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🛠️開発記録#569(2026/9/14) 清算を「先に見る」研究:オラクル分解から見えてきた、予測と実行の距離

こんにちは、よだかです。

しばらく続けている清算脆弱性研究で、ようやく研究の狙いを一段整理できるところまで来ました。

この研究でやりたいことは、清算が起きた後を眺めることではありません。

清算が起きる前に、そのきっかけとなる状態変化を見つけられないか。

さらに一歩進めるなら、

次に清算される借り手を事前にかなり絞り込み、実際の清算や、その周辺で発生する取引機会を先に取りにいけないか。

これが本来の目的です。

MorphoやPendle、オラクルそのものを研究したいわけではありません。

それらは、清算が起きる仕組みを分解していった結果、たまたま深く掘ることになった対象です。

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清算を「先に見る」ために、どこを観測するのか

清算は突然発生しているように見えても、その直前まで何も起きていないわけではありません。

借り手の負債が増える。

担保の価格が下がる。

価格を決める仕組みが変化する。

時間平均の価格が少しずつ悪化する。

こうした状態変化が積み重なり、最後に「この借り手はもう清算可能」という条件を超えます。

ならば、最終的な清算だけを見るのではなく、そこへ至る途中を分解すればよいのではないかと考えました。

今の研究では、だいたい次のように整理しています。

【清算までの上流構造】

かなり単純です。

見えるか。
予測できるか。
取れるか。
儲かるか。

最近は、この4段階で研究を整理するようになってきました。


PT担保では、オラクルの比重が大きかった

Morpho × PendleのPT担保市場を深く調べてきた理由も、この清算経路を分解するためでした。

PT担保では、清算判定に使われる価格が、その瞬間の市場価格をそのまま使っているとは限りません。

Pendle側の価格形成。

一定時間の平均。

時間経過による割引。

複数の価格候補の比較。

それらを組み合わせた最終的な担保価格。

複数の段階を通って、ようやくMorphoで使われる価格になります。

つまり、この市場ではオラクル――担保価格を決める仕組み――が清算条件へ強く接続しています。

そこで、

最終的な担保価格だけを見るのではなく、その内部を分解すれば、清算より前の変化が見えるのではないか。

と考えました。

【PT担保の価格が清算判定へ届くまで】

ここはかなり進みました。

現在は34のMorpho市場、10種類のオラクル構造について、価格がどの経路を通って作られているかをかなり細かく追えるようになっています。

実際のブロックを使い、

「このオラクルならこの値になるはず」

とこちらで計算した結果と、実際のコントラクトが返す値を一致させるところまで確認しています。

少なくとも、

「清算判定に使われている価格がブラックボックスで分からない」

という状態からは、かなり抜けることができました。

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ただし、オラクルが一番早く異変を教えてくれるわけではなかった

ここで、2026年8月25日に発生したPT-reUSDの大規模清算を、当時のブロックまで戻って再現しました。

この事例は通常の市場変動というより、短時間に大きな取引が集中した特殊な事例なので、これだけで一般化することはできません。

それでも、「強い負荷をかけたときに何がどの順番で動くか」を見る材料としては使えます。

時系列を並べると、こうなりました。

【8月25日の市場変化から清算までの時間軸】

ここで重要なのは、オラクルが最速の異常検知器ではなかったということです。

市場側の変化の方が数分早く確認できました。

では、オラクルを分解した意味がなかったかというと、そうとも言い切れません。

市場で大きな売りが出ていること自体は、ある程度観測できます。

しかし、それだけでは、

この下落がMorphoではどの程度の担保価値低下になるのか。

どの借り手が危険なのか。

どの程度の借入額が清算圏へ入りそうなのか。

までは分からないからです。

しかし、オラクルを分解すると、市場側で起きている変化をMorpho上の清算条件へ翻訳できます。

ここには明確な使い道がありました。


清算リスクを数値化する仕組みも作れた

オラクルの状態と借り手の清算ラインを組み合わせると、

この市場状態が続いた場合、あとどの程度で誰が清算圏へ入るか。

を計算できます。

研究途中では、これを簡易的な「リスクエンジン」のように使いました。

8月25日の事例では、1000万ドルを超える借入が清算圏へ入り得る状態を、最初の実清算より132秒前に確認できました。

ただし、ここは誤解してはいけません。

「132秒後に清算が起きる」と正確に予測したわけではありません。

その時点の市場状態が続けば、将来的にその規模の清算条件へ届く可能性が見えていた、という意味です。

それでも、

清算されてから借り手を探すのではなく、清算される前に危険な借り手を絞れる可能性

は見えてきました。

一方で、このリスク計算自体は本来の研究目的ではありません。

あくまで、清算を先に見るために作れた道具の一つです。


一度、「清算後の売り」を狙おうとして遠回りした

清算を事前に予測できるなら、

大量の担保が清算され、その担保が市場へ売られるところを先回りできるのではないか。

という仮説も立てました。

しかし、この枝はかなり弱い結果になりました。

8月25日のPT-reUSDでは約3860万PTが清算で移転した一方で、直接Pendle市場へ売られたと確認できた量は約59万PTでした。

約1.5%です。

最大の清算者は、大量のPTを即座に売るのではなく、再び担保として使い、借入へ回すような資金循環を行っていました。

さらに、他のPT担保市場でも過去の清算を横断して確認しました。

44の清算イベント群を拾い、その中から候補を絞って追加調査しましたが、別の事例でも清算されたPTの即時売却比率は約0.4%、約3.0%程度でした。

少なくとも、

「大規模清算が起きれば、そのまま大量のPTが市場へ投げ売りされる」

とは考えない方がよさそうです。

ここは一つ枝を落としました。

ただし、清算研究そのものが失敗したわけではありません。

清算情報の使い道の一つが弱かっただけです。


そもそも、清算そのものを取ればいい

そこで、もっと直接的な問いに戻りました。

清算される借り手を事前に絞れるなら、清算後の市場を待たずに、清算そのものを取りにいけばよいのではないか。

清算者は、借り手の負債を返済する代わりに担保を受け取り、その差分を報酬として得ます。

ならば、

清算されてから気づくのではなく、清算される前に対象・必要資金・取引経路まで準備しておければ有利になる可能性があります。

この考え方で、実際のMorpho Ethereum L1の清算競争も確認しました。

25件の清算取引、11市場を対象に調べたところ、

確認した全事例で、清算可能になったブロックと同じ、またはその次のブロックまでに清算されていました。

かなり速いです。

ただし、ブロックの中で正確にどの瞬間に清算可能になったかまでは今回解決できていません。

そのため、

Ethereum L1のMorphoでは絶対に勝てない。

とまでは言えません。

現在の判定は、

「技術的には可能性がありますが、かなり競争が激しそうです」

というところに置いています。

【「予測できる」と「実際に取れる」の間】

ここでようやく、

「見える」と「取れる」は別問題

ということがはっきりしてきました。

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戦場をずらす

Morpho Ethereum L1で見えてきたのは、

  • 清算につながる状態はかなり細かく見える
  • 清算前に危険な借り手を絞れる可能性もある
  • しかし実際の清算競争はかなり速い

という組み合わせでした。

ここで重要なのは、

Morpho Ethereum L1で勝つこと自体が研究目的ではない

ということです。

清算を先に予測する能力が作れるなら、その能力がもっと価値を持つ市場を探せばよいと考えています。

別のチェーン。

別のレンディング市場。

違う清算方式。

オラクル以外の清算トリガー。

Morpho × Pendleで作った観測方法を持ったまま、戦場をずらせます。

むしろ今後探したいのは、

清算前の状態がよく見えて、しかも実際の清算競争が今より緩い場所

です。


仮説を更新する

研究を始めた頃は、

オラクルを細かく見れば、清算を先に予測できるのではないか。

くらいに考えていました。

今はもう少し広く考えています。

一部のレンディング市場では、清算される前に、その条件へ近づいている状態を観測できる。

その状態から、

  • 次に清算されそうな借り手を予測できるか
  • その予測が十分早いか
  • 実際の清算競争へ間に合うか
  • 最後に利益が残るか

まで通った場所に、清算edgeが存在する可能性があります。

だから今後の研究では、

見えるか。
予測できるか。
取れるか。
儲かるか。

この順番で候補を落としていきます。

オラクルは、そのための観測手段の一つです。

Morphoは、最初に深く分解したケースの一つです。

Risk Engineも、そこから作れた道具の一つにすぎません。

研究の主語は最初から、

清算脆弱性

にあります。


「見える清算」から「取れる清算」へ

ここまでで、清算経路をかなり細かく分解することはできるようになりました。

ただし、分解できること自体に価値があるわけではありません。

その情報を使って、他の参加者より早く次の清算を絞れるのか。

そして、その時間差を実際の取引へ変えられるのか。

ここから先は、

「もっと細かく見る」研究から、「見えているものの中で、実際に取れる場所を探す」研究へ移ります。

Morpho Ethereum L1で厳しければ、別の場所へ行けばよいと考えています。

同じくらい清算が見えるのであれば、もっと取りやすい市場を探します。

それでは、また。

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