こんにちは、よだかです。
ここ数日、新しく Collateral Capacity Mismatch(CCM) というテーマを調べています。
日本語にすると、
「担保流動性と借入能力の不均衡」
くらいの意味です。
出発点にあった疑問はかなり単純でした。
市場ではそれほど大量に売れない担保に対して、レンディング側では大きな借入が積み上がっていたら、担保価格が少し悪化しただけでも大量清算につながるのではないか。
さらに、その清算によって市場で処理しきれない量の担保が動けば、
清算そのものが、さらに価格を動かす原因になるのではないか。
そこまで続くなら、最終的にはbotで観測・利用できる余地があるかもしれません。
今回はこの仮説を立てて複数の市場を調べ、4ケースまで具体的に掘ってみたので、一度ここまでの結果をまとめます。
結論から言うと、
共通して観測できそうな構造は見えてきた。
ただし、CCMという仮説そのものが正しいと確認できたわけではない。
という段階です。
出発点はMoonwell × MAMOだった
この研究を始めたきっかけは、MoonwellのMAMO市場で発生した事象でした。
ここでは薄い市場、担保評価、借入能力など複数の要素が重なり、極端な状態が発生しました。
ただし、今回調べたいのはこの事件そのものでも、攻撃方法でもありません。
気になったのは、
この極端な事例から、もっと一般的な「壊れやすい市場の条件」を取り出せないか
という部分です。
市場で簡単には処理できない担保なのに、その担保を使って大きな借入ができる。
その状態で担保評価が悪化すると、清算される借金の量だけが市場の処理能力を大きく上回る可能性があります。
そこで、
市場が受け止められる量
と、
レンディング側に積み上がっている借入・清算リスク
を一緒に見ることにしました。
【CCMの最初の仮説】

「借入能力」より、まず現在積み上がっている借入を見ることにした
CCMという名前には「借入能力」という言葉が入っています。
当初は、
この担保を使って最大どれくらい借りられるのか
を強く意識していました。
ただ、実際に4ケースを深く調べる段階では、もう少し現実に近い数字を見るようになりました。
つまり、
今、実際にいくら借りられているのか
です。
さらに、
担保評価が1%、2%、5%……と悪化したとき、その借入のうち何ドルが清算対象になるのか
を借り手ごとに計算します。
そこから、
清算によって動く可能性のある担保を、市場はどれくらい受け止められるのか
と比較する。
今のCCM研究で中心になっているのは、こちらです。
そのため現段階では、
「レンディング側が過大な借入能力を与えていることを確認した」
というより、
「市場の受け皿に対して、大きな借入・清算リスクが積み上がっているケースを確認した」
と表現した方が正確です。
広く探して、4つの市場を詳しく見ることにした
最初から4市場だけを調べたわけではありません。
複数のチェーンやレンディングプロトコルから候補を広く拾い、
本当に借入規模は大きいのか
担保を実際に売ろうとするとどれくらい価格が崩れるのか
借り手の状態まで確認できるのか
と順番に絞りました。
最終的に詳しく見たのが次の4ケースです。
| ケース | 現在の借入規模 | 借り手・口座数 | 担保評価を主に動かす仕組み |
|---|---|---|---|
| PT-reUSD / USDC | 約7,110万ドル | 149 | 市場価格・時間平均価格・換算経路 |
| PRIME / PYUSD | 約1.74億ドル | 78 | 内部の会計上の評価 |
| PT-USD3 / USDC | 約1,630万ドル | 180 | 換算レート |
| ynRWAx / USDC | 約120万ドル | 24 | 内部の会計上の評価 |
ここで予想と少し違うことが起きました。
4ケースで違ったのは「何が担保評価を動かすか」だった
研究開始時には、
薄いDEX市場で価格が下がる
↓
オラクルにも反映される
↓
清算が増える
という構造をかなり強くイメージしていました。
ところが、4ケースを実際に分解すると、そう単純ではありませんでした。
市場の価格変化を時間平均して使うものもあれば、資産の換算レートから評価するものもあります。
さらに、市場価格ではなく内部の会計上の値によって担保評価が変化するケースもありました。
以前の清算研究でも、最終的な担保価格だけを見るのではなく、
その価格がどう作られているのか
まで分解する必要があると整理しています。
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🛠️開発記録#564(2026/9/8) 清算脆弱性研究でOracleを分解する|Pendle→Morphoの担保評価経路を観測機に組み込む
続きを見る
CCMでもまったく同じ問題が出てきました。
つまり、
「担保の市場価格を見る」だけでは足りない。
何がレンディング上の担保評価を実際に動かしているのかは、担保ごとに確認する必要があります。
それでも、その先にはかなり共通した構造があった
一方で、担保評価の仕組みが違っていても、その先では同じような数字を作ることができました。
4ケースで共通して確認できたのは、
現在どれくらい借金があるか
↓
どの借り手が清算に近い位置にいるか
↓
その近くに何ドル分の借金が固まっているか
↓
担保評価が悪化すると何ドルが清算対象になるか
↓
そのとき動く可能性のある担保を市場がどれくらい受け止められるか
という流れです。
ここは、かなり面白い結果でした。
【入口は違うが、同じ構造へ合流する4ケース】

「清算まで見える」と「価格まで動く」は別だった
ここで重要な線引きがあります。
今回4ケースでかなり見えるようになったのは、
担保評価が悪化した場合、どれくらいの借入が清算対象になるのか
までです。
しかし、
清算対象になった
=
その金額がそのまま市場で売られる
わけではありません。
これは途中でかなり重要な論点になりました。
清算にはいくつか別の段階があります。
清算できる状態になる
↓
実際に誰かが清算する
↓
清算した人へ担保が移る
↓
その担保を市場で売る
↓
その売りによって価格が動く
それぞれ別です。
清算した人が担保をそのまま持つかもしれません。
別の場所で処理するかもしれません。
再び別のDeFiプロトコルで利用する可能性もあります。
つまり、
「1,000万ドル清算されたから、1,000万ドルの売り圧が発生した」
とは言えません。
【「清算」と「市場売却」を分ける】

PT-reUSDだけは、実際の清算まで照合した
4ケースのうち、PT-reUSDについては過去に実際の大規模清算が発生していたため、少し先まで確認しました。
イベント直前の借り手状態と担保評価から、
どの借り手が清算対象になるはずだったのか
を計算し、実際の清算と比較しました。
途中では大きな取得ミスも見つかりました。
借り手一覧を取得する処理が途中で止まっており、最初は34口座しか拾えていませんでした。
取得方法を修正して全体を再構築すると、対象は149口座まで増えました。
この修正後、
予測した清算額:約3,542万ドル
に対して、
実際の清算額:約3,519万ドル
となりました。
ここから、
正しい借り手一覧と、その時点の担保評価が取れれば、大量清算が発生し得る状態そのものはかなり再現できる
ことが確認できました。
清算研究を始めた経緯については、こちらの記事でまとめています。
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🛠️開発記録#560(2026/9/3) DeFi清算をbot開発の研究テーマに変えるまで
続きを見る
「取れるか?」も少し試したが、そこで止めた
PT-reUSDについては、そのまま一度だけ、
では、この現象を実際の取引へ変換できるのか
まで進めました。
清算前、清算中、清算後など複数の方向を比較した結果、比較的可能性が残ったのは、
大きな清算が終わったあと、価格の戻りを取る
という方向でした。
ただし、過去のイベント当時に実際にどの価格・数量で売買できたのかを再構成しようとすると、Pendleの取引価格を再現する計算に無視できない誤差が残りました。
その誤差は、期待できそうな値幅そのものと比べても小さくありません。
そこで、
利益が出ないと分かったから止めた
のではなく、
ここから先を判断するには、さらに重い実装が必要なので一旦止めた
という判断にしています。
edgeはまだ確認していません。
これは以前のCEX–DEX研究でも何度か出てきた、
「見える」と「取れる」は別
という問題です。
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🛠️開発記録#563(2026/9/7)CEX-DEX横断研究の更新|「見える」のに「取れない」仮説をどこで切るか
続きを見る
CCMは一つの仕組みではなく、いくつかの構造の組み合わせなのかもしれない
ここまで4ケースを見て、最初のCCMのイメージも少し変わりました。
最初は、
薄い担保市場 × 大きな借入
という一つの構造を探していました。
今はもう少し分けて考えています。
まず、
何が担保評価を動かすのか
があります。
これは市場価格だったり、換算レートだったり、内部の会計値だったりします。
次に、
借り手が清算までどれくらい近いのか
があります。
そして、
評価が変わったときに何ドルが清算対象になるのか
が決まります。
最後に、
その担保を実際の市場がどれくらい処理できるのか
があります。
つまりCCMという名前は「不均衡」を表していますが、その周辺には、
担保評価の仕組み
×
清算ライン付近の借入集中
×
清算時に動く担保量
×
市場の受け皿
という複数の構造がありそうです。
今後もし監視機を作るなら、すべての担保を同じ価格データだけで監視するのではなく、
共通して見る部分
+
担保ごとに違う評価方法
を組み合わせる形になるのかもしれません。
まだ仮説段階ですが、4ケースを調べたことでこの形はかなり見えやすくなりました。
現時点で言えること、まだ言えないこと
現時点で言えるのは、
今回選んだ4つの市場では、「借入状態 → 清算への近さ → 評価悪化時の清算可能額 → 市場の受け皿」という共通した観測方法を使えた
ことです。
一方で、
CCMが一般的に成立する
とはまだ言えません。
今回の4市場は、そもそもCCMらしい特徴がありそうだから選んだ市場です。
最初から有望そうなケースだけを調べているため、
4つ調べて4つともそれらしい構造があった
ことを、そのまま一般化することはできません。
また、
この不均衡が実際に大量清算を起こす原因なのか
清算された担保が大量に市場へ売られるのか
その売りがさらに価格を押し下げるのか
その価格変化をbotで取れるのか
もまだ確認できていません。
今回確認できたのは、そこへ進むための観測可能な構造までです。
【図4挿入予定:CCM研究の現在地】

もう一つ、まだほとんど見ていないのが「時間」だった
今回の研究では、ある時点で、
借入はいくらあるか
清算までどれくらい近いか
評価が下がるといくら清算されるか
をかなり詳しく見ることができました。
一方で、
その危険な状態がどうやって出来上がったのか
は、まだほとんど見ていません。
例えば、
借入額がいつ増えたのか。
清算ライン付近への集中がいつ始まったのか。
市場の流動性がいつ薄くなったのか。
それらを事前に何時間、あるいは何日前から検知できたのか。
この時間方向の変化は、将来的に「危険な状態を事前に見つける」のであれば重要になりそうです。
さらに、こうした状態や清算イベント自体がどの程度の頻度で発生するのかもまだ調べていません。
botとして考えるなら、
見つけられるか
だけでなく、
どれくらいの頻度で起きるのか
も当然必要になります。
次は「清算された担保がどこへ行くのか」を見る
次に確認したいのは、
清算された担保のうち、実際にどれくらいが市場で売られるのか
です。
今は、
清算され得る担保量
と
市場が受け止められる量
までは比較できます。
しかし、その担保が市場へ売られなければ、市場価格への影響をそのまま考えることはできません。
なので次は、
実際に清算された
↓
担保が清算者へ移った
↓
その後どこへ移動した
↓
どれくらいが市場で売却された
を追います。
その先で初めて、
清算可能額に対して市場の受け皿が小さいほど、本当に価格への影響も大きくなるのか
を検証できます。
さらにその後、今回とは別の市場でも同じ構造が見えるのか確認する。
ここまで進んで、ようやくCCMという仮説自体を本格的に支持・反証する段階になると思います。
今回のまとめ
CCM研究は、
市場ではあまり売れない担保に対して、大きな借入能力が与えられていたら危ないのではないか
という単純な疑問から始まりました。
4つの市場を実際に分解してみると、担保評価を動かす仕組みは想像以上にバラバラでした。
それでも、
現在の借入
→ 清算までの距離
→ 評価悪化時の清算可能額
→ 市場の受け皿
という部分は、かなり共通した形で見ることができました。
一方、
清算
→ 市場売却
→ 追加の価格変化
→ 取引可能なedge
という後半は、まだほとんど空いています。
なので現時点では、
CCMを確認できた
ではなく、
CCMという仮説を4つの候補市場へ当ててみたところ、共通して観測できる構造候補が見え始めた
くらいが正確です。
研究開始時よりも、むしろ「まだ分けて考えなければいけない場所」が増えました。
次はその中でも、清算と市場売却の間をつないでみます。
それでは、また。
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参考資料
記事末尾の一次情報は、この4本程度で十分だと思います。
Moonwell Governance Forum:MAMO Market Incident on Base Post-Mortem 公式Post-Mortem
Morpho Docs:Morphoの清算条件・仕組み Liquidation on Morpho
Pendle Documentation:PTの価格評価に使われるOracleの概要 Pendle Oracle Overview
Euler Docs:Eulerの清算メカニズム Euler Liquidations