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🛠️開発記録#552(2026/6/10)「金融マーケット予測ハンドブック」(1,2章)の熟読と考察メモ

こんにちは、よだかです。

今日から、bot開発の合間に『金融マーケット予測ハンドブック』を再読しています。

過去に読んだときは、「良い本だなぁ」くらいのふわっとした認識で流していたのですが、今回あらためて熟読してみると、アルゴトレーダーとしての示唆をかなり多く含んだ本だと感じました。

特に、金融予測を単なる相場当てではなく、情報を集め、分類し、構造化し、判断に変えるプロセスとして捉えると、botの観測機や判定機の設計にも接続できる部分が多くあります。

そのため、今回は本書の内容をそのまま要約するのではなく、読書メモ、追加リサーチ、現時点での事実認識、そこから得た考察をまとめていきます。

今日は、本書の1章・2章を読んだ段階での整理です。まだ本書全体を読み切ったわけではないので、結論を強く作るのではなく、現時点での仮説として残しておきます。

1章 金融予測の本を読み始めて、まず引っかかったこと

『金融マーケット予測ハンドブック』を読み始めて、最初に残ったのは、金融予測を「相場を当てる技術」としてだけ見るのは狭い、ということでした。

予測には、少なくとも二つの要素があります。

情報を集めること。
集めた情報を判断に変えること。

情報がなければ、判断材料が足りません。
一方で、情報を並べるだけでも予測にはなりません。

金利、為替、景気、物価、財政、企業活動、家計、海外要因。
金融市場に接続する情報は多くあります。

ただし、それらは同じ階層にあるわけではありません。

政策金利のように、他の市場に波及する上流の情報もあります。
GDPや景気動向指数のように、経済全体の状態を確認するための情報もあります。
企業サーベイのように、企業側の見通しや計画を把握するための情報もあります。
価格、出来高、板、約定のように、実際の売買の現場に近い情報もあります。

これらをすべて同じ「データ」として扱うと、判断が混線します。

上流の情報は、環境認識に使うもの。
中流の情報は、戦場選定や需給確認に使うもの。
下流の情報は、執行可否や短期判断に使うもの。

このように分けて考える必要があります。

今回、本書の1章・2章を読んだ段階で、自分の関心は個別の統計名そのものよりも、情報の扱い方に向きました。

どの情報が先行するのか。
どの情報が遅れて出てくるのか。
どの情報が市場に織り込まれやすいのか。
どの情報は改定されるのか。
どの情報が現場に近いのか
各種統計情報の代表性には、それぞれどのような限界があるのか。

金融予測を考える場合、この整理を避けると、情報量が増えるほど判断が鈍ります。

これはbot開発にもそのまま接続します。

botterにとって、観測機は単にデータを集める部品ではありません。
どの階層の情報を見ているのかを分ける部品でもあります。

判定機も、数値を足し合わせるだけの部品ではありません。
性質の違う情報を、混ぜてよいものと、混ぜてはいけないものに分ける部品でもあります。

今回の読書では、まずこの点を確認しました。

金融予測は、情報収集だけでは成立しない。
知識だけでも成立しない。
情報を集め、分類し、構造化し、判断に変える過程が必要です。

本書を読む目的も、そこにあります。

金融市場の予測手法をそのまま受け取るためではありません。
自分のbotが、どの情報をどの階層で観測し、どの判断に接続するのか。
その設計を見直す材料として読む。

まずは、金融予測を「情報をどう扱うか」という問題として捉え直す。
そこから整理を始めます。

2章 統計はすべて同じ「データ」ではない

金融市場を見るための情報には、さまざまな種類があります。

GDP。
景気動向指数。
日銀短観。
雇用統計。
物価指数。
金利。
為替。
出来高。
板。
約定。

これらはすべて「データ」と呼ぶことができます。

ただし、同じ性質のものではありません。

経済全体を広く捉える統計もあれば、現場に近い変化を拾うデータもあります。
代表性の高い統計もあれば、速報性に寄った調査もあります。
後から改定される統計もあれば、発生した時点でログとして確定するデータもあります。

同じ「数字」であっても、使える判断は違います。

たとえば、GDPやSNAは経済全体を見るための上位統計です。
生産、分配、支出、資本蓄積、資産や負債などを、体系的に捉えるための枠組み。

これは、経済全体の地図に近いものです。

一方で、短期の売買判断にそのまま使うには距離があります。
公表までに時間がかかります。
速報値から改定されることもあります。
経済全体の状態を確認するには使えますが、個別の執行判断には遠い情報です。

日銀短観は、企業の景況感や計画を見るためのサーベイです。
企業が現在の業況をどう見ているか。
先行きをどう見ているか。
設備投資や価格、為替前提をどう置いているか。

これは、企業活動そのものを直接測るというより、企業側の認識や計画を捉える統計です。

景気ウォッチャー調査は、現場に近い人々の景況感を拾う調査です。
小売、飲食、サービス、雇用など、地域の景気に接する人々の見方を集めます。

これはGDPよりも現場に近い情報です。
ただし、主観を含みます。
調査対象の属性にも影響されます。

鉱工業指数は、生産、出荷、在庫、在庫率などを見る統計です。
製造業の動きや在庫循環を確認するときに使いやすい情報です。

雇用統計も、一つの数字だけでは見えません。
完全失業率は労働市場全体の水準を見ます。
有効求人倍率は求人と求職の需給を見ます。
新規求人倍率は、求人側の変化を比較的早く拾います。

同じ雇用関連でも、見ている断面が違います。

物価統計も同じです。
足元のCPIを見るのか。
生鮮食品やエネルギーを除いた基調を見るのか。
企業物価を見るのか。
サービス価格を見るのか。

数字の種類によって、政策判断への接続も変わります。

このように考えると、統計を読むとは、数字を拾うことではありません。

その数字が何を観測しているのか。
どの範囲を代表しているのか。
どれくらい早く出るのか。
どれくらい改定されるのか。
主観を含むのか。
実体に近いのか。
市場価格に織り込まれやすいのか。

こうした性質を確認することが必要になります。

調査単位が上流にある統計ほど、全体像を捉えやすくなります。
その代わり、速報性や執行判断との距離には制約があります。

調査単位が末端に近づくほど、現場の変化を拾いやすくなります。
その代わり、代表性や再現性には制約があります。

上流統計は地図。
末端データはセンサー。

地図は、現在地や全体の構造を把握するために使います。
センサーは、目の前の変化や執行可能性を確認するために使います。

地図にセンサーの役割を求めると、反応が遅くなります。
センサーに地図の役割を求めると、局所的な変化を全体構造と誤認します。

これは、アルゴトレードでも同じです。

取引所の板や約定は、現場に近いデータです。
スプレッド、板厚、約定速度、スリッページなどを見るには適しています。

しかし、そこから市場全体の地合いを直接判断するには距離があります。

逆に、金利やマクロ統計は、市場環境を見るためには使えます。
ただし、今この瞬間にどの価格で注文を出すかを決めるには遠い情報です。

つまり、データには役割があります。

上流の情報は、環境認識。
中流の情報は、戦場選定。
下流の情報は、執行判断。

この役割を分けずに、すべてを同じデータとして判定機に流すと、判断の階層が混ざります。

金融予測のために統計を読むことは、単に経済指標を覚えることではありません。
その統計が、どの階層で、どの判断に使えるのかを分けること。

今回の読書で、まず整理すべきだと感じたのはこの点です。

3章 景気循環を見るなら、「波」よりも実体の土台を見る

2章では、国内経済の見方として、景気循環についても扱われていました。

景気循環には、いくつかの古典的な分類があります。

在庫循環としてのキチン波。
設備投資循環としてのジュグラー波。
建築循環としてのクズネッツ波。
技術革新などに関連づけられるコンドラチェフ波。

こうした分類は、景気の波を理解するための型として使えます。

ただし、型だけを覚えても、実務には接続しにくいです。

見るべきなのは、波の名前ではありません。
その波を生む土台です。

在庫循環であれば、在庫があります。
企業は需要を見込み、生産し、在庫を持ちます。
需要が想定を下回れば在庫が積み上がり、生産調整が起きます。
需要が戻れば在庫調整が進み、再び生産が増えます。

この繰り返しがあるから、在庫循環という見方が成り立ちます。

設備投資循環であれば、企業の投資判断があります。
設備は一度投資すると、短期では簡単に増減できません。
需要見通し、金利、資金調達、稼働率、利益見通し。
これらが設備投資の判断に影響します。

建築循環であれば、住宅や建設投資のストック調整があります。
人口、所得、金利、土地価格、建築コスト、政策。
これらが建築需要を変化させます。

つまり、循環には、それを生む実体があります。

周期性らしきものが見える。
だから、その周期が今後も続く。

この順番で考えると、見かけのパターンを構造と取り違えます。

まず確認すべきなのは、その周期を生む行動や制約が存在するかどうかです。

誰がその行動をしているのか。
なぜ繰り返されるのか。
どの資源に制約があるのか。
どの指標で確認できるのか。
どの局面で崩れるのか。

景気循環を読むときには、波の分類よりも、この確認が必要になります。

これはアルゴトレードでも同じです。

実際、価格に周期性が見えることがあります。

特定の時間帯に動きやすい。
特定の曜日に偏りがある。
特定のイベント前後に同じような動きをする。
一定の価格差が発生して、戻るように見える。

しかし、それが構造から来ているとは限りません。

たまたま見えているだけかもしれません。
過去の期間だけで成立した偏りかもしれません。
一部の大口、取引所仕様、流動性、資金調達、清算、リバランス、インセンティブ設計などによって、一時的に発生していただけかもしれません。

周期性を見るなら、その裏側にある実体を確認する必要があります。

たとえば、取引所間の価格差を見る場合。
価格差が発生して戻る、という現象だけを見るのでは足りません。

なぜ価格差が発生するのか。
どの市場が先に動くのか。
どの市場に流動性があるのか。
誰が裁定しているのか。
なぜ裁定が遅れるのか。
手数料、送金制約、板厚、約定速度、建玉、資金調達率、法定通貨ペアの違いはどう影響するのか。

こうした実体を確認しなければ、価格差の周期性はただの見かけになります。

DEXやオンチェーンでも同じです。

プール間の価格差がある。
一定時間で解消される。
特定のルートに歪みが出やすい。

そう見えたとしても、確認すべきことは多くあります。

プールの流動性。
手数料。
ガス代。
MEV。
ルーターの仕様。
ブリッジ制約。
トークンの発行・償還。
インセンティブ。
大口アドレスの行動。
清算や担保需要。

これらがなければ、見えているパターンが継続する理由を説明できません。

景気循環論から得られる示唆は、周期を信じることではありません。

周期らしきものを見るときに、その周期を生む実体を確認すること。
その実体を観測できる指標を探すこと。
その指標がどの時間軸で効くのかを分けること。

この順番で見ていくことになります。泥臭いですね。

景気循環の分類は、経済を見るための入口にはなります。
ただし、実務に接続するには、波の名前ではなく、波を生むメカニズムを見る必要があります。

在庫循環なら在庫。
設備投資循環なら投資判断。
建築循環ならストック調整。
価格差なら裁定制約。
オンチェーンの歪みなら流動性、手数料、実行コスト、参加者行動。

ざっと挙げるとこんなところでしょうか。ホントはまだまだありますがキリがないので、割愛。

見えている変動の背後に、再現される行動や制約があるか。

この確認を挟むことで、単なるパターン観察と、実体に基づく観測を分けられます。

4章 現時点の事実認識を雑にしないために確認したこと

ここまで、本書の1章・2章を起点に、金融予測における情報の扱い方を整理してきました。

ただ、考察だけを進めると、土台になる事実認識が粗くなります。

景気循環。
景気動向指数。
GDPやSNA。
企業サーベイ。
雇用。
物価。
金融政策。
財政。

これらは調べれば確認できる事実です。
だからこそ、雑な印象で扱わない方がよいです。

まず、日本の景気循環について。

内閣府ESRIが公表している景気基準日付では、公式に確定している景気循環は第16循環までです。第16循環は、2012年11月を谷、2018年10月を山、2020年5月を谷とする循環です。

したがって、2020年5月以降の局面を考えることはできますが、公式に次の山や谷が確定しているわけではありません。

ここは言い切りすぎない方がよいです。

現在の景気局面を語る。
しかし、公式な景気循環としては未確定の部分がある。
この区別を念頭におく。

次に、景気動向指数です。

景気動向指数には、先行指数、一致指数、遅行指数があります。

先行指数は、数か月先の動きを見るもの。
一致指数は、現在の景気の動きを見るもの。
遅行指数は、後から景気の動きを確認するもの。

同じ景気指標でも、時間軸が違います。

また、CIとDIも役割が違います。

CIは、景気変動の大きさやテンポを見るための指標。
DIは、改善している系列の割合を見るための指標。

方向を見るのか。
量感を見るのか。
現在を見るのか。
先行きを見るのか。
事後確認に使うのか。

ここを分けないと、景気動向指数という名前だけが残ります。

GDPやSNAも確認しておきたいところです。

GDPは、一定期間の経済活動を測るフロー統計です。
SNAは、GDPを含む国民経済計算の体系です。

生産。
分配。
支出。
資本蓄積。
資産と負債。

こうした経済全体の構造を整合的に見るための枠組みです。

ただし、速報性には限界があります。
速報値は後から改定されます。
短期の執行判断に直接使う情報というより、経済全体の地図を作るための情報です。

日銀短観は、企業の景況感や計画を見るサーベイです。

企業が現在の業況をどう見ているか。
先行きをどう見ているか。
設備投資をどう計画しているか。
価格や為替の前提をどう置いているか。

企業活動そのものを直接測るというより、企業側の認識と計画を見る統計です。

景気ウォッチャー調査は、現場に近い景況感を拾う調査です。

小売。
飲食。
サービス。
雇用。
地域の現場。

GDPよりも末端に近い情報です。
その分、速報性はあります。
一方で、主観や調査対象の偏りも含みます。

鉱工業指数は、生産、出荷、在庫、在庫率を見る統計です。

在庫循環を見るなら在庫。
生産調整を見るなら生産。
需要とのズレを見るなら出荷と在庫率。

景気循環を「波」として見るだけでなく、その波を生む実体を確認するための統計です。

雇用統計も、一つの数字では足りません。

完全失業率なら、労働市場全体の水準。
有効求人倍率なら、求人と求職の需給。
新規求人倍率なら、求人側の変化。

水準と方向。
ストックとフロー。
結果と先行き。

同じ雇用関連でも、見ているものは違います。

物価も同じです。

総合CPI。
生鮮食品を除くCPI。
生鮮食品とエネルギーを除くCPI。
企業物価。
サービス価格。

足元の数字を見るのか。
基調を見るのか。
企業側のコストを見るのか。
サービス価格への波及を見るのか。

政策判断に接続するなら、単純な上昇率だけでは足りません。

金融政策については、過去の変遷も確認しておく必要があります。

たとえば、2001年から2006年までの日銀の量的緩和政策。

これは、単に金利を低くした政策ではありません。
金融市場調節の操作目標を、無担保コールレートから日本銀行当座預金残高に移した政策です。

金利から量へ。
価格から残高へ。
通常の金利操作が効きにくくなった局面での政策対応。

現在の金融政策を見るときも、この変遷を踏まえる必要があります。

最後に、財政です。

財政を見るときは、一般会計だけでは足りません。
特別会計もあります。
国と地方の財政もあります。
SNAベースの財政収支もあります。

また、プライマリーバランスだけを見ても足りません。

PB。
債務残高対GDP比。
名目成長率。
金利。
利払い費。
国債需給。
日銀の国債買入れ。

これらをセットで見なければ、財政と金利の関係は見えにくくなります。

ここで確認したかったのは、日本経済の細かい解説ではありません。

統計や制度には、それぞれ役割があるということです。

景気循環は、公式な山と谷を持つ。
景気動向指数は、先行・一致・遅行を分ける。
GDPやSNAは、経済全体の地図。
短観は、企業の認識と計画。
景気ウォッチャーは、現場感。
鉱工業指数は、生産と在庫。
雇用統計は、労働市場の水準と方向。
物価統計は、足元の数字と基調。
金融政策は、金利と量の操作。
財政は、収支、債務、成長率、金利の組み合わせ。

ざっと挙げるとこんなところです。

必要なのは、統計名を覚えることではありません。

その統計が何を見ているのか。
どの時間軸で効くのか。
どの判断に使えるのか。
どこから先は別の情報で補うべきか。

この切り分けです。

事実認識を補強する作業は、考察を止めるためのものではありません。
考察の土台を雑にしないためのものです。

5章 クリプトにおける「実体」は何か

伝統的なマクロ経済を見る場合、実体として扱いやすいものがあります。

生産。
消費。
雇用。
設備投資。
在庫。
住宅。
貿易。
物価。

これらは、経済活動としての実体を持っています。

もちろん、統計には限界があります。
調査方法もあります。
速報性や改定リスクもあります。
それでも、何を観測しているのかは比較的定義しやすいです。

在庫循環なら在庫。
設備投資循環なら設備投資。
雇用を見るなら失業率や求人倍率。
物価を見るならCPIや企業物価。

観測対象と統計の対応関係を作りやすい。

一方で、クリプトではこの対応関係がそのまま使えません。

クリプトにおける実体とは何か。

ここが曖昧なまま、景気循環や需給分析の考え方だけを移植すると、見ている対象がぼやけます。

BTCの価格が上がる。
あるチェーンのTVLが増える。
DEX出来高が増える。
ステーブルコイン供給が増える。
ETFに資金が流入する。
建玉が増える。
ファンディングレートが上がる。
オンチェーン手数料が増える。

これらはすべて、何らかの市場活動を示しています。

ただし、それぞれが同じ意味を持つわけではありません。

利用なのか。
投機なのか。
裁定なのか。
レバレッジなのか。
外部資金流入なのか。
一時的なインセンティブ反応なのか。
既存金融からの接続なのか。

ここを分ける必要があります。

たとえば、ステーブルコイン供給は、クリプト市場における流動性を見る材料になります。

ただし、それが即座にリスク資産への買い圧になるとは限りません。
取引所に置かれているのか。
DeFiで使われているのか。
送金や決済に使われているのか。
待機資金として滞留しているのか。

同じステーブルコインでも、用途によって意味が変わります。

DEX出来高も同じです。

出来高が増えた。
だから実需が増えた。

この接続は短すぎます。

裁定取引かもしれません。
MEV由来かもしれません。
インセンティブ狙いかもしれません。
一部の銘柄だけの回転かもしれません。
流動性が薄い市場で、見かけの出来高が大きく見えているだけかもしれません。

出来高を見るなら、その出来高が何によって発生しているのかを見る必要があります。

TVLも同じです。

TVLが増える。
一見すると、エコシステムに資金が集まっているように見えます。

しかし、TVLにはトークン価格の上昇も反映されます。
インセンティブによる一時的な預け入れもあります。
同じ資金が複数プロトコルをまたいで見かけ上膨らむこともあります。
ブリッジやレンディングの構造によって、実態の把握が難しくなることもあります。

TVLは便利な指標です。
ただし、単体で実需を表すものではありません。

建玉やファンディングレートも、実体とは少し違います。

建玉は、ポジションの積み上がり。
ファンディングレートは、現物と先物、ロングとショートの需給差。

これらは市場の偏りを示します。
ただし、生活経済的な実需ではありません。
金融市場内部の需給です。

それでも、クリプトではこの金融市場内部の需給が価格形成に大きく影響します。

ここが伝統的なマクロ経済との違いです。

伝統的な経済では、実体経済があり、その上に金融市場があります。
クリプトでは、金融市場そのものが実体のように振る舞う場面があります。

CEXの板。
デリバティブの建玉。
ステーブルコインの移動。
オンチェーンの担保。
DEXの流動性。
清算ライン。
ETFフロー。
ブリッジ流入。
トークンアンロック。

これらが、価格形成の土台になる。

つまり、クリプトにおける実体は、伝統的な生産・消費・雇用だけでは捉えられません。

金融市場内部の活動。
流動性の配置。
担保需要。
レバレッジ需要。
裁定制約。
資金移動。
制度接続。
プロトコル利用。

こうしたものを、実体に近い観測対象として扱う必要があります。

ただし、すべてを実体と呼ぶと、また話がぼやけます。

ここも区別した方がよいです。

実利用。
投機需要。
裁定需要。
担保需要。
レバレッジ需要。
流動性供給。
インセンティブ反応。
外部資金流入。
制度・規制による接続。

ざっと分けるなら、このあたりでしょうか。

この分類を持たずに、単に「オンチェーンが強い」「TVLが増えた」「出来高が増えた」と見ると、観測対象が混ざります。

実利用が増えているのか。
投機が増えているのか。
レバレッジが積み上がっているのか。
裁定が回っているだけなのか。
外部資金が流入しているのか。
一時的なインセンティブに反応しているのか。

同じ増加でも、意味が違います。

ここで考えるべきなのは、クリプトにおいて何を「実体」として扱うかです。

伝統的な経済では、在庫や設備投資や雇用のように、比較的わかりやすい実体があります。
クリプトでは、実体が金融市場の内部に埋め込まれています。

だから、より丁寧に分解する必要があります。

このプロトコルは、何の需要を満たしているのか。
その需要は継続するのか。
一時的な報酬で作られた需要なのか。
外部から資金が入っているのか。
内部で資金が回っているだけなのか。
その市場には裁定者がいるのか。
裁定が遅れる制約は何か。
流動性はどこにあるのか。
レバレッジはどこに積まれているのか。
清算されると、どこに価格圧力が出るのか。

この問いを置かないと、クリプトの需給や循環を読みにくくなります。

本書の景気循環や統計の見方をそのままクリプトに移すことはできません。
しかし、考え方は使えます。

波を見るなら、波を生む実体を見る。
統計を見るなら、統計が何を観測しているかを見る。
市場を見るなら、その市場の需要がどこから来ているかを見る。

この順番を意識する。

クリプトでは、実体そのものがまだ定義しにくい。
だからこそ、最初に観測対象を分ける必要があります。

価格だけを見るのか。
流動性を見るのか。
建玉を見るのか。
担保を見るのか。
利用を見るのか。
外部資金流入を見るのか。
制度接続を見るのか。

それぞれ、見ているものが違います。

ここを混ぜると、判断が粗くなります。

クリプトにおける「実体」は、単一の指標では捉えにくいです。
むしろ、複数の層に分かれた市場活動として見る方がよさそうです。

実利用の層。
流動性の層。
レバレッジの層。
裁定の層。
外部資金流入の層。
制度接続の層。

どの層が動いているのか。
どの層が価格に接続しているのか。
どの層が一時的で、どの層が継続しやすいのか。

クリプトの需給を読むには、この分解から始める必要があると考えています。

6章 botの観測機・判定機にどう接続するか

ここまで考えると、botの観測機や判定機を作るときにも、同じ整理が必要になります。

情報を集める。
数値化する。
判定に使う。

この流れだけだと、まだ粗いです。

問題は、その情報が何を見ているのかです。

環境認識なのか。
戦場選定なのか。
需給確認なのか。
執行可否なのか。
リスク制御なのか。

ここを分けないと、観測した情報を同じ箱に入れることになります。

金利と板。
ETFフローと約定。
ステーブルコイン供給とスプレッド。
CME建玉とDEXプール残高。
マクロ統計と注文失敗率。

これらは、すべて市場に関係する情報です。
ただし、同じ階層の情報ではありません。

上流情報は、環境認識に使うものです。

金利。
ドル流動性。
金融政策。
ETFフロー。
ステーブルコイン供給。
規制。
マクロ指標。

これらは、今の市場がリスクを取りやすい環境なのか、資金が入ってきやすい環境なのか、流動性が厚くなりやすい局面なのかを見るために使います。

上流情報は、地図に近いです。

現在地を確認する。
相場の制約条件を見る。
無理に攻める局面か、待つ局面かを分ける。
どの市場に資金が向かいやすいかを考える。

ただし、上流情報だけでは、今この瞬間に注文を出せるかどうかは分かりません。

金利がこうだから買う。
ETFフローがあるから今すぐ入る。
ステーブルコイン供給が増えたからこの板で執行する。

この接続は遠いです。

上流情報は、執行判断ではなく、環境認識に使う。
ここを分ける必要があります。

中流情報は、戦場選定や歪みの発生条件を見るための情報です。

取引所間価格差。
現物先物乖離。
建玉。
ファンディングレート。
出来高。
板厚。
銘柄別の流動性。
チェーン間の資金移動。
プールごとの流動性分布。

これらは、どこに歪みが出やすいかを見るために使います。

BTCで見るのか。
アルトで見るのか。
JPY建てで見るのか。
USD建てで見るのか。
現物で見るのか。
デリバティブで見るのか。
CEXで見るのか。
DEXで見るのか。

戦場選定の層です。

ここでは、上流情報よりも市場に近くなります。
ただし、まだ執行そのものではありません。

価格差がある。
建玉が偏っている。
ファンディングが高い。
流動性が増えている。

それだけでは、実際に取れるとは限りません。

手数料。
スリッページ。
約定速度。
板の厚み。
注文サイズ。
ガス代。
失敗率。
競合bot。

ここを確認しないと、見えている歪みは利益になりません。

下流情報は、執行判断に使うものです。

板。
約定。
スプレッド。
スリッページ。
注文失敗率。
レイテンシ。
ガス代。
プール残高。
ルート実行可否。
実際の約定可能サイズ。

ここは、戦う直前の情報です。

入れるか。
サイズを落とすか。
見送るか。
分割するか。
キャンセルするか。
別ルートに逃がすか。

下流情報は、センサーに近いです。

現場に近い。
反応が早い。
執行に接続しやすい。

その代わり、代表性は弱くなります。

特定取引所の板が薄い。
特定プールの流動性が歪んでいる。
特定時間帯に約定が偏っている。

これは、その場の執行判断には使えます。
しかし、市場全体の地合いを説明するには足りません。

下流情報を見て、上流の結論を作らない。
上流情報を見て、下流の執行を決めない。

この分離が必要です。

観測機を作るときには、まず役割を決める必要があります。

この観測機は、地合いを見るのか。
戦場を絞るのか。
歪みを検出するのか。
執行できるかを見るのか。
リスクを止めるためのものなのか。

役割が違えば、評価基準も変わります。

地合いを見る観測機なら、速報性よりも代表性や安定性が必要になります。
戦場選定の観測機なら、継続性と比較可能性が必要になります。
執行判断の観測機なら、速度と正確性が必要になります。
リスク管理の観測機なら、異常検知と停止判断への接続が必要になります。

全部に同じ性能を求めると、設計がぼやけます。

判定機も同じです。

判定機は、観測値を足し合わせるだけのものではありません。

上流の判定。
中流の判定。
下流の判定。

これを分ける必要があります。

上流の判定では、今は攻める地合いか、守る地合いかを見る。
中流の判定では、どの市場、どの銘柄、どの経路に寄せるかを見る。
下流の判定では、今この瞬間に実行するかどうかを見る。

この階層を分けずに、一つのスコアにまとめると、理由の違う情報が混ざります。

たとえば、上流環境はよい。
しかし、下流の板は薄い。

この場合、結論は「環境はよいが、今の執行は見送り」かもしれません。

逆に、下流の価格差はある。
しかし、上流環境は悪く、流動性が抜けている。

この場合、短期の歪みに見えても、回収不能な方向に動いている可能性があります。

上流と下流の判定が食い違うことはあります。
その食い違いを、平均して消してはいけません。

むしろ、食い違いそのものを情報として扱うべきです。

上流はリスクオン。
中流は歪みあり。
下流は執行不可。

上流は悪い。
中流は一部市場に資金集中。
下流は一時的に取れる。

こういう状態を分けて扱う。

そのためには、観測機の段階で情報の階層を持たせておく必要があります。

取得レイヤー。
正規化レイヤー。
観測レイヤー。
判定レイヤー。
執行レイヤー。

この分離も、単なるソフトウェア設計上の都合ではありません。

情報そのものの性質が違うから、レイヤーを分ける必要があります。

取得レイヤーでは、データを取る。
正規化レイヤーでは、単位、時刻、取引所差、欠損、異常値を整える。
観測レイヤーでは、意味のある指標に変換する。
判定レイヤーでは、階層ごとの判断を作る。
執行レイヤーでは、実際の注文やルート選択に落とす。

たとえば、ステーブルコイン供給量を取るだけでは観測機になりません。

供給量の増減。
取引所への流入。
DeFiでの利用。
チェーン別の偏り。
CEXとオンチェーンの接続。
価格への反応。

どの意味に変換するかで、観測機の役割が変わります。

板データも同じです。

板を取るだけでは足りません。

スプレッド。
板厚。
約定可能サイズ。
キャンセルの速さ。
価格差の持続時間。
実際のスリッページ。

どの判断に使うかを決めなければ、データは増えても判定にはつながりません。

色々並べてみましたが、結局、今回の読書で整理できたのは、ここです。

観測機は、単に情報を集める装置ではない。
情報の性質を分類する装置でもある。

判定機は、単に数値を足し合わせる装置ではない。
階層の違う情報を混線させないための装置でもある。

上流は地図。
中流は戦場選定。
下流はセンサー。
執行層は実行条件。

それぞれ役割が違います。

この役割を分けることで、botの判断は少し整理しやすくなります。

どの情報を見るか。
どの階層で見るか。
どの判断に使うか。
どの情報とは混ぜないか。

今後も観測機や判定機を作るときには、この問いを先に置いた方がよさそうです。

データを増やす前に、情報の役割を分ける。
指標を足す前に、判断の階層を分ける。
判定を作る前に、何を判定しているのかを定義する。

この順番で考えた方が、実装の迷子になりにくいと感じています。

こうして書いてみると、これって割と当たり前のことなんですけど、私はついついサボりがちなので。

7章 現時点では結論ではなく、仮説として残す

ここまで、『金融マーケット予測ハンドブック』の1章・2章を起点に、金融予測、統計、景気循環、クリプトにおける実体、botの観測機設計について整理してきました。

まだ読み始めた段階なので、本書全体から何かを言い切る段階ではありません。

ただ、現時点で残しておきたい仮説はあります。

金融予測は、相場を当てる作業というより、情報をどう扱うかの問題に近い。

どの情報を見るか。
どの階層の情報として扱うか。
どの時間軸で効くのか。
どの判断に接続するのか。
どの情報とは混ぜない方がよいのか。

この整理なしに情報を増やしても、判断が良くなるとは限りません。

むしろ、情報量が増えるほど、判断の階層が混ざりやすくなります。

上流の情報。
中流の情報。
下流の情報。
執行層の情報。

これらは、同じ「データ」ではありません。

上流は地図。
中流は戦場選定。
下流はセンサー。
執行層は実行条件。

地図は、現在地と環境を把握するためのもの。
戦場選定は、どこに歪みが出やすいかを見るためのもの。
センサーは、目の前の変化を拾うためのもの。
実行条件は、実際に取れるかどうかを確認するためのもの。

それぞれ役割が違います。

景気循環についても、同じことが言えます。

波を見るだけでは足りません。
その波を生む実体を見る必要があります。

在庫循環なら在庫。
設備投資循環なら投資判断。
建築循環ならストック調整。
価格差なら裁定制約。
オンチェーンの歪みなら流動性、手数料、実行コスト、参加者行動。

見えている変動の背後に、再現される行動や制約があるか。

ここを確認しないまま周期性を信じると、見かけのパターンに寄ります。

クリプトでは、この確認がさらに難しくなります。

伝統的な経済であれば、生産、消費、雇用、在庫、設備投資、物価など、実体として扱いやすい対象があります。

一方で、クリプトでは、金融市場そのものが実体のように振る舞う場面があります。

ステーブルコイン供給。
CEXとDEXの出来高。
建玉。
ファンディングレート。
DEXの流動性。
オンチェーン担保。
清算ライン。
ETFフロー。
トークンアンロック。

これらは、生活経済的な実需とは違います。
ただし、価格形成には接続します。

だから、クリプトで需給や循環を見るなら、まず何を実体として扱うのかを分ける必要があります。

実利用なのか。
投機需要なのか。
裁定需要なのか。
担保需要なのか。
レバレッジ需要なのか。
流動性供給なのか。
外部資金流入なのか。
制度接続なのか。

同じ増加でも、意味が違います。

TVLが増えた。
出来高が増えた。
建玉が増えた。
ステーブルコインが増えた。

それだけでは足りません。

何によって増えたのか。
どこから資金が来たのか。
どの層に滞留しているのか。
価格に接続するのか。
一時的なのか。
継続しやすいのか。

ここまで分けて、ようやく観測対象として扱いやすくなります。

bot開発に接続するなら、今回の整理は観測機と判定機の設計に効きます。

観測機は、データを集めるだけの装置ではありません。
そのデータが何を観測しているのかを定義する装置でもあります。

判定機は、数値を足し合わせるだけの装置ではありません。
階層の違う情報を混線させないための装置でもあります。

上流がよい。
しかし、下流の執行条件が悪い。

中流に歪みがある。
しかし、上流環境が悪い。

下流に取れそうな価格差がある。
しかし、実行コストを入れると残らない。

こうした状態を、平均して一つのスコアに潰すと、判断理由が消えます。

むしろ、食い違いは食い違いとして残した方がよいです。

環境はよいが、今は入れない。
歪みはあるが、執行できない。
短期では取れそうだが、上流環境は悪い。
上流は弱いが、一部市場だけ資金が集まっている。

こうした分解ができると、見送りにも理由を持たせやすくなります。

これは、今の自分のbot開発にも接続します。

データを増やす前に、情報の役割を分ける。
観測機を増やす前に、どの階層を見ているのかを定義する。
判定機を作る前に、何を判定しているのかを確認する。
執行する前に、その判断がどの情報から来ているのかを分ける。

この順番です。

今回の読書で得たものは、個別の統計知識そのものではありません。

統計には役割があること。
情報には階層があること。
循環には実体の土台が必要であること。
クリプトでは、その実体を再定義する必要があること。
botでは、それらを観測機と判定機の設計に落とし込む必要があること。

現時点では、ここまでを仮説として置いておきます。

今後、本書を読み進めれば、金利、為替、物価、海外経済、財政、市場参加者の見方について、さらに整理する必要が出てくるはずです。

そのたびに、今回の整理も修正されると思います。

ただ、最初の段階で確認できたことがあります。

金融予測を学ぶことは、予測式を覚えることではありません。
情報の性質を見分け、どの判断に接続するかを設計すること。

少なくとも、今の自分にとってはそのように読めています。

この読み方であれば、金融予測の本は、相場を当てるための本というより、botの観測設計を見直すための材料になります。

引き続き、本書の読書と整理とアウトプットを続けます。

それでは、また。

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