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🛠️開発記録#589(2026/10/12)償還を利益の出発点にしない――8候補を調べて考え直したこと

こんにちは、よだかです。

ここしばらく、DeFi(分散型金融)における「償還」を起点とした利益機会の探索を進めていました。

償還という仕組みを使えば、市場で安く取得した資産から、より高い価値を回収できるのではないか。

そんな考えから、さまざまなプロトコルの終了や資産移行、償還条件の変更などを調べてきました。

しかし、直近で8つの候補を調べた結果、個人の自動売買によって実際に取得できる収益機会は、1件も確定できませんでした。

もちろん、8件すべてで利益が出ないと証明されたわけではありません。条件が未確定のまま調査を止めたものもあります。

ただ、今回の研究を進める中で、もう少し根本的な疑問が生まれました。

そもそも、償還という仕組みを収益モデルの出発点にすること自体が、今の市場に合っていないのではないか。

今回は、8候補の調査結果を振り返りながら、この疑問に至った経緯と、償還系エッジ探索をいったん停止する判断について整理します。

なお、今回の記事でも研究の考え方と判断根拠を中心に扱います。個別市場の詳細な取引条件や、実際の執行に直結する検証手順については省略しています。


1. 償還を利益機会の出発点として扱っていた

以前の記事「償還というモデルから、実際に取れるエッジを探すまで」では、償還を利用した利益機会について整理しました。

【関連記事:開発記録#585「償還というモデルから、実際に取れるエッジを探すまで」】

考え方自体は、それほど複雑ではありません。

例えば、あるトークンを市場で安く購入でき、そのトークンを別の経路でより高い価値に交換できるのであれば、差額から利益を得られる可能性があります。

重要なのは、市場での取得価格と、実際に回収できる価値の違いです。

ただし、私はここでいう「償還」を、発行元へトークンを返して裏付け資産を受け取る行為だけに限定していませんでした。

別のチェーンへの資産移動、旧トークンから新トークンへの移行、プロトコル終了に伴う財務資産の分配なども、価値の回収という共通の視点から扱っていました。

過去には、異なる市場間で回収経路の状態が食い違い、実際に価値差を取得できた歴史的事例も確認しています。

そのため、償還という仕組み自体には、取引上の利益機会を評価するモデルとして一定の根拠があると考えていました。

しかし、仕組みとして利益機会が成立した事例があることと、それを現在の市場で継続的に探す価値があることは別です。

10月7日の記事を書いた時点では、償還というモデルを残しながら、より実際の市場に近いところで候補を探そうと考えていました。

その後、直近の8候補を調べたことで、この判断をもう一段見直すことになりました。

【償還モデルに対する認識の変遷】

当初の「償還による価値差に着目」から、「回収条件と取得可能性の検証」「独立した収益モデルへの疑問」を経て、「償還を回収手段として残す」までの変化を示す概念図。


2. 8候補の調査では収益機会を確定できなかった

今回調べたのは、ステーブルコイン、資産移行、プロトコル終了、トークンの買い取りなどに関係する8候補です。

それぞれ、現在進行中の出来事や、近い将来に予定されている仕組みの変更を起点に選びました。

調査では、回収価値の確実性、第三者による取得可能性、実際の取引費用、取得できる数量などを順番に確認しています。

最初の重要な条件を満たせなければ、それ以上の詳細調査に進まない方針です。

結果を簡単にまとめると、次のようになりました。

候補確認できたこと主な停止理由
Stride実際の資産回収と価格差費用・価格変動を考慮した利益が不確定
GMO償還制度と強制回収の予定回収条件と利用資格が未確定
Noble現行の資産退出経路検証市場で割引取得を確認できず
Stargate Hydra終了予定と退出機構割引供給・退出容量が不足
Mintlayer旧トークンから新資産への実着金新規取得者の交付条件が未確定
ParagonsDAOトークン交換と過去の実受取現行の回収・管理条件が未解決
Paystream清算決議の実行資金充足済みの回収経路が未確認
Tether CNH₮発行体による条件付き償還口座・銀行受取などの制約

興味深かったのは、単純に「仕組みが存在しない」という理由で落ちた候補ばかりではなかったことです。

例えばStrideでは、実際に資産を回収できた事例を確認しています。

市場で取得する際の価格差も観測できました。

しかし、実際の費用や資金拘束、回収までの価格変動を考慮すると、安定した利益として評価するには不十分でした。

Nobleでは、表示上は価格差があるように見えても、実際の取得条件を反映すると、その差が消えることを確認しました。

一方、MintlayerやParagonsDAOでは、実際の資産交付や受取まで確認できています。

それでも、新たに市場で取得した第三者が同じ価値を確実に回収できるかという点には、未解決の条件が残りました。

償還制度の存在と、個人の自動売買で利益を取得できることは、やはり別の問題でした。

今回の8件については、すべて積極的な調査を停止しています。

ただし、これは各候補の価値がゼロであるとか、将来も利益が生まれないという意味ではありません。

現在確認できた証拠と、自分が投入する研究時間を比較した結果、継続して調べる優先度が低いと判断したものです。

【8候補の調査結果一覧】

8候補を「回収実績の確認」「割引取得の確認」「主な未解決条件」「研究判断」で比較する一覧図。不採算が確認されたものと、条件未確定のため停止したものを明確に区別する。


3. 調査の中心が回収条件の確認に偏っていた

8候補の調査を進めるうちに、少しずつ違和感が出てきました。

回収の仕組みについては、かなり細かく理解できるようになってきました。

償還比率はどのように決まるのか。

回収に必要な資金は確保されているのか。

誰に請求権があるのか。

新しく取得したトークンでも同じ権利を行使できるのか。

こうした問題は、実際に資金を投入するのであれば、当然確認しなければなりません。

しかし、これらの調査を進めても、肝心の問いにはほとんど答えられていませんでした。

なぜ、その資産を回収価値より安く売る人がいるのでしょうか。

この点です。

例えば、プロトコルの終了が発表されたとします。

資産を回収する手続きが始まり、保有者が資金を移動することもあるでしょう。

しかし、それだけでは市場に割引売却が発生するとは限りません。

保有者が通常の手続きで資産を回収できるのであれば、わざわざ安い価格で売る必要がないからです。

以前のBalancerの終了に関する研究でも、似た問題に直面しました。

【関連記事:開発記録#586「Balancerの終了は取引の利益機会になるのか――仕組みの変化と利益取得のあいだ」】

プロトコル終了に伴う資産移動や、取引条件の変更は確認できました。

しかし、それが第三者にとって利益を取得できる取引になるかどうかは、別途確認する必要がありました。

今回の償還研究でも、同じような構図が繰り返されています。

出来事があることと、その出来事によって市場に利益機会が生まれることは違います。

そして私は、回収の仕組みを先に調べるあまり、利益を生む市場の動きそのものを十分に確認できていなかったのだと思います。


4. 償還は価格差を縮める仕組みでもある

ここで、償還という仕組みそのものについて考え直すことにしました。

そもそも、償還は何のために存在するのでしょうか。

例えば、ある資産を一定の価値で確実に回収できるのであれば、その回収価値は市場価格を支える一つの基準になります。

市場で安く売られていれば、回収できる参加者が購入します。

その結果、市場価格は回収価値へ近づいていきます。

つまり、償還は利益機会を生む仕組みである以前に、価格差を解消する仕組みでもあるわけです。

もちろん、すべての価格差が即座に消えるわけではありません。

資産の移動に時間がかかる場合もあります。

償還できる参加者が限られている場合もあります。

回収まで資金を拘束されることもあれば、そもそも予定どおり回収できる保証が十分ではない場合もあります。

こうした条件が存在すれば、市場価格が回収価値を下回ったままになることも考えられます。

ただし、ここでもう一つ問題が生まれます。

その価格差は、本当に市場の非効率なのでしょうか。

例えば、回収に時間がかかる資産が安く売られていたとしても、その割引は資金拘束や回収リスクに対する合理的な評価かもしれません。

他の参加者が回収できないために価格差が残っている場合、自分も同じ制約を受けるのであれば、その差を利益として取得することはできません。

整理すると、償還が容易で確実な市場では、価格差は競争によって縮まりやすくなります。

一方、償還が難しい市場では、価格差が残る可能性があるものの、回収そのもののリスクも大きくなります。

この二つの間に、個人の自動売買が継続的に利益を取得できる領域が、どれくらい残っているのでしょうか。

今回の研究を通して、そこに疑問を持つようになりました。

【償還のしやすさと価格差の関係】

「償還しやすい市場では価格差が解消されやすい」「償還しにくい市場では価格差が残っても回収リスクが増える」という二つの構造を左右で比較する概念図。実測された市場全体の統計ではなく、仕組みの説明として示す。


5. 現在の市場と個人の自動売買には相性の問題がある

もう一つ考えたいのは、償還を利用した取引が、現在のDeFi市場や個人の自動売買にどの程度適しているかという問題です。

一般に、回収経路が整備され、資産を移動しやすくなれば、参加者は価格差を解消しやすくなります。

競争も起きやすくなります。

そのような市場では、単純な価格差を見つけても、実際の取引費用を差し引くと利益がほとんど残らない可能性があります。

逆に、回収経路が複雑だったり、取引できる市場が限られていたりする場合には、そもそも個人では参加できないことがあります。

さらに、今回調べたプロトコル終了やトークン移行のような出来事には、もう一つの問題があります。

同じ種類の利益機会が、継続して発生するとは限らないことです。

自動売買の仕組みを作るのであれば、取引一回あたりの利益だけでなく、対象となる取引がどれくらい繰り返し発生するかも重要です。

単発の出来事から利益を得られたとしても、その機会を探して待ち続けるための負担が大きければ、継続的な収益戦略としては弱くなります。

また、回収に長い時間がかかる場合は、その間に利用できなくなる資金のことも考えなければなりません。

資金を長く拘束して得られる小さな利益と、別の取引に資金を使う機会を比較する必要があります。

もちろん、償還を利用した取引が現在の市場で成立しないと結論したわけではありません。

今回調べた8件は、市場全体を代表する統計的な標本でもありません。

しかし、少なくとも自分が現在扱える市場、資本、執行環境、研究時間という条件で考えれば、償還を独立した収益モデルとして追いかける優先度は、当初考えていたほど高くないのではないか。

そのように判断するようになりました。


6. 償還を独立した探索テーマから外す

ここまで考えて、償還系のエッジ探索をいったん停止することにしました。

ただし、償還という考え方自体を捨てるわけではありません。

ここは重要な区別です。

償還は、価値を回収するための手段として残します。

市場で何らかの価格の歪みが発生したとき、その資産をどのような経路で回収できるのかを知っていることには、引き続き価値があります。

実際、過去には償還に近い構造を利用できた歴史的事例も確認しています。

ただ、それを理由に、現在も償還の仕組みを探し続けることが最適とは限りません。

今回見直したのは、償還という仕組みを研究のどこに置くか、という部分です。

これまでは、償還制度や回収できる資産を見つけ、そこから利益機会を探そうとしていました。

今後は、もう少し市場そのものを出発点にしたいと考えています。

市場参加者が、どのような事情で取引しているのか。

なぜ、ある方向への売買や資金移動が発生するのか。

そこで生じる価格差や負担は、誰が引き受けているのか。

そして、自分はその市場で実際に利益を取得できるのか。

こうした問いを先に考えます。

必要になれば、その途中で償還や資産移行の仕組みを調べればよいはずです。

これは最近進めている清算研究とも、方向性としてつながっています。

【関連記事:開発記録#588「清算を探すのではなく、『清算可能になる瞬間』を追う」】

清算研究では、単に清算という出来事を探すのではなく、実際に清算可能な状態がどのように生まれ、そこに自分が参加できるかを考えるようになりました。

今回の償還研究でも、似た方向へ認識が変わっています。

仕組みの存在そのものではなく、実際の市場で何が起こり、どのような条件で利益を取得できるかを見る。

この点は、今後の研究でも大切にしたいと思います。

【利益機会の探索起点の変更】

従来の「償還制度を発見 → 回収価値を確認 → 市場の価格差を探索」と、今後の「市場の需給・参加者の制約を観測 → 利益の発生源を検証 → 必要な回収手段を選択」を左右で比較する図。


今回、8候補を調べた結果、実行可能な利益機会は確定できませんでした。

一方で、償還や資産移行に関する仕組みへの理解は、以前より深まったと思います。

そして、その理解が進んだからこそ、償還を独立した収益モデルとして追いかけることに疑問を持つようになりました。

10月7日の記事では、償還というモデルを残し、実際の市場に近いところで探索を進めようと考えていました。

そこから数日で、独立した探索テーマとしてはいったん下ろす判断に変わりました。

もちろん、これが最終的な正解かどうかは分かりません。

今後の市場で、償還によって利益を取得できる条件が新たに見つかる可能性もあります。

ただ、現時点で確認できた事実と、自分が取引できる条件を考えると、今は別の市場構造へ研究時間を使う方がよいと判断しています。

償還を理解することと、償還を使って利益を得ることは違います。

そして、償還を使って利益を得られる可能性があることと、償還を起点に利益機会を探し続けるべきことも違います。

今回の研究で変わったのは、償還という仕組みの理解だけでなく、利益機会をどこから探すのかという考え方そのものだったのだと思います。

償還は、必要になったときに使える回収手段として残します。

ここからは、実際の市場で発生する売買や需給の変化、参加者の制約に、もう少し直接目を向けていこうと思います。

それでは、また。

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