こんにちは、よだかです。
分散型金融(DeFi)の仕組みが終了するとき、市場にはどのような利益機会が生まれるのでしょうか。
流動性の引き出し、取引の停止、トークンの償還、運営組織が保有する資産の処分。通常時とは異なる資金移動が発生する以上、どこかに価格の歪みが生まれるのではないか。
今回、その対象として調べたのがBalancerの段階的な運営終了です。
結論から書くと、現時点で、個人の自動売買によって取得できる、仕組みに由来する利益機会は確認できませんでした。
ただし、何も分からなかったわけではありません。むしろ、終了という出来事そのものと、第三者が利益を得られる取引との間には、いくつもの条件があることを確認できました。
終了という出来事は価格差を意味しない
Balancerでは、運営方針を決める投票を通じて、段階的な終了方針が決まりました。
主な予定は次のとおりです。
- 10月16日:V3パートナーの運営延長申請期限
- 10月30日:対象となる流動性プールを、資産の引き出しのみ可能な状態へ移行
- 11月30日:V3の資産管理契約(Vault)を一時停止
- 2027年:BALの償還など、資産回収手続きの開始
これらは、取引の観点から見ると興味深い出来事です。
例えば、トークン交換が停止すれば、そのプールで資産を売買することができなくなります。流動性提供者が資金を引き出せば、残ったプールの流動性も変化します。
ただし、今回確認したのは、予定日になれば一律に自動停止するわけではないということです。
プールごとの例外や運営延長があり、実際の一時停止には権限を持つ主体による操作が必要です。
つまり、終了予定日を知っているだけでは、利益機会が発生する時点すら確定しません。
約1万の流動性プールから候補を絞り込んだ
まず、Balancerの既存プールと関連資産を調べました。
16のブロックチェーンで9,938の流動性プールを発見し、そのうち1,122プールについて詳細データを取得しました。さらに外部での売買・資産交換経路や、ほかの金融サービスとの依存関係を調べ、優先候補14件を抽出しています。
ただし、これは完全な全プール調査ではありません。取引データの集計サービスには、情報の欠損や更新の遅れがあり得ます。また、外部の交換経路が見つかっていても、実際に利益を出せる数量で売買できるとは限りません。
加えて、最初の優先順位付けには、既存の研究候補や、預かり資産額の大きいプールが選ばれやすい偏りがありました。
そこで、後から取引量が多いにもかかわらず低優先度だった6プールを追加確認しました。4件のV3プールを含んでいましたが、終了に伴って生じる新しい利益取得の仕組みは確認できませんでした。
候補を多く集めることと、実際に取得できる利益機会を見つけることは別です。
ここからは、個別の取引構造を確認していきました。
プールを停止しても、第三者に利益が配られるわけではない
V3については、EthereumとMonadの5プールで、現在の状態、一時停止の権限、資産回収用の特別な状態への移行条件を確認しました。
調査時点では、対象プールはいずれも一時停止されていませんでした。
プールが一時停止された場合、通常のトークン交換や流動性追加が止まります。その後、回復モード(Recovery Mode)を利用することで、流動性提供者は自分の持分に応じた資産を引き出せるようになります。
興味深いことに、この回復モードを有効化する操作自体は、第三者にも開かれています。
しかし、だからといって第三者がプールの資産を自由に取得できるわけではありません。
実際に資産を回収するには、自分が保有するBPTが必要です。BPTとは、Balancerの流動性プールに対する持分を表すトークンです。
回復モードを有効化するだけで、報酬を受け取れる仕組みでもありません。
では、回収できる資産価値より安くBPTを購入できればどうでしょうか。
それなら利益機会になり得ます。しかし、そのためにはBPTの実際の購入価格、購入可能数量、引き出した構成資産を売却できる場所と価格を確認しなければなりません。
今回、それらを一つにつなぐ、実行可能な利益取得経路は見つかりませんでした。
884万ドルの流動性流出でも、価格はほぼ動かなかった
もう一つ調べたのが、20wstETH80AAVEという流動性プールで発生した大規模な資産引き出しです。
取引データの集計サービスによる評価額は約884万ドル。プールの流動性の約69.21%が一度に引き出されていました。
かなり大きな資金移動です。
そこで該当する取引をブロックチェーン上の記録から復元し、実際に何が起きたのか確認しました。
結果は、BPTを消却し、wstETHとAAVEを持分に比例して引き出す処理でした。
この方法では、プール内の資産構成比が維持されます。そのため、引き出し前後の交換価格も、計算上の丸め誤差の範囲でしか変化していませんでした。
流動性は約7割減ったのに、その引き出し自体は新しい価格差を作っていなかったわけです。
もちろん、流動性が薄くなれば、その後の取引に対する価格反応は大きくなり得ます。
しかし、それは次の取引や外部市場との関係を別途検証すべき話です。
約884万ドルという数字も、引き出された資産の推定評価額であって、市場で884万ドル分が売却されたことを意味しません。
この資産引き出しが直接生む裁定機会については、成立しないと判断しました。
BALには価格差が見える。しかし確定利益ではない
最後に、Balancerの運営方針に関わるトークンであるBALの償還を調べました。
将来的にはBALを消却し、運営組織が保有する資産を持分に応じて受け取る計画があります。
そこで、現在推定できる資産価値とBALの購入価格を比較しました。
| 項目 | 調査結果 |
|---|---|
| 運営組織の保有資産の部分評価額 | 約1,053万ドル |
| 条件付きの参考純資産価値 | 約0.1668ドル/BAL |
| 分散型取引所での購入見積価格 | 約0.1367〜0.1375ドル/BAL |
一見すると、BALを安く購入し、後から運営組織の資産を回収すれば利益になるように見えます。
ただし、ここには大きな留保があります。
まず、0.1668ドルは確定した償還価格ではありません。現在評価できた資産の部分的な純資産価値を、一定の条件で仮定した償還対象BAL数で割った参考値です。
さらに、運営組織が保有する主要なMorphoの資産運用先には、約240万ドルの帳簿上の評価額がある一方、調査時点で運営組織の管理ウォレットから即時に引き出せる数量はゼロという制約がありました。
資産として評価できることと、実際に換金できることは同じではありません。
将来の請求資格、最終的な配分対象資産、償還用の契約の実装、償還時期もまだ確定していません。
そこで、資金が拘束される期間や資産価値の変動などを仮定し、条件を変えた収益試算も行いました。
| 想定条件 | 条件付き収益率 |
|---|---|
| 基準となる条件 | +13.7〜14.2% |
| 資産価値の悪化などを考慮した保守的な条件 | -24.9〜-18.6% |
| 償還時期が延期された場合 | -40.4〜-23.2% |
これらは仮定に基づいて条件の違いによる影響を調べたものであり、予測収益率や実際の取引成績ではありません。
基準となる条件ではプラスになっても、回収価値の悪化や延期を考慮すればマイナスになります。
したがって、BAL償還については、長期の出来事をきっかけとした投資として検討する余地はありますが、現在取得可能な自動売買の利益機会としては確認できませんでした。
運営組織の資産移動にも、第三者が参加できるとは限らない
流動性プール以外についても、運営組織の資産移転や回収に関係する6件の案件を調べました。
例えばBIP-930では、過去の不正な資産流出に関係する約296.4 ETHの回収・配分を確認しました。
しかし、資産配分の対象は過去の流動性提供者です。現在トークンを購入した第三者が、その過去の権利を新しく取得できるわけではありません。
また、BIP-931では運営組織同士のトークン交換が扱われていますが、当事者間で直接行う取引が、そのまま外部の自動売買参加者に開かれた注文になるとは限りません。
出来事の規模が大きくても、その資金移動に第三者が参加できる仕組みがなければ、取引機会としては扱えません。
今回は利益機会を確定できなかった
最終的に、18の仮説の分岐を棄却しました。
これは18の流動性プールを丸ごと棄却したという意味ではありません。
例えば、「回復モードを有効化するだけで報酬が得られる」「過去の請求権を現在の購入で取得できる」「持分に比例した資産引き出しが直ちに価格差を作る」といった、具体的な利益取得の仕組みを個別に否定したものです。
一方、12の調査対象は保留として残しています。
残る未確定事項は、主にV3プールごとの運営延長・停止条件、将来のBAL償還仕様、運営組織による資産移転の実行内容です。
これらは、今さらに過去の取引記録を集めても解決しない部分です。
現時点で必要な情報が公開されていない以上、次の出来事が具体化するまでは、検証を進める理由がありません。
そのため、今回のBalancer研究は、積極的な調査を終了し、今後の発表や状態変更を監視する段階へ移行しました。
公式の運営延長・移行発表や、監査を終えた償還契約の仕様など、新しい事実が出たときに再評価する方針です。
利益機会の探索では、分かることと取れることを分けたい
今回の研究で繰り返し直面したのは、「市場の仕組みが変わること」と「その変化から利益を得られること」の距離でした。
仕組みの終了という大きな出来事があり、資金移動も観測できます。停止権限や償還予定も調べられます。
しかし、そこから実際に利益を取得するには、さらに確認が必要です。
第三者が取引できるのか。いつ取引できるのか。いくらの数量を扱えるのか。最終的に何を受け取り、いくらで売却できるのか。取引手数料や売買に伴う価格変動を差し引いても利益は残るのか。
この一連の取引が成立することを確認できなければ、まだ利益機会があるとは言えません。
今回は利益機会を確認できませんでしたが、少なくともいくつかの仮説について、どこで成立しなくなるかを具体的に確認できました。
そして、残る不確実性が将来の外部の出来事に依存するところまで整理できたので、ひとまず探索を終了します。
次に情報が更新されたときは、また同じ問いから始めればよいはずです。
それでは、また。