る余地があるのか

この問いに答えられないまま、「ズレているから取れる」と考えるのは危ないです。

特に、自分の見積もりの方が間違っている可能性は常にあります。
これは、今後の研究でも意識したいです。

バリュー・トレーダーの章を読んで、すぐにバリュー・トレード型のbotを作ろうとは思いませんでした。
今の自分には、まだ正確な価値モデルを作る力は足りていません。

ただし、価値を見積もるという考え方は、今やっている研究にも関係します。

リードラグでも、歪み回帰でも、DeFi観測でも、何らかの基準線を置いています。
その基準線が何を意味しているのかを曖昧にしたまま進めると、検証結果の解釈も曖昧になります。

今回の時点で整理すると、こうです。

言葉現時点での扱い
ファンダメンタル・バリュー本来の価値推定。まだ自分の研究では正面から扱えていない
fair value研究上の参照価格。市場間比較のために使っている
基準価格判断の起点になる価格。必ずしも本源的価値ではない
正常関係複数市場・複数商品の間で、通常成立していそうな関係
ズレ基準価格や正常関係から外れた状態

今後は、この言葉の使い分けをもう少し厳密にしたいです。

特に、fair value という言葉を使うと、どうしても「正しい価格」のように見えてしまいます。
でも、自分が実装で作っているものは、多くの場合「正しい価格」ではなく「比較のための参照価格」です。

ここを間違えると、参照価格からのズレを過大評価してしまいます。

バリュー・トレーダーの章から得た一番大きな確認点は、ここです。

価格差を見る前に、自分が置いている基準線の意味を確認する。
そして、その基準線の方が間違っている可能性を残しておく。

これは、今後のbot研究でもかなり重要な前提になりそうです。

3. アービトラージャーから考えたこと

アービトラージャーの章では、「相対価格を見る」という考え方が重要だと感じました。

アービトラージという言葉は、つい「無リスクで価格差を取る取引」と考えたくなります。
ただ、実際に自分が研究しているものの多くは、そこまできれいな裁定ではありません。

自分が見ているのは、ほとんどの場合、相対価格のズレです。

ある市場と別の市場の価格差。
現物と先物の差。
ローカル市場とグローバル市場の差。
担保需要や利回り需要と、perp市場側の反応の差。
こうした関係が、通常の状態から外れたときに何が起きるかを見ています。

つまり、自分の研究は「純粋な無リスク裁定」ではなく、リスクを取った相対価値トレードに近いです。

ここは、言葉を分けておいた方がよいと思いました。

言葉現時点での理解
純粋な裁定同じ、またはほぼ同じ商品に価格差があり、ほぼ同時にロックできる取引
リスク裁定価格差はあるが、約定・時間・ヘッジ・収斂にリスクが残る取引
統計的裁定過去の関係や分布に基づいて、ズレの戻りを期待する取引
相対価値トレード複数の商品・市場・状態の関係を見て、割高・割安を判断する取引

今の自分の研究は、下の二つに近いです。
場合によっては、リスク裁定にも近いです。

だから、「裁定」という言葉を使うときは注意したいです。
価格差があることと、その価格差を取れることは違います。

価格差を見つけたときに確認すべきことは、少なくとも次のようなものです。

  • その価格差は、何と何の差なのか
  • その差は、通常どの範囲に収まるものなのか
  • なぜ今回は外れているのか
  • 誰がその差を解消するのか
  • どのくらいの時間で戻るのか
  • 自分はどのリスクを取っているのか
  • 手数料、スプレッド、スリッページを超えて残るのか

ここを飛ばして、「差があるから取れる」と考えるのは危ないです。

アービトラージャーの章で、自分にとって特に重要だったのは、ベーシス、スプレッド、バンド、ヘッジ・ポートフォリオです。

ただ、このあたりはまだ理解が浅いです。

ベーシスは、何かと何かの差です。
たとえば、現物と先物の差、ETFとNAVの差、ローカル価格と参照価格の差などです。

スプレッドも、文脈によって意味が変わります。
bid-ask spread のこともあれば、2つの商品や市場の価格差を指すこともあります。

バンドは、正常な範囲や許容できるズレの幅として使えそうです。
ただし、その幅を統計的に決めるのか、執行コストから決めるのか、流動性制約から決めるのかは分ける必要があります。

ここを曖昧にすると、実装でかなり危ないです。

たとえば、Binance Japan の BTC/JPY と global BTC/USD × USD/JPY の差を見る場合、その差を premium と呼ぶことがあります。
ただし、それが本当に裁定可能なベーシスなのか、単なる参照価格との差なのか、ローカル需給や入出金制約を反映した残差なのかは、別途考える必要があります。

同じ差でも、意味が違います。

また、ヘッジ・ポートフォリオについても、まだ整理が必要です。
相対価格を見るなら、本来は「どのリスクを消して、どのリスクを残しているのか」を考えないといけません。

たとえば、BTC/JPY のローカル価格差を見るとき、自分が取りたいのはローカル市場の歪みなのか、BTCそのものの価格変動なのか、USD/JPY の変動なのか。
この切り分けができていないと、相対価格を見ているつもりで、実際には別のリスクを取っている可能性があります。

これは今後ちゃんと調べたいです。

現時点で、アービトラージャーの章から得た確認点はこうです。

価格差を見るときは、まずその差の意味を定義する。
次に、その差が戻る理由を考える。
最後に、自分が取っているリスクと、消せているリスクを分ける。

この順番を守らないと、価格差を見つけただけで分かった気になってしまいます。

自分のbot研究では、リードラグも歪み回帰もDeFi観測も、相対価格や相対状態を扱っています。
だからこそ、アービトラージャーの考え方はかなり重要です。

ただし、今の自分がやっていることは、きれいな無リスク裁定ではありません。
多くの場合、戻るかもしれないズレを、コストとリスク込みで観測している段階です。

この認識は残しておきたいです。

4. バイサイド・トレーダーから考えたこと

バイサイド・トレーダーの章では、まず「バイサイド・トレーダーとは何か」を整理する必要があると感じました。

最初は、大口トレーダーとかなり近いものとして読んでいました。
ただ、厳密には少し違います。

バイサイド・トレーダーは、資産運用会社、年金基金、保険会社、ヘッジファンドなど、資産を運用する側にいるトレーダーです。
主な役割は、投資判断を市場で実行することです。

ここで分けるべきなのは、投資判断と執行判断です。

ポートフォリオ・マネージャーや運用戦略が、「何をどれだけ買うか・売るか」を決める。
バイサイド・トレーダーは、それを「どう市場で執行するか」を考える。

この違いは大事です。

バイサイド・トレーダーは、必ずしも自分でアルファを作る人ではありません。
むしろ、すでに決まった売買意図を、できるだけ低コストで、意図を読まれすぎず、必要な量だけ実行する役割を持つ人だと理解しました。

そのために、いろいろな判断が必要になります。

  • 成行で急ぐのか
  • 指値で待つのか
  • 注文を分割するのか
  • どのブローカーを使うのか
  • どの市場に出すのか
  • どこまで注文を見せるのか
  • どのくらいの価格インパクトを許容するのか
  • 約定できないリスクをどこまで許容するのか

ここで見えてきたのは、取引は「買うか売るか」だけでは終わらないということです。
むしろ、大きな注文ほど、どう執行するかが結果に大きく影響します。

大口の注文をそのまま市場に出すと、他の参加者に意図を読まれる可能性があります。
注文を見た参加者が先回りするかもしれない。
流動性が薄ければ、自分の注文で価格を動かしてしまうかもしれない。
待ちすぎると、価格が逃げて約定できないかもしれない。

つまり、バイサイド・トレーダーは、複数のコストとリスクの間で調整している存在です。

ここは、bot研究にもかなり関係します。

自分が見るべきなのは、大口の投資判断そのものではありません。
それを直接知ることはできません。
見える可能性があるのは、その投資判断を市場で執行した結果として残る痕跡です。

たとえば、

  • 出来高の増加
  • スプレッドの変化
  • 板の厚みや偏り
  • 価格インパクト
  • 約定後の価格の動き
  • 複数市場間の価格差
  • 時間帯ごとの反復的な注文
  • OI や funding の変化

こうしたものは、大口や制約ある参加者の行動の結果として表れる可能性があります。

ただし、ここもすぐにエッジとは言えません。
大口の痕跡らしきものが見えても、それが本当に大口由来なのかは分かりません。
見えた時点で遅い可能性もあります。
他の参加者も同じものを見ている可能性もあります。
逆に、自分が不利な相手と取引しているだけの可能性もあります。

だから、ここで大事なのは、痕跡を「売買シグナル」としてすぐ扱わないことです。
まずは、市場を見るための分類軸として使う。

今回、特に整理しておきたいのは、次の関係です。

役割現時点での理解
ポートフォリオ・マネージャー何をどれだけ売買するかを決める
バイサイド・トレーダーその売買判断を市場でどう執行するかを決める
ブローカー注文執行や市場アクセスを支援する
ディーラー自己勘定で売買の相手方になり、流動性を提供する
大口トレーダー注文サイズが大きく、価格インパクトや情報漏洩を気にする参加者

この表も、まだ暫定です。
特に、ブローカーとディーラーの違い、セルサイドの役割、DMA、アルゴ執行、ダークプールなどは、まだ理解が浅いです。

もう一つ注意したいのは、注文を隠すことと、市場を欺くことは違うという点です。

大口参加者が、情報漏洩や価格インパクトを避けるために注文を分割したり、表示量を調整したりすることは、執行上の工夫です。
一方で、約定する意思のない注文を出して他者を誤認させるような行為は、相場操縦や不公正取引に近づきます。

ここは今後も明確に分けたいです。

自分が研究で見るべきなのは、他者を欺く方法ではありません。
大口や制約ある参加者が、合法的な執行管理を行った結果、市場データにどんな痕跡が残るかです。

バイサイド・トレーダーの章から得た確認点は、次のように整理できます。

取引は、投資判断だけでなく、執行判断によって結果が変わる。
大きな注文ほど、情報漏洩、価格インパクト、未約定リスク、執行コストが問題になる。
そして、その調整の結果が、市場データに痕跡として残る可能性がある。

今後は、この痕跡をどう観測するかを考えたいです。

ただし、現時点ではまだ入り口です。
「大口の動きらしきものが見えた」だけでは足りません。
それが誰の行動なのか、どの制約から生まれたものなのか、自分が取れる余地があるのかを分けて考える必要があります。

この章は、個人botterとしてかなり重要だと感じました。
自分が大口になる必要はありません。
大口やバイサイドの制約を理解し、その余波を観測できるかを見ることが重要です。

5. 今回増えた分類軸

上巻を読み終えて、すぐに使える売買判断が増えたわけではありません。
ただ、市場を見るための分類軸は増えました。

これまでは、価格差やリードラグを見たときに、まず「これは取れるのか」を考えがちでした。
それ自体は必要ですが、少し急ぎすぎる場合があります。

先に見るべきなのは、その価格差や遅れが何から生まれているのかです。

今回の読書で、少なくとも次の軸を意識する必要があると感じました。

分類軸見ること
価値自分は何を基準価格・正常価格として置いているのか
相対価格何と何の価格差を見ているのか
流動性誰が即時性を求め、誰が流動性を提供しているのか
執行注文はどのように出され、分割され、約定しているのか
情報誰がどの情報を持ち、どの情報が価格に反映されているのか
制約資金、在庫、ヘッジ、規制、時間帯、入出金などの制約はあるのか
余波大口や制約ある参加者の行動後に、何が市場に残るのか

この表は、売買ルールではありません。
市場を見る前のチェックリストに近いです。

たとえば、リードラグを見つけたときに、すぐに「先に動いた市場を見て、遅れた市場で取引する」と考えるのは危ないです。
その前に、どの種類のリードラグなのかを考える必要があります。

情報が先に反映されたのか。
需給が遅れて伝わったのか。
ヘッジやリバランスの遅れなのか。
単なるデータ取得の遅延なのか。
流動性が薄くて動きが遅いだけなのか。

同じリードラグでも、意味が違います。

歪み回帰でも同じです。
価格差があることと、戻る理由があることは違います。

価格差が、ファンダメンタルなズレなのか。
ローカル市場の需給なのか。
資金移動制約なのか。
一時的な流動性不足なのか。
取得価格や参照価格の作り方による見かけの差なのか。

ここを分けないと、見えている差を過大評価してしまいます。

DeFi観測でも同じです。
USDe supply、coverage、yield、OI、funding、volume などを見ていても、それぞれが何を表しているのかを分ける必要があります。

供給増加は、需要増加なのか。
利回りの変化は、資本配分の変化なのか。
OI の増加は、方向性のあるポジションなのか、ヘッジなのか。
funding の変化は、レバレッジ需要なのか、一時的な需給の偏りなのか。

数値が動いていることと、その意味が分かっていることは違います。

今回の読書で一番確認できたのは、ここです。

市場データは、ただの数字ではありません。
参加者の目的、制約、執行、情報、流動性が混ざった結果です。

もちろん、すべてを完全に分解することはできません。
ただ、最初から混ざっているものとして扱うだけでも、かなり違います。

今後、研究対象を見るときは、最低限この順番を意識したいです。

  1. 何が動いたのか
  2. 何と何の関係がズレたのか
  3. そのズレは誰の行動や制約から生まれた可能性があるのか
  4. そのズレは戻る理由があるのか
  5. 戻るとして、自分が取れる時間軸とコストに収まるのか
  6. それは売買シグナルなのか、状態タグなのか、単なる観測対象なのか

最後の区別も大事です。

見つけたものを全部、売買シグナルにする必要はありません。
むしろ、多くのものは状態タグや観測対象で十分です。

たとえば、ETF や CME の動きは、必ずしも直接の売買シグナルではなく、制度市場の状態タグとして使う方が合っているかもしれません。
DeFi の supply や coverage も、単独の売買トリガーではなく、perp 市場を見るための背景情報かもしれません。
大口執行の痕跡も、すぐにエントリー条件にするのではなく、流動性や逆選択リスクを見るためのフィルターとして使う方が自然かもしれません。

この判断軸を持つことが、今後かなり重要になりそうです。

今回増えた分類軸は、答えではありません。
ただ、価格差やリードラグを見たときに、すぐ取引判断へ飛ばないための道具です。

これからの研究では、見つけた現象ごとに、

  • alpha なのか
  • regime filter なのか
  • risk filter なのか
  • venue selector なのか
  • timing selector なのか
  • size controller なのか
  • observer なのか
  • alert なのか

を分けて考えたいです。

この分類ができると、実装の目的もはっきりします。

売買するためのシグナルなのか。
売買を避けるためのフィルターなのか。
市場状態を理解するための観測値なのか。
あとで仮説を作るための材料なのか。

ここを混ぜると、観測機がすぐに複雑になります。
逆に、役割を分けられれば、今の研究も整理しやすくなるはずです。

上巻を読んで増えたのは、勝てる方法ではありません。
市場を雑に見ないための分類軸です。

6. まだ分かっていないこと

上巻を読み終えて、市場を見るための言葉は増えました。
ただ、その分だけ、まだ分かっていないこともはっきりしました。

まず、自分の研究で使っている言葉の定義がまだ甘いです。

fair value、基準価格、参照価格、正常関係、ファンダメンタル・バリュー。
これらは似ていますが、同じではありません。

たとえば、Binance Japan の BTC/JPY を見るときに、global BTC/USD × USD/JPY を fair value と呼ぶことがあります。
ただし、それは本源的な価値というより、市場間比較のための参照価格に近いです。

この区別を曖昧にすると、参照価格との差を「市場の間違い」のように見てしまいます。
実際には、ローカル需給、入出金制約、手数料、流動性、時間帯などが反映されている可能性があります。

次に、アービトラージまわりの理解もまだ浅いです。

特に、ベーシス、スプレッド、バンド、ヘッジ・ポートフォリオは、もっと調べる必要があります。
言葉としては分かってきましたが、実際の研究に落とすにはまだ足りません。

ベーシスは何と何の差なのか。
スプレッドは bid-ask spread なのか、商品間スプレッドなのか。
バンドは統計的な正常範囲なのか、コストを踏まえた許容幅なのか。
ヘッジ・ポートフォリオは、どのリスクを消して、どのリスクを残しているのか。

ここを分けられないと、価格差を見ているつもりで、実際には別のリスクを取っている可能性があります。

バイサイド・トレーダーについても、まだ整理が必要です。

今回の読書で、バイサイド・トレーダーは「大口トレーダーそのもの」ではなく、「運用者側の投資判断を市場で執行する役割」だと理解しました。
ただし、周辺の役割分担はまだ曖昧です。

ポートフォリオ・マネージャー。
バイサイド・トレーダー。
ブローカー。
ディーラー。
セルサイド。
取引所。
ダークプール。
DMA。
アルゴ執行。

このあたりが、実際にどうつながっているのかは、まだ十分には分かっていません。

特に知りたいのは、投資判断が実際の市場注文になるまでの流れです。

誰が何を決めるのか。
どこで注文が分割されるのか。
どの情報が誰に見えるのか。
どの段階で価格インパクトや情報漏洩が発生するのか。
どこに個人botterが観測できる痕跡が残るのか。

この流れを理解しないと、大口執行の痕跡を見たいと言っても、何を見ればよいのかが曖昧になります。

大口由来の執行コストについても、まだ仮説の段階です。

大口が市場で執行すると、価格インパクトや情報漏洩、未約定リスク、スプレッドコストが発生します。
そのコストは、個人がうまく拾えるなら、バカにならない量になる可能性があります。

ただし、それが本当に拾えるかは別です。

見えた時点で遅いかもしれません。
他の参加者も同じものを見ているかもしれません。
大口の痕跡ではなく、ただのノイズかもしれません。
拾っているつもりで、逆に逆選択を受けているだけかもしれません。

なので、ここは「有望そうな観測対象」ではあっても、まだエッジではありません。

小口フローについても、少し整理が必要です。

小口由来の細かいズレは、探索コストや執行コストに対して収益単位が小さすぎる可能性があります。
その意味では、無理に拾いにいかなくてよいものも多いはずです。

ただし、小口が群れる場合は別です。
レバレッジが乗る。
清算につながる。
特定の市場に偏る。
ミーム的な需給になる。

こういう場合は、小口由来でも構造になる可能性があります。

つまり、「大口だから見る」「小口だから捨てる」と単純には分けられません。
見るべきなのは、そのフローが市場に残す影響の大きさ、持続時間、観測可能性、取引可能性です。

最後に、今の自分にとって一番大きい未理解は、観測したものをどう分類するかです。

ある指標が動いたとき、それを何として扱うのか。

売買シグナルなのか。
レジームフィルターなのか。
リスクフィルターなのか。
venue selector なのか。
timing selector なのか。
size controller なのか。
observer なのか。
alert なのか。

この分類が甘いと、何でも売買判断に接続したくなります。
逆に、慎重になりすぎると、使える観測値まで保留してしまいます。

ここは今後の研究でかなり重要です。

現時点で、これから調べたいことを整理するとこうです。

調べること目的
fair value / 参照価格 / 正常関係の違い自分の基準線を誤解しないため
ベーシス、スプレッド、バンド価格差の意味を正確に扱うため
ヘッジ・ポートフォリオ取っているリスクと消しているリスクを分けるため
PM、バイサイド・トレーダー、ブローカー、ディーラーの関係注文が市場に出る流れを理解するため
大口執行の価格インパクト市場に残る痕跡を観測するため
implementation shortfall執行コストを具体的に理解するため
order slicing / VWAP / TWAP / POV大口注文の分割執行を理解するため
小口フローと群れた小口の違いノイズと構造を分けるため

上巻を読み終えた時点では、まだ分からないことは多いです。
ただ、何が分かっていないのかは前より見えました。

これはかなり大きいです。

今後は、分からないことを全部一気に潰すのではなく、研究に接続しやすいものから順に調べます。
特に、価格差の定義、執行コスト、大口執行の痕跡は優先度が高いです。

このあたりを理解できると、リードラグや歪み回帰を見るときの判断精度も上がるはずです。

引き続き、「市場と取引」の下巻も読みます。
それでは、また。

-Bot, CEX, DeFi bot, DEX, 思考ログ, 書籍・論文・web記事, 開発ログ