こんにちは、よだかです。
ここ最近、xStocksを中心にトークン化株式の市場構造を観測しています。
最初にこの研究を始めたときは、
トークン化株式をオンチェーンへ持ってくると、どこに価格や流動性の歪みが生まれるのか。
というかなり広い問いから始めました。
そこから、
- 清算などの強制的な資金移動
- インセンティブによる資本移動
- 発行・焼却・大口移動
- 米国株の市場時間による流動性の変化
- 元株価との価格形成上の関係
など、いくつかの仮説へ分解しています。
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🛠️開発記録#555(2026/8/28)トークン化株式はどこで歪むのか|xStocksの市場構造を分解して観測を始めた話
続きを見る
その後、Solana上のxStocksだけでなく、Hyperliquid側の現物市場や無期限先物まで観測範囲を広げました。
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🛠️開発記録#559(2026/9/2) 仮説を検証する前に、観測経路を監査する――xStocks × Hyperliquidの観測設計を作るまで
続きを見る
今回は、その後の観測結果を受けて、
何を残し、何を保留し、研究仮説そのものをどう更新したのか。
を整理します。
現時点でも、取引上の優位性(edge)が確認できたわけではありません。
むしろ今回は、
観測した結果、最初に置いていた仮説をそのまま維持するのが難しくなった
という話です。
7日間観測して、最初の仮説を棚卸しする
最初に行ったのは、Solana側を中心とした約7日間の継続観測です。
この観測では、当初置いていた複数の仮説をすべて同じ優先度で追うのではなく、
今あるデータで、どの問いなら実際に検証できるのか。
を改めて整理しました。
その結果、清算による強制フローについては、関連するイベント自体は観測できたものの、事前に決めていた条件でイベント前後を比較できるだけのデータが揃いませんでした。
そのため、
「清算による価格の歪みは存在しない」
とは判断せず、
今回は判定できなかったので保留
としています。
また、インセンティブによる資本移動や、発行・焼却・大口移動についても観測材料は残っています。
ただ、これらは今回の7日間観測とは少し性格が違います。
インセンティブの変更であれば、公式発表や制度変更そのものがイベントの起点になります。
発行・焼却・大口移動を見るなら、より完全性の高いオンチェーン履歴が必要になります。
無理に一つの観測機で全部を検証しようとせず、今回は優先度を下げることにしました。
残ったのが、
市場時間によってxStockの売買環境や価格形成がどう変わるのか
というテーマです。
「市場が閉まると売買しにくくなる」は少し違った
当初はかなり単純に、
米国株市場が閉まる
↓
元になる市場の流動性がなくなる
↓
オンチェーンのxStockも売買しにくくなるのではないか
と考えていました。
しかし、実際の観測では、
市場が閉まると売買経路そのものがなくなる
というほど単純な結果にはなりませんでした。
Jupiterから売買可能な経路は、今回観測した範囲ではかなり高い割合で維持されています。
一方で、
- 売値と買値の幅
- 注文サイズを大きくしたときの価格への影響
- 実際に使われる流動性の供給元
などには違いが見えます。
つまり、
「売買できる/できない」より、「どのような条件で売買できるか」が変わっている可能性がある。
という整理に変わりました。
ここで最初の仮説を少し修正しています。
市場時間による売買可否
ではなく、
市場時間による流動性の質の変化
を見る方が、今回のデータには合っています。

時間帯より、「元株価が使える状態か」の方が本質では?
もう一つ観測していたのが、xStockと元になっている米国株価格との関係です。
ここでかなり大きかったのが、
時間帯そのものを変数にするより、「元株価という共通の価格基準が利用可能な状態なのか」を見た方がよいのではないか。
という仮説の更新でした。
米国株市場が動いている時間であれば、元株価も継続的に更新されます。
一方、市場が閉まれば、その価格は徐々に古くなります。
週末になれば、リアルタイムの元株価という基準そのものが事実上使えなくなります。
今回の観測でも、
米国株の通常時間や時間外では、新しい元株価を参照できるケースが大半だった一方、休場時間では急減し、週末では今回の観測上ほぼ存在しなかった
というかなり明確な違いがありました。
そこで、これまで
Session-dependent Price-Anchor Regime
市場時間帯に依存する価格アンカー
としていた仮説を、もう少し広く、
Value Anchor Regime
元株価という共通の価格基準が、どの程度機能している状態なのか
として考えることにしました。

市場時間帯そのものを捨てたわけではありません。
ただ、
市場時間
↓
元株価の更新状態
↓
オンチェーン市場の価格形成
という順番で考えた方が、今回見ている現象を整理しやすいと考えています。
ただし、時間外の価格形成自体は新しい発見ではない
ここは今回の記事で線を引いておきたい部分です。
トークン化株式が24時間取引できても、実際の取引活動は通常の株式市場が開いている時間に偏ることや、市場時間外では原資産との価格差が変化しやすいことは、すでに先行研究でも扱われています。
xStocks側も、Hyperliquidへの展開時に、伝統市場が閉じている時間帯のprice discovery(価格発見)を一つの利用場面として挙げています。
なので今回、
「トークン化株式は時間外でも動く」
ことや、
「市場が閉まると原資産との関係が変わる」
こと自体を新しい発見として扱うつもりはありません。
自分の研究として知りたいのは、もう一段先です。
共通の価格基準が強い状態と弱い状態で、複数のオンチェーン市場はどのように価格を作るのか。
ここをbotで継続的に観測できる形へ落とせるかを確認しています。
JupiterとHyperliquidを並べてみる
そこで次に接続したのが、以前作ったPhase 1Aの観測です。
ここでは、
JupiterからxStockを売買した場合の価格
と、
Hyperliquid上のxStock現物を売買した場合の価格
を比較しています。
さらにHyperliquid内部では、
xStock現物
と、
同じ株式を参照する無期限先物
も比較しています。
前回の記事では、この比較を成立させるため、
- 同じ原資産なのか
- 数量の意味がそろっているか
- どの価格を比較するのか
- 取得時刻をどう合わせるのか
といった観測仕様を先に監査しました。
今回は、その観測結果を7日間のValue Anchor研究と接続しました。
大きな価格差に見えたものを、もう一度分解する
最初にデータを見ると、JupiterとHyperliquidの間には、かなり大きな価格差が存在するように見える場面がありました。
ただ、ここで一度止まりました。
買う場合の価格差だけを見るとプラス方向。
売る場合だけを見るとマイナス方向。
この二つを別々に見ていると、
「市場間にかなり大きな価格差がある」
ように見える場合があります。
しかし、実際の売買では、
買う価格
と
売る価格
の間に幅があります。
そこで今回は、買いと売りを合わせて、
実際に売買可能な価格帯
として見直しました。
その結果、JupiterとHyperliquid現物の間で大きく見えていた差のかなりの部分は、
市場そのものの価格が大きくずれているというより、売買価格の幅で説明できる
可能性が高くなりました。
これは自分にとってかなり重要な結果でした。
見えている数字が大きいことと、
取引可能な価格差が存在すること
は同じではありません。
また一つ、候補を減らすことができました。

「元株価が使えないほど乖離する」でもなかった
Value Anchorという考え方を作った時点では、
元株価という共通の価格基準が弱くなる
↓
各オンチェーン市場が別々に価格形成する
↓
市場間の価格差が広がる
という方向を予想していました。
かなり自然に見える仮説です。
ところが、元株価の状態まで直接接続して比較できた対象では、
元株価が弱いほど市場間のズレが大きくなる
という単純な方向は支持できませんでした。
ここでValue Anchorという考え方自体を捨てるのではなく、
方向を決め打ちするのをやめました。
現在の仮説は、
元株価という共通の価格基準が機能している状態と、機能していない状態では、各市場の価格形成の仕方が変化するのではないか。
です。
「弱いほど乖離が大きい」ではありません。
どちらの状態で、どのような違いが出るのか。
そこから確認し直します。
例えば、元株市場が活発に動いている時間ほど、新しい情報が次々と入ってきます。
その場合、
元株が動く
↓
それぞれの市場が異なる速度・流動性で反応する
↓
一時的に市場間の差が生じる
という逆方向の可能性もあります。
ただし、これは今回確認できた事実ではありません。
次に検証する仮説候補です。
仮説を更新すると、残す研究も変わる
ここまで進めた結果、最初に置いていた研究テーマをかなり減らしました。
清算については、今回のデータだけでは判断できないので保留。
インセンティブや供給フローは、別の観測方法が必要なので今回の主研究から外しました。
JupiterとHyperliquidの比較についても、見かけ上の価格差の多くを売買価格の幅として説明できる可能性が高くなり、優先度を下げています。
一方、
現物市場と無期限先物の価格形成
には、もう少し確認する価値がありそうな組み合わせが残りました。
具体的な銘柄、注文サイズ、時間帯、判定条件については現在も研究中のため、ここでは扱いません。
現時点では、
候補が一つ残った
くらいの認識です。
当然、
edge_confirmed = false
のままです。
候補が残ったので、その前に観測機を疑う
通常なら、ここから残った候補をさらに深掘りしたくなります。
ただ今回は、その前に観測機そのものを監査しました。
理由は単純で、
候補を一つまで絞ったなら、次はその候補が本当に市場現象なのかを厳しく確認する必要がある
からです。
長時間観測のデータを改めて確認すると、一部の市場データ取得経路が途中で停止していたにもかかわらず、Run全体としては正常終了扱いになっていたことが分かりました。
取得できていた範囲については、保存した生データから再計算しても結果は一致しています。
つまり、
データを間違って計算していた
という問題ではありません。
問題は、
データ取得が途中で止まったことを、観測機が正常に検知できていなかった
ことでした。
そのため、この時点で追加の結果解釈を止めました。
そして、
- 接続が切れた場合の復旧
- データ更新が止まっていないかの監視
- 一部の観測機だけ停止した場合の異常検知
- 「プログラムが最後まで動いた」ではなく「必要なデータが最後まで取れた」ことを成功条件にする
といった部分を修正しています。
短時間試験と故障時の試験まで通した上で、現在はcleanな24時間観測を取り直しています。
「仮説を検証する前に観測経路を監査する」の続き
以前の記事では、
仮説を検証する前に、そもそも何を観測すればその仮説を検証したことになるのかを確認する
という話を書きました。
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🛠️開発記録#559(2026/9/2) 仮説を検証する前に、観測経路を監査する――xStocks × Hyperliquidの観測設計を作るまで
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今回、その続きとして分かったのは、
観測仕様を決めただけでは終わらない
ということでした。
観測機を24時間動かしたなら、
本当に24時間、必要な観測経路が生きていたのか。
まで確認する必要があります。
数字が出ていること。
プログラムが正常終了していること。
その数字を研究結果として使ってよいこと。
これは別です。
面白そうな結果が見えたときほど、そこを一度疑う必要があります。
今回、候補をそのまま追いかけず観測基盤側へ戻ったのは、そのためです。
米国株側も24時間へ近づいている
もう一つ、この研究を続ける上で気になっているのがTradFi側の変化です。
米SECは2026年9月17日に、米国株の24時間取引に向けた準備をテーマとするroundtableを予定しています。
議題には、
- overnight trading
- market surveillance
- clearing / settlement
- liquidity
- 24時間市場へ向けたインフラ
などが含まれています。
現在のxStocks研究では、
米国株市場が閉まる
↓
リアルタイムの元株価という基準が弱くなる
↓
オンチェーン市場だけが動き続ける
という時間帯を研究対象にしています。
しかし、もし元の米国株市場そのものが将来的に24時間取引へ近づけば、この時間帯は短くなる可能性があります。
つまり、仮に現在何らかの価格形成上の歪みが存在するとしても、
その歪みが将来も同じ形で残るとは限らない。
ということです。
これはまだ先の話ですが、
edgeがどこから生まれるか
だけではなく、
市場構造の変化によって、そのedgeがどう消えていくか
も合わせて考える必要がありそうです。
現時点での研究仮説
今回の観測を経て、現在の研究テーマはかなり圧縮されました。
最初は、
トークン化株式は市場時間外で歪むのではないか。
という見方でした。
現在は、
元株価という共通の価格基準が、利用できる状態と利用しにくい状態で、複数のオンチェーン市場はどのように価格を形成するのか。
という問いに変わっています。

そして、
元株価が使えないほど価格差が大きくなる
という方向までは決めません。
まず実際に何が変化しているのかを観測します。
その上で、
見えている差は単なる売買コストなのか。
一時的な価格更新速度の差なのか。
市場ごとの需給差なのか。
継続的に収束する現象なのか。
を分けていきます。
まとめ
今回は、xStocksの7日間観測と、Jupiter・Hyperliquidを横断した観測結果を使って、研究仮説を更新しました。
最初は、
市場時間
↓
流動性低下
↓
価格乖離
という比較的単純な構造を想定していました。
しかし実際には、
- 市場が閉まっても売買経路そのものはかなり残る
- 変化しているのは売買環境の質かもしれない
- 時間帯より、元株価という共通の価格基準が使える状態かどうかの方が重要そう
- ただし「元株価が弱いほど市場間乖離が広がる」という単純な方向は支持できない
- 大きく見えた市場間価格差の一部は、売買価格の幅として説明できる
- それでも追加確認する価値がありそうな候補は一部残った
- 候補を深掘りする前に観測機を監査すると、長時間観測の完全性にも問題が見つかった
というところまで進みました。
その結果、現在は、
時間帯による価格差を探す
という研究から、
共通の価格基準と、複数市場の価格形成の関係を観測する
という研究へ少し形が変わっています。
また今回、
仮説が外れること
候補が減ること
観測機の問題が見つかること
も研究を前に進める情報だと改めて感じました。
edgeらしきものが見えたら実装を進める。
ではなく、
それは本当にedgeなのか。
その数字は何を表しているのか。
その観測機は最後まで正常に動いていたのか。
を確認する。
現在は観測基盤を修正し、cleanな24時間データを取り直しているところです。
その結果を見てから、残った候補をもう一段調べるか判断します。
現時点では、
取引上の優位性は未確認です。
引き続き、
何が見えるのか。
どの仮説を残すのか。
その中に実際に取れるものがあるのか。
を分けながら検証していきます。
それでは、また。
参考・一次情報
xStocks:Hyperliquidへの展開
Hyperliquid上でxStocksの現物市場が24時間利用可能になったこと、および伝統市場が閉じている時間帯のprice discovery(価格発見)という位置づけの確認に使用しています。
SEC:米国株の24時間取引
米国株市場の取引時間拡張と、それに伴う流動性・監視・清算決済などの議論を確認するために使用しています。
- U.S. Securities and Exchange Commission:Roundtable on Preparations for 24-Hour Trading
先行研究:トークン化資産の市場時間と価格差
24時間取引可能なトークン化金融商品でも取引活動が通常市場時間へ集中することや、時間外で原資産との価格差が変化することは既存研究でも扱われています。
- Stefan Scharnowski:Fractional and around the clock: Trading activity in tokenized financial assets
Journal of International Financial Markets, Institutions and Money, 2026
今回の記事では、これら既知の現象そのものを新しい発見として扱うのではなく、自分のxStocks研究でどの変数を観測し、仮説をどう更新したかに焦点を置いています。