こんにちは、よだかです。
今回は、新しく始めたScheduled Supply Revision(予定供給変更、以下SSR)という研究について書きます。
SSRは、
事前に予定されていたトークン供給が、延期・縮小・前倒しなどによって変更されたとき、市場では何が起きるのか
を調べる研究です。
例えば、大きなロック解除(unlock:一定期間移転を制限されていたトークンが、その制限を解除されること)が予定されていれば、市場参加者はその供給増加を見越して事前に売却やヘッジを行うかもしれません。
そして、その予定が突然変更されたら、それまでに作られていたポジションにも巻き戻しが起こるかもしれない。
そんな仮説から始めました。
ただ、最初のSOMIという事例を調べてみると、当初考えていた現象はあまり見えませんでした。
その代わり、
仮説をさらに細かく掘る前に、一度イベント周辺の「地図」を作ってみる
という手順に切り替えたことで、最初の仮説とは別の観測候補が見えてきました。
今回は、個別の取引戦略というよりも、その探索過程についてまとめます。
SOMIの供給予定変更から研究を始めた
今回最初に扱ったのはSOMIです。
Somniaでは、Team、Launch Partners、Investors、Advisors向けのトークンについて、もともと12カ月のロック期間が設定されていました。公式資料でも、それぞれの割り当てと解除条件が公開されています。
その後、2026年9月1日に予定変更が発表されます。
もともと9月2日に予定されていた初回ロック解除が、2027年6月2日まで9カ月延期されました。
対象は1億2740万SOMI。総供給量の12.7%にあたります。
かなり大きな予定変更です。
そこで最初に置いたのが、
大きな供給増加を警戒して事前に作られていたポジションがあるなら、ロック解除延期によってその前提が崩れ、発表後にも巻き戻しが残るのではないか
という仮説でした。
最初の仮説は、SOMIでは再現しなかった
まず、予定変更が公表された時刻の前後を再現しました。
SOMIの現物と無期限先物、未決済建玉(OI:Open Interest)、資金調達率、現物と先物の価格差などを並べ、予定変更後にも同じ方向の値動きが続いていたかを確認しました。
公表時刻についても、公式ブログだけでなく公式Xの投稿時刻まで確認し、一度置いた基準時刻を約7分修正して再計算しています。
それでも結論は変わりませんでした。
少なくとも今回確認した範囲では、
ロック解除延期の発表後に、事前ポジションの巻き戻しによる明瞭な後続値動きが残る
という最初の仮説は支持されませんでした。
ここでSOMIについては、当初の仮説を一度切ってよさそうでした。
問題は、そこからさらに同じ場所を掘り始めたことだった
ただ、研究を進めているうちに少し問いが狭くなっていました。
発表後5分ではどうだったか。
30分ではどうだったか。
公表時刻は本当に正しいか。
もっと細かい時間軸なら見えるのではないか。
一つ一つの確認自体には意味があります。
しかし、途中で、
そもそも自分は「発表後」に何かあると最初から決めてしまっていないか?
という問題が出てきました。
本来調べたかったのは、
事前に知られている大きな予定供給イベントの周辺で、個人botterが観測できそうな市場変化が存在するか
です。
予定変更後の巻き戻しは、その候補の一つにすぎません。
仮説の一つの枝を、そのまま研究目的そのものとして扱いかけていました。
そこで、元のロック解除予定日を中心に「地図」を作った
いったん時間軸を広げることにしました。
予定変更の発表時刻だけを見るのをやめ、元々ロック解除が予定されていた9月2日を中心に、約30日前からその後までの市場データを並べました。
使ったのは主に、
- SOMIの現物・無期限先物の価格と出来高
- BTC・ETHとの比較
- 値動きの大きさ
です。
最初から細かい原因分析はしていません。
まず、
30日間を一枚の地図にしたとき、どこか明らかに様子の違う場所があるか
だけを見ました。
SOMI Lifecycle Price Map(元ロック解除予定日の30日前〜2日後)

すると、予定日のかなり直前に特徴的な区間が見えてきました。
元のロック解除予定日の3日前から1日前まで、SOMIの無期限先物は約5.7%上昇。
その後、予定変更の公表までに約6.6%下落しています。
BTC・ETHと比較してもSOMI固有の値動きが大きく、同じ区間では出来高も普段より大きく膨らんでいました。
最初に探していた「予定変更後の巻き戻し」とは違う場所です。
変な場所が見つかったので、そこだけ拡大した
次に、30日すべてを詳しく調べるのではなく、特徴が見えた約2.5日間だけを5分単位まで拡大しました。
ここで初めて、
- 価格
- 出来高
- 未決済建玉
- 資金調達率
- 現物と先物の価格差
を同じ時間軸に並べました。
すると、価格が最終的なピークを付けるより前から、出来高と未決済建玉に変化が出ていたことが分かりました。
出来高の拡大が先に始まり、その後に未決済建玉が増加。価格がピークを付けた時点では、未決済建玉は分析開始時点から約35%増えていました。
さらに価格がピークから大きく反転した後も、未決済建玉はすぐには減らず、高い水準に残っていました。
SOMIの局所拡大図(価格・出来高・未決済建玉)

ここで初めて、
「後からチャートを見ると変だった」
だけではなく、
価格が大きく動き切る前から、市場の状態そのものが変化していた可能性がある
という別の候補が出てきました。
後から見えただけなのかも確認した
ただし、ここには典型的な問題があります。
価格のピークを知った後なら、
「この出来高増加が怪しかった」
「この未決済建玉の増加が前兆だった」
と、いくらでも説明できます。
そこで最後に、未来の価格データを使わず、
その時点までに取得できたデータだけを順番に見ても、「通常とは違う状態になった」と認識できたか
を確認しました。
具体的な判定値は今回のSOMIを調べながら作ったものなので、ここでは省略します。
重要なのは、未来の価格ピークを条件に使わず、過去の出来高や未決済建玉と比較して異常度を評価したことです。
その結果、価格ピークのおよそ29時間前から、出来高と未決済建玉を中心に「普段とは違う状態」と判定できる候補が確認できました。
しかも一瞬だけではなく、価格ピーク前に複数の継続区間が存在しています。
「後から見えた異常」と「当時でも観測できた異常」を分ける簡易図

ただし、まだ「取れる」とは言えない
ここは分けておきます。
今回確認できたのは、
SOMIの元ロック解除予定日前に、当時の市場データだけでも異常な市場状態として認識できそうな現象があった
というところまでです。
出来高と未決済建玉は比較的使えそうでしたが、資金調達率や現物・先物価格差は今回の初期検出では補助的でした。
一方で、
- なぜこの現象が起きたのか
- 本当に予定供給と関係していたのか
- その時点で上昇・下落のどちらを予測できたのか
- どういう条件で売買するのか
- 手数料やスリッページ(注文による価格ずれ)を考えても利益が残るのか
は分かっていません。
つまり、
「何か変なのは見えそう」
までは進みましたが、
「だから取れる」
にはまだかなり距離があります。
この「見える」と「取れる」を分けて考える話は、CEX・DEX横断研究でも整理しました。
-
-
🛠️開発記録#563(2026/9/7)CEX-DEX横断研究の更新|「見える」のに「取れない」仮説をどこで切るか
続きを見る
今回の更新は「Mapping First」
今回のSOMI研究をかなり雑にまとめると、
最初の仮説は外れた。
でも周辺を広くマッピングしたら、別の観測候補が見つかった。
という話です。
ここから、今後のイベント型研究で使えそうな手順も少し見えてきました。
Mapping First(まず地図を作る)の探索フロー

イベントを特定する
→ 周辺を安く広くマッピングする
→ 特徴的な場所がなければ捨てる
→ あれば、その局所だけ解像度を上げる
→ 当時でも見えたのか確認する
→ 見えたものだけ「拾えそうか」「取れるか」へ進める
という順番です。
ここで大事なのは、最初の仮説を捨てることではありません。
仮説があるからこそ、無限にある市場データの中から観測範囲を切れます。
ただ、
仮説を持つことと、仮説の一枝に閉じ込められることは別
ということなのだと思います。
実は「地図を先に作る」は以前にもやっていた
今回の方法自体は、新しい分析手法を発明したという話ではありません。
イベント前後を時系列で比較したり、通常時と異なる区間を探したりすること自体は一般的な分析です。
また、自分の過去記事を振り返ると、DeFiの経路探索でも以前、
「歪みを探す前に、まず地図を作る」
というかなり似たことを書いていました。
-
-
🛠️開発記録#464(2026/2/24)「歪みを探す前に地図を作ろう — マルチチェーンDeFi経路モデリングの実装記録」
続きを見る
当時は「どの経路で実際に取引できるのか」を先に整理するという意味での地図でした。
今回は、
イベントのどの時間帯に市場状態の変化があるのかを先に地図化する
という使い方です。
対象は違いますが、
結果らしきものを細かく追いかける前に、一度全体構造を描く
という点ではかなり似ています。
SOMIでは、元仮説と副次的な発見を分けて残す
今回のSOMIについては、研究記録上も二つを分けて残すことにしました。
元々検証していた、
予定供給変更後のポジション巻き戻しが、後続値動きとして残る
という仮説は、SOMIでは再現しませんでした。
一方で、
元ロック解除予定日の直前に、出来高・未決済建玉を伴う特徴的な市場状態の変化があり、それは当時のデータだけでも観測できた可能性がある
という別の候補は残します。
この二つを混ぜると、
「SSR仮説を検証してedge候補を発見した」
という、後から都合よく整理された話になってしまいます。
実際には、
最初の仮説は外れた。
その周辺を地図にしたことで、別の候補が偶然見つかった。
という順番です。
今後は他の予定供給変更事例についても、SOMIで使った具体的な判定値をそのまま持ち込むのではなく、まず同じように周辺をマッピングしてみます。
そこで何も見えなければ、その事例は深追いしない。
何か見えれば、その場所だけ拡大する。
しばらく、このやり方で研究を続けてみます。
それでは、また。
一次情報・データ
Somnia公式:予定供給変更(9カ月のRe-Lock)
元のトークン配分・ロック解除条件:Allocation and unlocks