こんにちは、よだかです。
今回は「金融マーケット予測ハンドブック」9章を読んで、そこから調べたことをベースに、私なりに圧縮した内容をまとめます。
9章はエマージング、つまり新興国経済とその金融市場の見方についての章でした。
ただ、私自身、中国、インド、ブラジル、ロシアといった国々について、その成り立ちや制度、文化、歴史的背景を十分に理解していたわけではありません。
そのため今回は、金融を起点にしながらも、各国がどのように形成され、どのような統治構造や経済構造を持つようになったのかまで少し掘り下げて調べることにしました。
今回の読書と調査で一番大きかったのは、「それぞれの国や組織は、その成り立ちや歴史を簡単には手放せない」という理解です。
中国には中国の成り立ちがあります。
インドにはインドの成り立ちがあります。
ブラジルにはブラジルの成り立ちがあります。
ロシアにはロシアの成り立ちがあります。
そして、その成り立ちは、現在の経済構造、通貨、資源の使い方、金融市場の見方にも影響しています。
今後、金融市場を予測するうえでも、単に成長率や統計を見るだけではなく、「その国や組織が、どのような経緯で今の形になっているのか」を理解することはかなり重要だと感じました。
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🛠️開発記録#555(2026/6/16)「金融マーケット予測ハンドブック」(5~8章)のまとめと市場を見るときの補助線
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1. 新興国を見るときは、成長率だけでは足りない
新興国経済を見るとき、最初に目に入りやすいのは成長率です。
実質GDP成長率が高い。
人口が多い。
若年層が多い。
内需が伸びそう。
資源がある。
先進国よりも伸びしろがありそう。
このあたりは、新興国を見るときの分かりやすい入口になります。
実際、それらは重要です。
成長率が高い国には、資本流入が起きやすいですし、通貨、株式、債券、不動産、消費市場にも影響します。人口や内需の大きさも、長期的な成長余地を見るうえでは無視できません。
ただ、今回9章を読んで、そこから中国、インド、ブラジル、ロシアについて調べていく中で感じたのは、新興国を「成長率が高い国」としてだけ見るとかなり危ないということです。
同じ新興国でも、成長の源泉はかなり違います。
中国は、国家動員、製造業、輸出、インフラ、都市化によって急成長してきた国です。
インドは、人口、内需、サービス産業、IT、英語圏との接続に強みを持つ国です。
ブラジルは、農業、資源、水、土地、中国需要に接続する国です。
ロシアは、石油、天然ガス、鉱物、軍事、地政学に強く結びついた国です。
同じBRICsという括りの中にあっても、実態はかなり違います。
だから、単に「新興国は伸びる」と見るのではなく、その国が何によって伸びているのかを見る必要があります。
人口なのか。
資源なのか。
製造業なのか。
サービス産業なのか。
外需なのか。
内需なのか。
国家主導の投資なのか。
海外からの資本流入なのか。
ここを分けないと、成長率という数字だけが一人歩きしてしまいます。
さらに重要なのは、成長の源泉だけでなく、成長を抑える制約も国によって違うということです。
中国であれば、不動産、地方政府債務、人口減少、対外摩擦が制約になります。
インドであれば、インフラ、雇用吸収、女性労働参加率、州ごとの制度差が制約になります。
ブラジルであれば、財政、金利、格差、治安、産業高度化の難しさが制約になります。
ロシアであれば、制裁、人口、技術制約、戦争経済化、資源依存が制約になります。
つまり、新興国を見るとは、高成長国を探すことではありません。
その国が、どのような資源を持ち、どのような制度を持ち、どのような歴史を背負い、どの市場に接続していて、どの制約に引っかかりやすいのかを見ることです。
今回の読書で特に大きかったのは、「国は簡単に自分の成り立ちを手放せない」という感覚です。
中国には、中央集権的に巨大な国家を動かしてきた歴史があります。
インドには、多様な文明圏を民主主義と連邦制で束ねている重さがあります。
ブラジルには、植民地支配、奴隷制、大土地所有、一次産品輸出の歴史があります。
ロシアには、内陸帝国、外敵への警戒、資源、軍事、勢力圏への執着があります。
これらは単なる歴史知識ではありません。
現在の金融市場にもつながっています。
中国の政策対応を見るとき、国家動員型の構造を知らないと読み違えます。
インドの成長を見るとき、人口だけでなく雇用や制度摩擦を見ないと読み違えます。
ブラジルを見るとき、商品市況や財政信認、通貨レアルの歴史を見ないと読み違えます。
ロシアを見るとき、資源価格だけでなく、安全保障と帝国的な国家観を見ないと読み違えます。
新興国経済を見るうえで必要なのは、成長率を見ることではあります。
でも、それだけでは足りません。
成長率の背後にある構造を見ること。
その国の市場が、何によって動き、何によって止まりやすいのかを見ること。
その国が過去から引き継いでいる制度や行動様式を確認すること。
今回の9章は、新興国を「伸びそうな国」としてではなく、「それぞれ異なる歴史と制約を持つ市場」として見るための入口になりました。
2. 通貨・国家・市場を見るための物差し
今回の深掘りでは、新興国経済を見る流れの中で、通貨の国際的な位置づけについても調べました。
きっかけは人民元です。
人民元は、2016年からIMFのSDR構成通貨に加わっています。
SDRとは、IMFが作った国際準備資産であり、その価値は複数の主要通貨を組み合わせたバスケットによって決まります。
現在のSDR構成通貨は、米ドル、ユーロ、人民元、日本円、英ポンドです。
この事実だけを見ると、人民元はすでに世界の主要通貨の一つになっているように見えます。
実際、それは間違いではありません。
ただし、ここで注意が必要です。
SDR構成通貨に入っていることと、その通貨が世界中で安全資産として大量に保有されていることは同じではありません。
国際決済で広く使われていることとも違います。
為替市場で圧倒的な流動性を持っていることとも違います。
国際債券や銀行貸出、デリバティブの基盤通貨になっていることとも違います。
つまり、通貨の国際的な地位は、ひとつの指標では測れません。
通貨には複数の使われ方があります。
中央銀行が外貨準備として持つ通貨。
為替市場で大量に交換される通貨。
国際送金や決済で使われる通貨。
貿易契約や請求書の建値に使われる通貨。
債券、貸出、デリバティブ、担保、ヘッジの基盤になる通貨。
これらは似ているようで、見ているものが違います。
外貨準備を見るなら、それは各国の中央銀行や通貨当局が、危機対応や為替介入のために何を保有しているかという話です。
為替取引量を見るなら、それは市場でどれだけ交換されているか、どれだけ流動性があるかという話です。
国際決済を見るなら、それは企業や金融機関が国境を越えた支払いに何を使っているかという話です。
貿易建値を見るなら、それはモノやサービスの価格をどの通貨で表示し、契約しているかという話です。
国際金融を見るなら、それは世界の債券、貸出、デリバティブ、担保、資金調達がどの通貨を基盤にしているかという話です。
この分類を持つと、通貨の見え方がかなり変わります。
たとえば、人民元はSDR構成通貨に入っています。
中国の経済規模も大きい。
中国との貿易で人民元利用が増えている面もある。
為替市場での存在感も以前より高まっています。
しかし、外貨準備、国際金融契約、危機時の逃避先、安全資産としての厚みという意味では、米ドルやユーロとの差はまだ大きい。
ここを混同すると、
「人民元はSDRに入ったから、ドルに並ぶ国際通貨になった」
という雑な理解になります。
実際には、
「人民元は国際通貨としての制度的な地位を得ているが、外貨準備・決済・貿易・金融契約・安全資産としての使われ方にはまだレイヤーごとの差がある」
と見る方が正確です。
この理解は、新興国を見るうえでもかなり重要です。
国の強さは、GDPだけでは決まりません。
その国の通貨がどの程度信用されているのか。
中央銀行がどの程度信頼されているのか。
金融市場にどれくらい厚みがあるのか。
外貨を何で稼いでいるのか。
対外債務は何通貨建てなのか。
危機時に資本が逃げるのか、流入するのか。
その国の通貨が、国内だけで使われる通貨なのか、国際的にも使われる通貨なのか。
こうした点によって、市場の反応は変わります。
同じ高成長国でも、自国通貨への信認が弱ければ、インフレや通貨安に苦しみやすくなります。
同じ資源国でも、外貨準備や財政運営が弱ければ、商品価格下落時に一気に脆くなります。
同じ人口大国でも、金融市場が浅ければ、成長を投資や信用創造に変換しにくくなります。
金融市場を見るとき、通貨は単なる決済手段ではありません。
通貨は、価格を測る物差しです。
契約の単位です。
資産を保存する器です。
信用を作る基盤です。
危機時に逃げ込む場所でもあります。
だから、通貨を見るとは、その国の金融システムの深さを見ることでもあります。
今回、人民元やSDRについて調べたことで、新興国経済を見るための物差しが少し増えました。
成長率を見る。
人口を見る。
産業構造を見る。
資源を見る。
それに加えて、
通貨はどのレイヤーで使われているのか。
金融市場はどの程度深いのか。
外貨準備や国際決済でどの程度信認されているのか。
世界の資本移動の中で、その国の通貨はどう扱われているのか。
ここまで見る必要があると感じました。
新興国を見るとは、単に「これから伸びる国」を見ることではありません。
その国の通貨、金融市場、国家制度、外貨獲得力、信用の作られ方が、どのように市場と接続しているのかを見ることでもあります。
3. 中国:巨大な鯨としての国家動員型大国
中国について調べていて感じたのは、この国は「巨大な鯨」のような国だということです。
そもそもの質量が大きい。
国家としての推進力もある。
中央の意思決定権限も強い。
一度方向が定まると、非常に大きな力で前に進む。
一方で、小回りは効きにくい。
方向が合っているときは圧倒的に強いですが、方向を間違えると歪みも巨大化します。
この比喩は、現在の中国を見るうえでかなり使いやすいと感じました。
中国は、古代からの巨大文明圏を、中央集権的な国家・官僚制・統一王朝のフォーマットで束ねてきた国です。
もちろん、中国史にも分裂期はあります。
常に一枚岩の国家だったわけではありません。
それでも、歴史的には「広大な領域を中央の秩序によって統合する」という発想が非常に強い国です。
皇帝。
官僚制。
税制。
文字。
戸籍。
科挙。
軍事。
統一王朝。
こうした統治の型が、長い時間をかけて作られてきました。
この点で、中国はインドとはかなり違います。
インドも巨大な文明圏ですが、政治的には多中心性が強く、現在も民主主義と連邦制で多様な地域を束ねている国です。
それに対して中国は、巨大な文明圏を中央集権的に統合する力を繰り返し作ってきた国です。
この中央集権的な統合力は、近代以降の中国にも強く残っています。
19世紀以降、中国は西洋列強や日本との関係の中で大きく揺さぶられました。
清朝の衰退、不平等条約、租界、アヘン戦争、日中戦争、国共内戦。
この時期の中国は、外部から圧力を受け、内部では分裂と混乱を経験しました。
その後、1949年に中華人民共和国が成立し、共産党による一党支配のもとで国家が再統合されます。
この流れを見ると、中国共産党にとって「統一」「主権」「安定」「発展」が非常に重要な意味を持つことも分かります。
単なる政策目標ではありません。
近代の混乱と分裂を終わらせ、中国を再び強い国家として統合することが、政権の正統性に深く関わっています。
そして、1978年以降の改革開放によって、中国は急速に成長します。
ここで中国が使った勝ち筋はかなり明確です。
安価で豊富な労働力。
外資導入。
輸出製造業。
経済特区。
インフラ投資。
都市化。
地方政府の成長競争。
国有銀行による信用供給。
国家主導の産業政策。
世界市場への接続。
これらが組み合わさって、中国は「世界の工場」になりました。
この成長モデルは、巨大な鯨が正しい海流に乗ったようなものだったと思います。
人口がある。
労働力がある。
外資が入る。
工場ができる。
輸出が増える。
都市化が進む。
インフラが整備される。
所得が上がる。
さらに投資が増える。
この循環が回っていた時期の中国は、非常に強かった。
国が方向を決め、地方政府、銀行、国有企業、民間企業、外資、インフラ投資が同じ方向へ動く。
その結果、短期間で巨大な製造業国家ができあがる。
これは、民主主義国家や連邦制国家ではなかなか真似しにくいスピードです。
ただし、その強さは弱さにもなります。
国家動員型の成長モデルは、方向が合っているときは強い。
しかし、資源配分の間違いも大きくなりやすい。
不動産。
地方政府債務。
過剰インフラ。
過剰生産能力。
若年失業。
消費不足。
人口減少。
対外摩擦。
現在の中国が抱えている問題は、これまでの勝ち筋の副作用でもあります。
不動産はその象徴です。
中国では、不動産開発、地方政府の土地財政、銀行融資、家計の住宅購入、インフラ投資が深く結びついていました。
これは成長期には非常に強い仕組みでした。
土地を開発する。
住宅を売る。
地方政府に収入が入る。
銀行が融資する。
建設投資が増える。
雇用が生まれる。
家計資産も増える。
しかし、この仕組みは永遠には続きません。
人口増加や都市化の勢いが鈍り、不動産価格への期待が崩れ、開発企業の債務問題が表面化すると、成長を押し上げていた仕組みが逆回転します。
住宅が売れない。
開発企業が苦しくなる。
地方政府の土地収入が減る。
銀行や金融システムへの不安が増す。
家計の資産効果が弱まる。
消費も弱くなる。
巨大な仕組みだったからこそ、調整も重くなります。
ここが中国の難しさです。
中国は弱い国ではありません。
むしろ、まだ非常に強い国です。
製造業は強い。
インフラも強い。
輸出競争力もある。
EV、電池、太陽光、通信機器、ドローンなど、国家が重点を置いた分野ではかなりの存在感があります。
ただし、かつてのように「労働力、投資、不動産、輸出、都市化」で何でも伸びる局面ではなくなっています。
これからの中国は、投資主導から消費主導へ移れるか。
不動産依存を下げられるか。
地方政府債務を処理できるか。
人口減少の中で成長率を維持できるか。
対外摩擦を管理できるか。
高付加価値産業へ移行できるか。
ここが大きな課題になります。
金融市場を見るうえでも、中国は政策の影響が非常に大きい国です。
中央政府が何を重視しているのか。
不動産にどこまで支援を入れるのか。
地方政府債務をどう処理するのか。
人民元をどの程度安定させるのか。
輸出企業や先端産業をどう支援するのか。
民間企業の信認をどこまで回復させるのか。
こうした政策判断が、市場に大きく影響します。
ただし、中国を見るときに「政策が出たから安心」と単純に考えるのも危ないです。
中国は巨大な鯨です。
動かす力は強い。
しかし、方向転換には時間がかかる。
また、政策が大きく効く分、間違った方向に大きく進んだときの修正も重い。
今回、中国について調べて一番印象に残ったのは、国家の成り立ちと経済構造が深くつながっているということです。
中国は、中央集権的な統合力を持つ国です。
その統合力が、改革開放後の製造業化、都市化、インフラ整備を加速させました。
一方で、その統合力が、不動産、債務、過剰投資のような歪みも巨大化させました。
中国を見るときは、成長率だけでは足りません。
国家動員の力。
政策の方向。
製造業の競争力。
不動産と地方債務。
人民元。
外需。
人口動態。
対外摩擦。
これらをまとめて見る必要があります。
中国は崩れやすい小国ではありません。
しかし、環境変化に柔らかく適応する小回りのよい国でもありません。
方向がハマったときは、非常に強い。
方向がズレたときは、歪みも非常に大きい。
その意味で、中国はまさに巨大な鯨のような国家なのだと思います。
4. インド:摩擦を抱えた人口・内需大国
中国について調べた後にインドを見ると、かなり対照的に見えます。
中国は、巨大な文明圏を中央集権的な国家として束ねてきた国です。
それに対してインドは、巨大な文明圏を、民主主義と連邦制で束ねている国です。
この違いはかなり大きいです。
インドも、中国と同じように古い文明圏を持つ国です。
インダス文明、ヒンドゥー教、仏教、ジャイナ教、イスラーム王朝、ムガル帝国、イギリス植民地支配、独立運動、分離独立。
非常に長く、複雑な歴史があります。
ただし、インドは古代から現在まで、ひとつの中央集権国家として一貫して続いてきた国ではありません。
むしろ、巨大な文明圏の中に、多数の王国、宗教、言語、民族、カースト、地域社会が重なってきた国です。
文化圏としての一体性はある。
宗教的・商業的・思想的なつながりもある。
しかし、政治的には多中心的な時代が長い。
この多中心性が、現在のインドにも残っています。
インドは、単なる人口大国ではありません。
多言語国家であり、多宗教国家であり、連邦国家であり、世界最大級の民主主義国家です。
この構造は、強みでもあり、制約でもあります。
強みは、多様性と内需の厚みです。
人口が多い。
若年層も多い。
国内市場が大きい。
英語圏との接続がある。
ITサービスやビジネスサービスに強い。
民主主義国家として、欧米や日本から見たときの政治的な接続もしやすい。
中国一極集中を避けたい企業や国家にとって、インドは重要な受け皿になります。
サプライチェーン分散。
デジタルサービス。
製造業誘致。
インフラ投資。
地政学的なバランス。
このあたりは、インドにとって追い風です。
一方で、制約も大きいです。
民主主義であるということは、中央政府が何でも一気に押し切れるわけではないということです。
連邦制であるということは、州ごとに制度、行政能力、投資環境、教育水準、産業構造が違うということです。
土地取得。
労働規制。
インフラ整備。
行政手続き。
州ごとの政治。
宗教やカーストの問題。
地域格差。
女性労働参加率。
このあたりが、インドの成長速度を重くしています。
だから、インドは「伸びない国」ではありません。
むしろ、長期的な成長ポテンシャルは非常に大きい国です。
ただし、伸び方が重い。
今回、インドについて調べていて一番しっくりきた圧縮はこれでした。
インドは、伸びない国ではない。
ただし、伸び方が重い国。
人口が多いだけでは成長にはなりません。
その人口が教育を受ける。
労働市場に参加する。
高生産性部門へ移る。
所得を得る。
消費する。
貯蓄する。
投資される。
金融市場と接続する。
この流れができて、初めて人口は経済成長に変わります。
インドには人口ボーナスがあります。
しかし、その人口を十分な雇用と生産性に変換できるかは、まだ課題です。
特に重要なのは、製造業です。
中国は、農村人口を大量に製造業と都市部へ吸収し、輸出製造業を成長エンジンにしました。
これによって、雇用、所得、都市化、インフラ投資、輸出、外貨獲得がつながりました。
インドは、そこが中国ほど太くありません。
インドはITやサービス産業には強いです。
英語圏へのビジネスサービス、ソフトウェア、BPO、専門職、金融関連サービスなどは大きな強みです。
ただし、サービス産業だけで、巨大な人口をすべて高生産性雇用へ吸収できるわけではありません。
一部の高スキル人材は非常に強い。
しかし、農業や低生産性部門に残る人口も多い。
このギャップがインドの難しさです。
つまり、インドの課題は、人口をどう成長に変換するかです。
単に人口が多い。
若い。
内需がある。
これだけでは足りません。
重要なのは、その人口がどの産業で働くのか。
どの程度の所得を得るのか。
女性も労働市場に参加できるのか。
州ごとの教育やインフラは整っているのか。
都市化は進むのか。
製造業が雇用を吸収できるのか。
金融サービスにアクセスできるのか。
ここまで見ないと、インドの成長力は読みにくいです。
また、インドは地政学的にも絶妙な位置にあります。
中国とは緊張関係があります。
パキスタンとの関係も不安定です。
一方で、米国、日本、欧州から見ると、中国に対するバランスを取るうえで重要な国でもあります。
つまり、地政学はインドにとってマイナスだけではありません。
国境問題や安全保障リスクは制約です。
しかし、中国代替の受け皿、サプライチェーン分散先、民主主義陣営との協力先としては追い風にもなります。
この両面性がインドらしいところです。
金融市場を見るうえでは、インドは高成長国として注目されやすいです。
しかし、見るべきなのは成長率だけではありません。
原油価格。
ルピー相場。
インフレ率。
経常収支。
サービス輸出。
海外からの資本流入。
製造業PMI。
インフラ投資。
雇用。
女性労働参加率。
州ごとの投資環境。
特に、原油価格とルピーは重要だと思います。
インドはエネルギー輸入国です。
そのため、原油高になると、貿易赤字、インフレ、通貨安、財政負担に影響します。
高成長国であっても、外部からエネルギー価格のショックを受けやすい。
この点は、資源国であるブラジルやロシアとは違います。
インドは、人口と内需を持っています。
サービス産業にも強みがあります。
地政学的にも重要性が増しています。
しかし、製造業、雇用吸収、女性労働参加率、インフラ、州ごとの差、エネルギー輸入依存が制約になります。
だから、インドを見るときは、「次の中国」として見るよりも、別の成長モデルを持つ国として見る方がよいと思います。
中国は、国家動員と製造業で伸びた国です。
インドは、人口、内需、サービス、多様性、民主主義、地政学的位置を持ちながら、重い摩擦を抱えて伸びていく国です。
今回の圧縮としては、
インドは、巨大な人口と内需を持つが、それを成長に変換するには制度・雇用・インフラ・社会構造の摩擦を乗り越える必要がある国。
という理解になりました。
伸びる可能性は大きい。
ただし、自動的に伸びるわけではない。
人口があるから勝つのではなく、人口を生産性と所得に変換できるかが重要。
インドは、そういう国として見るのがよさそうです。
5. ブラジル:巨大な肥沃地帯としての資源・農業大国
ブラジルについて調べていて感じたのは、この国は「巨大な肥沃地帯」のような国だということです。
土地がある。
水がある。
森林がある。
農業が強い。
鉄鉱石や原油もある。
人口もある。
南米における地域大国でもある。
かなり強いものを持っている国です。
ただし、その強さは中国やインドとはかなり違います。
中国は、国家動員と製造業で伸びた国です。
インドは、人口、内需、サービス産業、IT、英語圏との接続に強みを持つ国です。
それに対してブラジルは、農業、資源、水、土地、自然資本に強みを持つ国です。
この違いは、ブラジルの成り立ちを見るとかなり分かりやすくなります。
ブラジルは、ポルトガル植民地として世界経済に組み込まれました。
最初から、近代的な工業国家として形成されたわけではありません。
国内市場を中心に発展した国でもありません。
現地の国家がそのまま近代国家へ移行した国でもありません。
ポルトガルによる植民地支配の中で、砂糖、金、コーヒーなどの一次産品をヨーロッパへ供給する地域として作られていきました。
ここで重要だったのは、土地と労働です。
広大な土地を使う。
商品作物を作る。
鉱物資源を採る。
港から輸出する。
そのために奴隷労働を使う。
富は大土地所有者や植民地エリートに偏って蓄積される。
この構造が、かなり長くブラジル社会の土台になります。
もちろん、現在のブラジルを植民地時代のまま見ることはできません。
ブラジルは独立し、帝政を経て、共和国になり、工業化も進めました。都市も発展し、金融市場もあり、航空機産業や石油開発などもあります。
それでも、ブラジルの根本には、自然資本と一次産品輸出に強く接続する構造が残っています。
砂糖。
金。
コーヒー。
大豆。
牛肉。
鉄鉱石。
原油。
パルプ。
鶏肉。
とうもろこし。
時代によって主役となる商品は変わってきました。
しかし、「世界市場が必要とする一次産品を供給する国」という性格はかなり一貫しています。
この意味で、ブラジルはかなり外部需要に接続した国です。
特に近年では、中国需要との接続が重要です。
中国が成長する。
都市化する。
インフラを作る。
鉄鉱石が必要になる。
所得が上がる。
食肉需要が増える。
飼料として大豆が必要になる。
ブラジルの資源・農産物輸出が伸びる。
この流れの中で、ブラジルはBRICsの一角として注目されました。
ただし、この構造には強みと弱みがあります。
強みは分かりやすいです。
世界が食料を必要とする限り、ブラジルは重要です。
世界が鉄鉱石やエネルギーを必要とする限り、ブラジルは重要です。
水、土地、農業技術、森林、再生可能エネルギーの存在も大きい。
ブラジルは、世界の食料・資源・環境制約にかなり深く接続している国です。
これは中国やインドとは違う強さです。
一方で、弱みもあります。
一次産品への依存は、商品市況に振られやすいということでもあります。
大豆価格が下がる。
鉄鉱石価格が下がる。
中国需要が弱まる。
原油価格が変動する。
天候不順で農業生産が落ちる。
こうした要因が、輸出、貿易収支、通貨レアル、企業収益、財政、インフレに影響します。
また、資源や農業が強いことは、必ずしも産業高度化に直結しません。
自然資本で稼げる。
外需で外貨を得られる。
商品価格が高いと景気が良くなる。
これは強みです。
しかし、それに依存しすぎると、製造業や高付加価値産業を育てる圧力が弱くなったり、通貨高によって製造業の競争力が落ちたり、資源価格が高い時期に財政が緩みやすくなったりします。
ブラジルは、自然資本を持続的な高成長と産業高度化に変換することが難しい国でもあります。
この点は、ブラジルの歴史にも関係していると思います。
植民地時代から、大土地所有、奴隷制、一次産品輸出、地域格差、所得格差が強く残りました。
1888年に奴隷制は廃止されましたが、それによって元奴隷やその子孫が土地、教育、資本に十分アクセスできたわけではありません。
共和国になっても、地方エリートや大土地所有の影響は長く残りました。
つまり、ブラジルは豊かな国土を持ちながら、その豊かさを広く均等に所得や人的資本へ変換することに苦労してきた国です。
この構造は、現在の格差、治安、教育、都市問題、政治分断にもつながっているように見えます。
もうひとつ重要なのが、インフレと通貨の歴史です。
ブラジルは長く高インフレに苦しみました。
1980年代から1990年代前半にかけて、物価が急速に上がり、通貨への信認が大きく崩れていました。
そこで重要になったのが、1994年のレアル・プランです。
レアル・プランは、単に新しい通貨レアルを導入した政策ではありません。
壊れた価格の物差しを作り直す政策でした。
旧通貨がインフレで信用されなくなっている中で、いきなり新通貨を導入しても、人々がまたすぐに値上げを織り込めばインフレは戻ります。
そこでブラジルは、URVという安定した価値単位を挟みました。
まず、価格、賃金、契約、会計の基準をURVという安定した物差しに移す。
その後、その安定した価値単位を新通貨レアルとして実体化する。
この流れは非常に鮮やかです。
単に通貨名を変えたのではなく、社会全体が使っている価格の単位、つまり物差しそのものを作り直した。
この政策によって、ブラジルはハイパーインフレ的な状態から、物価安定を前提に経済運営できる国へ移行しました。
ただし、レアル・プランでブラジルのすべての問題が解決したわけではありません。
現在でもブラジルは、財政信認、インフレ期待、政策金利、通貨レアルの動きに敏感な国です。
インフレが再燃しそうになれば、中央銀行は高金利で抑えにいく必要があります。
財政への信認が揺らげば、レアル安、インフレ期待上昇、金利上昇につながりやすい。
高金利は通貨や物価の安定には効きますが、投資や消費には重くなります。
このあたりが、ブラジル経済の難しさです。
ブラジルは、資源も農業も強い。
国内市場もある。
南米の地域大国でもある。
でも、成長が伸びようとすると、財政、インフレ、金利、通貨、格差、政治がブレーキになりやすい。
だから、ブラジルを見るときは、単に「資源がある国」と見るだけでは足りません。
大豆、鉄鉱石、原油などの商品市況。
中国需要。
レアル相場。
インフレ率。
政策金利。
財政収支。
農業生産と天候。
環境政策。
政治と選挙。
これらをまとめて見る必要があります。
特に重要なのは、商品市況、レアル、インフレ、政策金利、財政信認のつながりです。
商品価格が上がれば外貨獲得にはプラスです。
しかし、通貨、物価、金利、財政運営が安定していなければ、その強みを持続的な成長には変換しにくい。
今回ブラジルについて調べて、ブラジルは「自然資本が強い国」ではあるけれど、「自然資本だけで勝てる国」ではないと感じました。
重要なのは、その自然資本をどう使うかです。
農業と資源で外貨を稼ぐ。
その外貨を、教育、インフラ、産業高度化、金融の安定、格差是正へ回す。
財政と通貨への信認を保つ。
商品市況に振られすぎない経済構造を作る。
ここまでできて初めて、ブラジルの強みは長期的な成長に変わるのだと思います。
今回の圧縮としては、
ブラジルは、巨大な自然資本を持つ肥沃地帯である。
ただし、その自然資本を持続的な高成長と産業高度化に変換するには、財政、通貨、格差、制度運営の壁を越える必要がある国。
という理解になりました。
中国のような国家動員型の製造業大国ではない。
インドのような人口・内需・サービス主導の国でもない。
ブラジルは、農業、資源、水、土地、環境制約に接続する大国です。
だからこそ、金融市場を見るうえでも、ブラジルは商品市況、外需、通貨、金利、財政をセットで見るべき国なのだと思います。
6. ロシア:武装した資源要塞としての帝国体質
ブラジルについて調べた後にロシアを見ると、同じ資源国でも性質がかなり違うことが分かります。
ブラジルは、巨大な肥沃地帯のような国です。
農業、水、土地、森林、鉄鉱石、原油。
自然資本を持ち、それを世界の食料・資源需要に接続している国です。
一方、ロシアはもう少し硬い。
石油。
天然ガス。
金属。
小麦。
肥料。
森林。
広大な領土。
核兵器。
軍事力。
同じ資源国ではありますが、ロシアの場合、その資源は単なる輸出商品ではなく、国家安全保障、軍事力、勢力圏、地政学的圧力に深く結びついています。
今回調べていて一番しっくりきた圧縮は、
ロシアは、武装した資源要塞である
というものです。
資源がある。
食料もある。
軍事力もある。
領土も広い。
制裁されても、簡単には崩れない。
ただし、その強さは、必ずしも現代的な豊かさや高成長に直結していません。
むしろ、資源と領土と軍事が強く結びつきすぎていることが、ロシアの成長を制約しているようにも見えます。
ロシアの歴史をかなり大きく見ると、外部から植民地支配を受けて国家骨格を作られたブラジルとは違います。
ロシアは、内陸帝国として膨張してきた国です。
キエフ・ルーシ。
モンゴル支配。
モスクワ大公国。
ツァーリ国家。
ロシア帝国。
ソ連。
ソ連崩壊後のロシア連邦。
この流れの中で、ロシアは周辺領域を吸収しながら巨大化してきました。
西欧の海洋帝国のように、海を越えて遠隔地を植民地化したというより、陸続きに広がりながら、シベリア、コーカサス、中央アジア、東欧方面へ影響圏を広げていった国です。
この内陸帝国としての性格が、ロシアを見るうえで重要だと思います。
ロシアの地理は、守りにくい。
広大な平原がある。
国境が長い。
寒冷で、海への出口も限られる。
西からも南からも侵入される記憶がある。
モンゴル支配、ナポレオン戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦、冷戦、NATO拡大への警戒。
こうした歴史を考えると、ロシアが「安全保障」を非常に重く見る理由は理解できます。
ただし、その安全保障感覚は、経済合理性とはしばしば衝突します。
ロシアにとって、領土や周辺国は単なる市場ではありません。
しばしば、緩衝地帯であり、勢力圏であり、国家防衛の奥行きとして見られます。
この見方は、現代の国際経済とはあまり相性がよくありません。
現代の経済成長では、資源を売るだけでなく、資本、技術、人材、制度、信認、国際協働が重要になります。
資源を安定供給する。
得た外貨を国内投資に回す。
技術を取り込む。
教育と産業を高度化する。
周辺国と対等な経済圏を作る。
金融市場への信認を高める。
こうした方向に進めば、ロシアの資源はもっと広い成長の土台になったかもしれません。
しかし、ロシアの場合、資源はしばしば別の方向に使われます。
国家を維持する燃料。
軍事力を支える財源。
周辺国への圧力。
外交交渉のカード。
制裁耐性の源泉。
帝国的な勢力圏を維持するための手段。
つまり、ロシアの資源は、豊かさの基盤であると同時に、国家安全保障と地政学の道具でもあります。
ここがブラジルとの大きな違いです。
ブラジルも一次産品に依存しています。
しかし、ブラジルの資源や農業は、主に食料、貿易、外貨獲得、自然資本、環境制約と接続しています。
一方、ロシアの資源は、より強く軍事・財政・安全保障・対外圧力に接続しています。
ブラジルは「自然資本をどう高成長に変換するか」が課題です。
ロシアは「資源を国家安全保障と帝国的発想に吸われず、どう現代的な経済発展に変換するか」が課題です。
この違いはかなり大きいです。
ロシアの近代史を見ると、国家主導、軍事、重工業、資源開発が一貫して重要です。
ツァーリ時代には、後発の工業化と軍事国家化。
ソ連時代には、計画経済、重工業、軍需、宇宙、核、資源開発。
ソ連崩壊後には、国有資産の私有化、オリガルヒ、経済混乱、国家の再統合。
プーチン体制では、エネルギー収入、国家管理、軍事力、旧ソ連圏への影響力回復。
この流れを見ると、ロシアでは経済がしばしば国家維持や軍事目的に強く従属しているように見えます。
もちろん、どの国でも経済と安全保障は無関係ではありません。
米国でも中国でも、経済と軍事は深く結びついています。
ただ、ロシアの場合、その結びつきが特に濃い。
資源がある。
その資源で国家財政を支える。
その財政で軍事と治安を支える。
その軍事力で勢力圏を維持しようとする。
その結果、制裁や孤立を受ける。
すると、さらに資源と軍事と国家統制への依存が強まる。
この循環が、ロシアの「帝国体質」を作っているように見えます。
今回、ロシアについて話していて印象に残ったのは、
資源を持つ国というより、資源を抱えた帝国国家
という見方です。
資源は本来、経済発展の材料になります。
しかし、資源が軍事や安全保障に強く結びつくと、経済協働の材料というより、外部への圧力手段になります。
短期的には、それは強みです。
エネルギーを持っている。
食料を持っている。
核を持っている。
軍事力を持っている。
だから簡単には崩れない。
しかし長期的には、弱みにもなります。
買い手が警戒する。
代替調達が進む。
技術や資本が入りにくくなる。
若い人材が流出する。
民間投資が伸びにくい。
経済が軍需に偏る。
生活水準や産業高度化に資源が向かいにくい。
つまり、強みを武器化しすぎると、その強みが成長の土台ではなく、孤立の原因にもなる。
ここがロシアの難しさだと思います。
金融市場を見るうえでも、ロシアは通常の新興国分析だけでは読みにくい国です。
原油価格。
天然ガス輸出。
制裁。
ルーブル相場。
軍事支出。
財政収支。
インフレ。
政策金利。
中国・インド向け輸出。
迂回貿易。
技術制約。
人口動態。
こうしたものを、地政学と戦争経済の文脈で見る必要があります。
特に重要なのは、油価、制裁、ルーブル、軍事支出、インフレのつながりです。
油価が高ければ財政は支えられます。
しかし、制裁が強まれば輸送や販売価格に制約が出ます。
軍事支出が増えればGDPを押し上げる面はありますが、民間経済や将来投資を圧迫します。
インフレが高まれば、金利を上げる必要があり、家計や企業には重くなります。
そのため、ロシア経済は、数字だけ見ると持ちこたえているように見える場面があります。
しかし、それが健全な成長なのか、軍事支出と資源収入による耐久なのかは分けて見る必要があります。
ロシアは、弱い国ではありません。
むしろ、かなりしぶとい国です。
食料もある。
エネルギーもある。
軍事力もある。
国家統制も効く。
制裁されてもすぐには崩れない。
ただし、しぶといことと、豊かに発展していることは違います。
ロシアは、耐久力は高い。
しかし、資本、人材、技術、制度信認、国際協働を通じて柔らかく豊かになるのは苦手です。
今回の圧縮としては、
ロシアは、資源を抱えた帝国要塞である。
資源、軍事、領土、安全保障が強く結びついているため、簡単には崩れない。
一方で、その帝国体質が、資源を現代的な産業高度化や国際協働へ変換することを難しくしている。
という理解になりました。
BRICsの中で見ても、ロシアはかなり異質です。
中国は、国家動員の製造業大国。
インドは、摩擦を抱えた人口・内需大国。
ブラジルは、自然資本を持つ肥沃地帯。
ロシアは、資源を抱えた帝国要塞。
こうして見ると、同じ新興国、同じBRICsといっても、成長の源泉も、抱えているリスクも、市場との接続先もまったく違います。
ロシアを見るときは、資源国として見るだけでは足りません。
その資源が、何に使われているのか。
経済発展のためなのか。
国家維持のためなのか。
軍事と勢力圏のためなのか。
そこまで見ないと、ロシアという国の金融市場への影響は読み違えやすいのだと思います。
7. BRICsは「新興国」と一括りにできない
ここまで、中国、インド、ブラジル、ロシアについて整理してきました。
もともとは、9章で扱われていたエマージング経済の見方を理解するために調べ始めたものです。
BRICsという言葉で見ると、中国、インド、ブラジル、ロシアは、どれも「新興大国」として一括りにできます。
人口が多い。
領土が広い。
資源がある。
成長余地がある。
先進国とは違う市場構造を持っている。
そういう意味では、同じ括りに入れることはできます。
ただ、実際にそれぞれの国の成り立ちや経済構造を調べていくと、同じ「新興国」として扱うには、かなり中身が違うことが分かります。
中国は、国家動員の製造業大国です。
巨大な人口と中央集権的な統治構造を使い、外資導入、輸出製造業、インフラ投資、都市化を通じて急成長してきました。
方向が合っているときは非常に強い。
ただし、不動産、地方債務、過剰生産能力のように、歪みも巨大化しやすい。
巨大な鯨のような国です。
インドは、摩擦を抱えた人口・内需大国です。
人口は多く、内需も大きく、サービス産業やIT、英語圏との接続に強みがあります。
一方で、民主主義、連邦制、社会構造、州ごとの差、インフラ、雇用吸収力の問題があります。
伸びない国ではありません。
しかし、伸び方が重い国です。
人口があるだけでは足りません。
その人口を、雇用、生産性、所得、消費、金融市場へ変換できるかが重要になります。
ブラジルは、自然資本を持つ肥沃地帯です。
農業、水、森林、鉄鉱石、原油、土地。
世界の食料・資源・環境制約に深く接続している国です。
ただし、一次産品や中国需要に左右されやすく、財政、金利、インフレ、通貨レアル、格差、治安、産業高度化の難しさを抱えています。
自然資本は強い。
しかし、それを持続的な高成長に変換する制度運営が難しい。
ロシアは、資源を抱えた帝国要塞です。
石油、天然ガス、小麦、鉱物、軍事力、核兵器。
耐久力は高く、簡単には崩れません。
ただし、資源が経済協働や産業高度化よりも、国家安全保障、軍事、勢力圏維持の燃料として使われやすい。
その帝国体質が、現代的な経済発展の制約にもなっています。
こうして見ると、同じBRICsでも、かなり違います。
中国は、製造業と国家動員。
インドは、人口と内需。
ブラジルは、自然資本と一次産品。
ロシアは、資源と軍事・地政学。
それぞれ、成長の源泉が違います。
当然、見るべきリスクも違います。
中国を見るなら、不動産、地方債務、人民元、外需、政策、人口動態を見る必要があります。
インドを見るなら、雇用、インフラ、原油価格、ルピー、インフレ、経常収支、州ごとの投資環境を見る必要があります。
ブラジルを見るなら、大豆、鉄鉱石、原油、中国需要、レアル、Selic、財政信認、農業生産を見る必要があります。
ロシアを見るなら、原油価格、天然ガス、制裁、ルーブル、軍事支出、インフレ、中国・インド向け販路を見る必要があります。
つまり、BRICsという名前は便利ですが、それだけでは市場を見る物差しにはなりません。
便利な圧縮ではあります。
しかし、圧縮しすぎると、重要な違いが消えます。
新興国を見るときに大事なのは、「これから伸びる国」という印象でまとめないことです。
伸びる理由が違う。
止まる理由も違う。
通貨の弱点も違う。
資本流入の形も違う。
資源の使われ方も違う。
国家の動き方も違う。
この違いを見ないまま「新興国」とまとめてしまうと、かなり粗い理解になります。
今回の深掘りで一番大きかったのは、国は簡単に自分の成り立ちを手放せない、という感覚です。
中国は、中央集権的に大きな国家を動かしてきた歴史を持っています。
インドは、多様な文明圏を民主主義と連邦制で束ねています。
ブラジルは、植民地支配、奴隷制、一次産品輸出、大土地所有の歴史を持っています。
ロシアは、内陸帝国、外敵への警戒、資源、軍事、勢力圏への執着を持っています。
これらは、過去の話ではありません。
現在の経済構造にも、金融市場にも、政策判断にも、通貨にも、資源の使い方にも影響しています。
中国が政策で大きく動くのは、単なる現在の制度だけではなく、巨大国家を中央から動かす統治の型とつながっています。
インドの成長が重いのは、単なる政策不足ではなく、多様な社会を民主主義と連邦制で運営していることと関係しています。
ブラジルが商品市況や財政信認に振られやすいのは、自然資本と一次産品輸出に強く接続してきた歴史と関係しています。
ロシアが資源を安全保障や勢力圏維持に使いやすいのは、内陸帝国としての歴史と関係しています。
だから、新興国を見るときは、表面の統計だけでは足りません。
GDP成長率は重要です。
インフレ率も重要です。
通貨も重要です。
政策金利も重要です。
貿易収支も重要です。
しかし、それらの数字の背後には、その国の成り立ち、制度、統治構造、資源、地政学があります。
今回のBRICs整理は、そのことをかなり強く感じる機会になりました。
BRICsは、ひとつの投資テーマとして見ることもできます。
新興国大国群として見ることもできます。
でも、実際に市場を見るなら、国ごとの分解が必要です。
中国は中国として見る。
インドはインドとして見る。
ブラジルはブラジルとして見る。
ロシアはロシアとして見る。
それぞれの成長源泉と制約を分ける。
この分解をしないと、BRICsという言葉の便利さに引っ張られて、実態を見誤りやすいのだと思います。
今回の圧縮としては、
BRICsは「伸びる新興国群」ではなく、それぞれ異なる歴史、制度、資源、通貨、地政学を持つ大国群である。
同じ新興国でも、市場との接続先が違うため、成長率だけで一括りにしてはいけない。
という理解になりました。
新興国を見るとは、成長率を見ることではあります。
でも、それだけではありません。
その国が何で稼ぎ、何に縛られ、どのような歴史的な型に沿って動きやすいのかを見ること。
その視点を持つだけで、BRICsという言葉の見え方はかなり変わると思います。
8. 今回の圧縮:新興国を見るための観測軸
今回、「金融マーケット予測ハンドブック」9章を読んでから、人民元、中国、インド、ブラジル、ロシアについて調べてきました。
もともとは、エマージング経済と金融市場の見方を理解するための読書でした。
ただ、調べていくうちに、単に「新興国の経済指標をどう見るか」という話だけでは済まないと感じました。
新興国を見るということは、その国の成長率を見ることではあります。
インフレ率を見ることでもあります。
通貨を見ることでもあります。
政策金利や貿易収支を見ることでもあります。
しかし、それだけでは足りません。
その国が、どのように形成されたのか。
どのような統治構造を持っているのか。
何で外貨を稼いでいるのか。
通貨はどの程度信認されているのか。
金融市場はどの程度深いのか。
資源はどのように使われているのか。
人口は成長力に変換されているのか。
地政学は追い風なのか、制約なのか。
こうしたものを合わせて見ないと、その国の市場の動きはかなり読み違えやすいのだと思います。
今回、最も大きな学びになったのは、「国や組織は、自分の成り立ちを簡単には手放せない」ということです。
中国は、中央集権的に巨大な国家を動かしてきた歴史を持っています。
その統合力が、改革開放後の製造業化、都市化、インフラ投資を大きく進めました。
一方で、その同じ統合力が、不動産、地方債務、過剰生産能力のような歪みも巨大化させました。
インドは、多様な文明圏を民主主義と連邦制で束ねている国です。
人口、内需、サービス産業、IT、英語圏との接続には強みがあります。
一方で、制度摩擦、州ごとの差、雇用吸収、インフラ、社会構造の重さがあります。
ブラジルは、植民地支配、奴隷制、大土地所有、一次産品輸出を土台に形成された国です。
農業、資源、水、土地、森林には大きな強みがあります。
一方で、その自然資本を持続的な高成長と産業高度化に変換するには、財政、通貨、格差、制度運営の壁があります。
ロシアは、内陸帝国として周辺を吸収しながら拡大してきた国です。
資源、軍事、領土、安全保障が強く結びついています。
そのため、簡単には崩れない耐久力を持つ一方で、資源を国際協働や産業高度化へ変換するより、国家維持や勢力圏維持に使いやすい構造があります。
このように見ると、新興国を一括りにすることの危うさが見えてきます。
中国、インド、ブラジル、ロシアは、同じBRICsとして語られることがあります。
しかし、それぞれの市場との接続先はまったく違います。
中国は、製造業、政策、不動産、人民元、外需、地方債務。
インドは、人口、内需、サービス、原油、ルピー、雇用、インフラ。
ブラジルは、大豆、鉄鉱石、原油、中国需要、レアル、金利、財政信認。
ロシアは、石油、天然ガス、制裁、ルーブル、軍事支出、地政学。
見るべきものが違います。
だから、今後新興国を見るときは、「新興国だから伸びる」という雑な見方は避けたいと思いました。
伸びる国かどうか。
それはもちろん重要です。
でも、もっと重要なのは、
何によって伸びるのか。
何に縛られているのか。
どの市場に接続しているのか。
通貨はどの程度信頼されているのか。
金融市場はどれくらい深いのか。
国家はどのように動きやすいのか。
過去の成り立ちが、現在の政策や市場にどう残っているのか。
このあたりを分けて見ることです。
今回、通貨についても少し深掘りしました。
人民元のSDR構成通貨入りをきっかけに、通貨の国際的地位は単一の指標では測れないことも確認しました。
中央銀行の外貨準備。
為替市場での取引量。
国際送金・決済。
貿易建値。
債券、貸出、デリバティブ、担保などの金融契約。
これらは、それぞれ違うレイヤーです。
通貨は、単なる支払い手段ではありません。
価格を測る物差しであり、契約の単位であり、信用を作る土台であり、危機時に逃げ込む場所でもあります。
この理解は、ブラジルのレアル・プランを調べたときにもつながりました。
レアル・プランは、壊れた通貨を単に新しい通貨に替えた政策ではなく、インフレで壊れた「価格の物差し」を作り直す政策でした。
通貨が信用されないということは、単に紙幣の問題ではありません。
価格表示、契約、賃金、会計、期待、金融政策、財政信認の問題です。
このあたりも、金融市場を見るうえではかなり重要だと感じました。
金融とは、お金が時間、信用、リスク、契約、市場をまたいで使われるときに現れる仕組みです。
だから、新興国を見るときも、単にGDPや人口を見るだけでは足りません。
その国のお金が、どのように信用され、どの市場に接続し、どのリスクを背負っているのかを見る必要があります。
今回の読書と深掘りを通して、自分の中では、新興国を見るための観測軸が少し増えました。
成長率。
人口。
産業構造。
資源。
外需。
内需。
通貨。
金融市場。
財政。
インフレ。
地政学。
統治構造。
歴史的な成り立ち。
これらを、バラバラの知識ではなく、ひとつの国を理解するための接続点として見ること。
これが今回の一番大きな収穫だったと思います。
最終的な圧縮としては、こうなります。
新興国を見るとは、高成長国を探すことではありません。
その国が持つ資源、制度、通貨、歴史、地政学が、どのように市場へ接続しているかを見ることです。
金融予測においても、これはかなり重要だと思います。
市場は、いきなり現在だけで動いているわけではありません。
その国の歴史。
制度。
産業構造。
資源。
通貨への信認。
国家の行動様式。
外部世界との接続。
そうしたものが積み重なったうえで、現在の価格や政策判断が出てきます。
今回の9章は、エマージング経済の章でした。
ただ、自分にとっては、新興国の経済指標を読むための章というより、国ごとの成り立ちと市場構造を接続して見るための入口になりました。
今後も国や地域を見るときは、表面の数字だけではなく、その国がどのような経緯で今の形になっているのかを確認するようにしたいと思います。
それでは、また。